新幹線代

10時くらいで、店内にはママともう1人お客さんらしき方しかいなかった。
ナポリタンとホットコーヒーを頼んで、友人はチョコレートパフェとミルクティーを頼んで、フフフと和やか空間を楽しんでいた。

シャラ〜ンと扉が空いて「ナポリタンと◎△$♪×¥●&%#!」と、大声おじさんが注文しながら入店してきた。大声おじさんは横のテーブルにかなりドカッと座り、大声おじさんの後から小声おじさんが座った。
私と友人の間に流れていた和やか空間は刹那的であった。

遅れて、ふくよかな女性が合流していた。大声おじさんはふくよかな女性のことを、「ふくよか」のいちばん近くにある悪口で呼んでいた。
それは悪口と言うよりか、大声おじさんにとっては愛称に近そうだったけど、それにしても言葉強いね〜と思った。

大声おじさんは声を張り上げてママに話しかける。

「こいつさー妊娠してんの!来月産まれるのに先週まで気づいてなかったってヤバくない?テメェは太ってるからだよ!」

チラッと横目で見たら、女性は「もうやめてよ笑」というテンションだったので安心した。こういう関係性なのだ。

え〜、臨月まで気づかないって、そんなことあるんだ!?!?

「まじで良く流産しなかったよな!プールとか行ってたんだぜこいつ!酒も飲んでたよなあ?」
「もうやめてよ笑」

本当に赤ちゃん無事で良かったよ。え〜、本当にそんなことあるんだ!?!?

と思っていたら、目の前に座っている友人からLINEがきた。

その後も大声おじさんは、個人情報を大声でツラツラ並べていた。女性が「もうやめてよ笑」と言い、小声おじさんは小声で相槌を打つ。
なかなか面白いところに来た、とこの辺りで確信した。

ママが「初産なの?」と聞くと、「なわけないだろ!7人目!」と大声おじさんが返した。女性は「1番上の子は28歳」と言った。

ええ〜!?!?7人目!?!?大声おじさんの冗談かと思いきや、本当かい!28歳のお母さんなの!?見た目若〜!

友人と本当に上辺の会話を口にしながら、心のなかでビックリマークとはてなマークをコロコロ浮かべていると、おじさんたちのテーブルから音が聞こえた。

パンッ パンッ パンッ

大声おじさんが新聞を丸めたもので、小声おじさんを叩いていた。

大声おじさんと目が合う。大声おじさんが新聞を丸めたものを私に差し出して、言う。



「叩く?」

「いや、大丈夫です」


女性は「もうやめなよ笑」と言い、友人は肩を震わせていた。叩かれていた小声おじさんの背中。


次の瞬間、「今、赤の他人を叩けるチャンスがあったな」、と思った。赤の他人を叩けるチャンスをみすみす見逃してしまった。

その後も話を盗み聞いていると小声おじさんは今日が誕生日らしかった。やっぱり、叩かなくてよかったと思った。知らない小娘に背中を叩かれる誕生日なんて、最低の中で最悪だ。

大声おじさんは自分の焼きうどんが届いたときに、ママに向かって「ありがとう」と言っていた。文字にするのが憚られるほど言葉が強かった大声おじさんだけど、大声おじさんには大声おじさんの大事なものがあるんだねと思った。

3人はご飯を食べるとすぐに席を立って出ていった。席を離れる時に小声おじさんが「ごめんね、うるさくって」と小声で言ってくれた。
私はこの3人組のことを、一生忘れずに一生好きでいようと思った。赤ちゃんも無事に生まれますように。

その後、私たちもお会計をした。私がお会計をしている間に、サインを撮っていた友人は「はるな愛のファン」だと、後から来たであろうサイン付近に座っていたおじさんに決めつけられていた。

後から来たであろうサイン付近に座っていたおじさんは棚からはるな愛のサインを取り出して、友人に持たせていた。戸惑っていた友人も「ここははるな愛のファンで行こう」と覚悟を決めた顔で、サインの写真を撮っていた。

ママははるな愛を「愛ちゃん」と呼んでいたし、愛ちゃんは2023.9.17というかなり最近来店していた。その後外に出て、新幹線代ぐらいは満足したからもう帰ってもいいね、と話した。

友人の覚悟が伺える一枚

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