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ぽかぽか日記 緊急停車

「緊急停車します」
減速する車内に流れる無機質なアナウンス。

「この先の踏切から以上を知らせる警告がありましたのでしばらく停車します。安全の確認が。。。」
電車が止まったのは踏切だった。

この路線では珍しいことではない。
ほぼ毎日のように電車が止まる、遅れる。
「またか。。。」と心の中でつぶやく私。
急いでいる訳ではないからいいんだけど。。。
と思いながらふと車窓から外を見る。

車数台が踏切が上がるのを待っていた。
歩道には制服を着た女の子。
中学生くらいかな。

風がやや強い日だった。
女の子は自分の両腕で自分の身体を抱きしめるようにして止まった電車の先に視線を送っていた。

いつ運転が再開するか分からない電車に足止めを食らい
冷たい風に吹かれるなんて大変そうだな。
暖房が効いた暖かい車内でそう思った。

僅か1~2分の間に踏切が上がるのを待つ車の台数が数台増えていく。
そして女の子の後ろから3人の学生服を着た男の子たちがゆっくりと歩いてきた。
彼らもこの踏切で足止めをくらう羽目になった。

「あの子たちもしばらく待つことになるのだな。早く帰りたいだろうに。。」

と思っているとひとりの男の子が女の子に近づいていく。
同じ学校の生徒?
クラスメイトかな?

歩きながら男の子が女の子に声をかける。
女の子は一瞬驚いた様子を見せて振り返る。
鳴り響く踏切の音。
男の子が近寄っていたことに全く気がついていなかったのだろう。

男の子が何か話しかける。
手には畳まれたジャージが乗っている。
ジャージを女の子の方へ差し出した。

一瞬驚いた素振りを見せた女の子はジャージを受け取り笑顔で軽く頭を下げた。
どうやら女の子が忘れたジャージを男の子たちが持ってきてくれたようだ。

微妙な距離で笑顔で会話する2人とその様子を少し離れた場所から眺める2人の男の子たちはとくにひやかす風でもなく
ニヤニヤしている感じでもない。

女の子と男の子はやや距離を取り会話している。
仲が良い感じではないけど悪くはない。。。そんな距離感。
同じクラスでもお互いあまり話したことはない。。。そんな感じかな。

「安全の確認が取れましたので。。。」
発進を告げるアナウンスが車内に流れゆっくりと電車が動き出す。

2人は微妙な距離のまま何やら会話を交わしていたけれど車窓から見える景色は流れ出し、2人の姿は見えなくなった。

電車が止まり車内で暇になるかと思いきや心が和む場面に出会った。
想定外の出来事で足止めをくらうとイライラしてしまうけど怒っても物事が動き出すことはない。
周囲の景色を見渡してみると面白いことに気が付いたり思いがけない場面を目にしたりも出来るので意外と楽しい時間になったりもする。

心にゆとりを持って柔軟に気持ちを切り替えることでイライラや怒りから自分を遠ざけることができる。

あの2人はその後どうしたのかな?
一緒に帰る。。。?
その場でバイバイして女の子はひとり?
それともみんなで帰ったのかな?

気になるほどでもないけれど
もう少しあの二人のやりとりを眺めていたかったな。。。

ありがとうございました



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