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とてつもない数学/永野裕之【本要約・ガイド・目次】

数学は、
・奇人変人だらけの天才数学者たちが織りなす壮大な思考の歴史
・たった数行の数式で世界や宇宙の物理法則を記述する
・絵画、彫刻などの美術や音楽などの芸術、あるいは自然の美しさの背景には、数学理論に裏づけられた法則がひそんでいる
・インターネット、統計、AIなど、現代社会、テクノロジーを下支えしている
というように、学問としての奥行き、美術や音楽を語れる芸術性、実学としての有用性が揃ったとてつもない学問である。
本書は、「とてつもない」という切り口から数学の魅力を伝える。文系でも理解できるわかりやすさと読み物としての面白さを兼ね備えた数学エッセイ。
・・・ピタゴラス、デカルト、フェルマー、ニュートン、ライプニッツ、オイラー、ガウス、カントール......などの天才数学者たちの功績を紹介し、彼らがもたらした方程式、関数、微分積分、集合、確率、統計......といった数学上のブレイクスルーの意味をお伝えした。また、負の数、虚数、無限、 進法といった概念や、円周率やネイピア数という不思議な定数とその影響力の大きさ等についても書いた。
数学の大きな魅力の1つである「美しさ」にも1章を割いたし、魔方陣や万能天秤といったパズル的な話題を通して、数そのものの不思議さが感じられる「計算」も紹介した。我ながらヴァラエティに富んでいると思う。それだけ数学という学問は間口が広いのだ
(本書の「おわりに」より)。

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突然ですが問題です!

「横浜市に住んでいる人のなかで、髪の一本一本が同じ数だけ生えている人はいるでしょうか?」

一日に落ちる髪の数や微細な産毛まで考慮に入れると、「そんなものは分かるはずがない」と断言する人々が大半を占めるだろう。
だが驚くべき事実は、「確かに存在する」ということだ。
「なんて適当な!」と疑う声が聞こえてきそうだが、これは数学的な理論、すなわち「鳩の巣原理」を用いて証明できるのだ。

鳩の巣原理とは何かというと、例えば、3つの巣に対し4羽の鳩が存在するとしよう。4羽すべてが巣に収まるとすると、一つの巣には必ず2羽以上の鳩が存在する、つまり“共有巣”が“確実に”生まれるという原理だ。この謎に当てはめてみると、横浜市の人口(鳩)は、一人の髪の毛の本数(巣)よりはるかに多い。それゆえ、同じ巣(髪の毛の本数)に収まる人々は確実に存在する。したがって、数学的には「絶対に存在する」と断言できるのだ。

数学はこのような複雑で絡み合った問題さえ一瞬で解き明かす、最高の論理的美しさを持った学問だ。数学への恐怖心からくる「数学アレルギー」を持つ人も多いかもしれない。だが、現代のビジネスパーソンにとって欠かせないロジカルシンキングや統計学、デザイン思考のすべては、最終的に数学に辿り着く。数学は、我々の現在を生き抜くための重要な教養である。

本書は、軽快な視点から深遠な「数学の沼地」へと読者を誘う旅案内人のような存在だ。数学が好きな人も、そうでない人も、読んで損はない。ぜひ、その手に取ってみて、数学の信じられないほどの楽しさを自身で感じてみてほしい。

  • 巨大な数字を「単位あたりの数」に変換することで、具体的に理解しやすくなる。

  • 数学の古典、『原論』には論理的思考法の基盤が詰まっており、西洋のエリートたちはこれを必読書としている。「論理力」はリーダーとしての必須の資質である。

  • 「ベンフォードの法則」を用いると、不正な会計や投票の不正までも見破ることが可能になる。

  • 相関関係があるからといって因果関係があるわけではない。統計を適切に読み解くためには、しっかりとした理解力が必要である。

数学の驚異的な魅力: 1兆の理解


「1兆」という数値を、あなたは具体的にイメージできるだろうか?「何兆個」という概念と日常的に接触する機会は稀で、その大きさを感じるのはなかなか難しい。

それでは1から始めて1兆まで一つずつ数え上げるとどれくらい時間がかかるか考えてみよう。1時間は3600秒であり、1日は24時間だから、1日はおよそ9万秒となる。それを考慮に入れて1日で大体10万まで数えられるとすると、1年で約3650万、それが3年続けばおよそ1億。だから、1兆まで数え上げるのには約3万年を要する計算になる。3万年前といえば、ネアンデルタール人が地上から姿を消した時期と同じである。

また、1兆メートルというと、それは地球を約2万5000回巡回する距離に相当し、地球から太陽までの距離の約6.7倍ともなる。このように具体的な実例を用いて意味付けすることで、「1兆」という数値が想像を絶する大きさを示すことが理解できるだろう。

単位量あたりの大きさを活用した意味付けは、他人を説得する際に非常に重要となる。2008年にアップルのイベントで、スティーブ・ジョブズは初代iPhoneが「発売から200日間で400万台売れた」と発表した。その際、「これは毎日2万台売れたことになる」と追加の説明をした。ジョブズは「1日あたり2万台」という単位量を巧みに使い、聴衆が瞬時に数字の大きさを理解できるようにしたのだ。

巨大な数字を理解しやすい小さな数字に分解するこの手法は、様々な場面で利用可能である。

数学の無限大への突入: 累乗の絶大な力


「2×2×2」のように、同じ数を何度も掛け合わせる操作を累乗と言います。その回数が増えると、その成果は突如として爆発的に増大します。

新聞紙を折りたたんだ時の厚さを考えてみましょう。新聞紙の厚さを0.1ミリメートルとした場合、その紙をn回折り曲げるとその厚さは0.1×2^nミリメートルとなります。14回折りたたむと約164センチメートルとなり、一般的な成人女性の身長を上回ります。しかしこの後の変化は急激です。30回折ると約170キロメートル(東京から熱海までの距離)になり、42回で月までの距離(約38万キロメートル)を超えてしまいます。累乗は一定のポイントを超えると爆発的に増大することが分かります。

この累乗を応用した指数関数を用いると、社会現象さえも説明することが可能となります。18~19世紀に活動したイギリスの経済学者マルサスは、彼の著書『人口論』の中で、「将来的に人口は等比数列的に増加する」と予測しました。「等比数列的に増加」とは、「1、3、9、27、...」のように、最初の数を一定の数で何度も掛け合わせて増やしていくことです。この増大の仕方は累乗のそれと同じです。

事実として、19世紀末から世界人口は「人口爆発」と呼べるほどのペースで増大し続けています。1800年には約10億人だった世界人口は、200年後の2000年には61億人にまで増えました。2056年にはさらにその数が100億人に達すると言われています。

指数関数という素朴な初等関数を用いることで、人間の自由意志に基づく社会的活動までが表現可能となります。そのことから、数学の可能性の無限大さを感じずにはいられません。

整数の神秘


0とその進行 整数とは、0から始めて1つずつ増やす(1、2、3、...)か、または1つずつ減らす(-1、-2、-3、...)と得られる一連の数値のことを指します。整数は私たちの日常生活に深く根ざした数字ですが、その特性は依然として神秘に包まれています...

目次

■頭髪同数問題
横浜市内に髪の毛の本数がまったく同じ人が複数いるか
⇒鳥の巣原理
・ガリレオガリレイ:宇宙は数学と言う言語で書かれている
・岡潔:数学と言うのは闇を照らす光なのであって、白昼には要らないのですが、こういう世相には大いに必要になるのです

■1章 とてつもない数式;数で世界の全てを記述する
▼負の数は数学界のパラダイムシフト
・カラスやハチも数を数える?
・「偽物」と呼ばれた数
・マイナス3個のパンを想像出来ますか?
・人工衛星と二人の力士
・ノイズキャンセリングの技術は負の数のおかげ
▼1兆という「量」を想像できますか?
▼累乗は爆発的に増加する
▼数学の女王と整数の不思議
▼素数はいまも未解明

■2章 とてつもない天才数学者たち:奇人
▼変人たちが抽象思考の極北に挑む
▼欧米エリートの必読書『原論』とユークリッドの謎

▼悪魔の頭脳を持つ男とゲーム理論
▼インドの魔術師の驚異のひらめき
▼無限を捉えた数学者の闇
▼不完全性定理を証明した完璧主義者

■3章 とてつもない芸術性:感性に訴える数学の「美」
▼数学の美しさは内的快感にある
▼ピタゴラスと数秘術
▼数学は音楽や天文学だった!?
▼曲線の博物館へようこそ
▼タイルを敷き詰める数学

■4章 とてつもない便利さ:現代社会のテクノロジーを支える
▼1対1対応と秀吉のひも
▼フェルミ推定と「だいたい」
▼先頭に来ることが最も多い数字
▼有益な情報の見つけ方
▼統計が国家を変えた

■5章 とてつもない影響力:世界史は数学とともに発展した
▼大きな数はN進法で攻略せよ
▼ネイピア数は科学を支える
▼人類は円周率を探求する
▼虚数と量子コンピュータ

■6章 とてつもない計算:インド式、便利な暗算、数学パズル
▼魔方陣で頭の体操
▼万能天秤を知っていますか?
▼両手を電卓にする方法
▼2桁の掛け算をすぐに暗算
▼+-✕÷はいつ生まれた?


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