【天使が通る】
 
フランスのことわざ。
 
会話が途切れた状態を表す言葉。
 

急に会話がなくなる…すると、
 
「今、天使が通ったね」
 
咄嗟とっさにこれが言えるフランス人。
考え方までオシャレなんだと思った。
 
 
デート。
 
「結構、笑ったなあ」
「あれ私も面白かった」
 
「……」　「……」
 
会話のピークから…
急に訪おとずれる静寂せいじゃく…。
 
外の沈黙ちんもく…。
内の鼓動こどう…。
 
（何を考えてるの？
　想像するのが……怖い）
 
その日からは…
たくさん映像を見るようにした。
 
人気ワード。
ランキング。
 
ネット情報いっぱいポッケに詰つめ込んで。
 
会話が途切れないように…。
 
 
何回目かのデート。
 
「あの映画観に行こうよ」
「あれ人気だよね。
　知ってた？
　あの映画の主人公って…」
 
あれから沈黙の間魔は現れない。
2人の時間は常に言葉が埋うめてくれた。
 
でもある帰り道に…気づいてしまう。
 
会話は滑なめらかに
流れるようになったけど…。
 
不安と高揚こうようが混ざった
あの感情は……どこ？
 
古いページを読み返す…。
 
緊張はしてたけど、
あの頃は…あれはあれで楽しかった。
 
辿々たどたどしくも、
気兼ねや気負いのない無邪気むじゃきな言葉が、
無意識に口から零こぼれ落ちる…。
 
ただ好きを贈おくってた。
 
話が続かなくても…
なぜか満たされていた心。
 
きっとあそこに、
天使はいたんだ…。
 
……。
 
公園のベンチに座る老夫婦を見て…
そんなことを思い出す。