33. 日常から得るもの
「何でも書くことに結びつけているんですね」
最近、人からこのように言ってもらえることが多いです。そして自分も、「ネタは日常にある」、そう思っています。(‟ネタ”という言い方は時としてあまり良くないが)
というのも、私が文章で表現したいことは人の「人生」や「感情」だから。
ストーリーを介して「人」そのものをリアルに表現していきたい。そのためには、自分だけの価値観や想像力では限界がある。そう思っています。
そのため、外で人と触れる時は、常にアンテナを張り巡らせているつもりです。それは自分が直接人と話さない時も同様。人と人との会話から得られる発見や気づきも、大いにあると感じています。
私の本業は医療クラークなので、先生(医師)と患者さんの会話内容をカルテに記載するといった業務があります。いつも診察室の隅で息をひそめ、キーボードをポチポチ叩いているのですが、この時も私のアンテナは元気に稼働。もはや最近はほぼ無意識の領域です。
先日、出張医の先生についている時。
その時の患者さんは、もうすぐ高校受験を控えている男の子でした。
「高校卒業したらどうするの?」「進学?就職?」
そう訊く先生を前に、男の子は「いや~……」と首を傾げて考えている様子。
うんうんそうよね。そのくらいの年齢の時って、将来のことなんて聞かれても上手く答えられないよね。ていうか、よく分からないよね。うんうん。
と、私は心の中で頷きながらキーボードを叩いていました。
すると先生は
「大丈夫、やりたいことはゆっくり見つけていけばいい。でも探すことを怠ったらダメだよ。自分に合うものを見つけた人は、人生楽しいからね。その方がいいでしょ?」
そのようなことを言ったんです。
私はすぐにキーボードを叩く手を止め、目の前にあったふせんをペッと剝ぎ取りました。
メモメモ。よし。
そしてこっそりとそのふせんを手帳に貼りつけ、持ち帰ったんです。
このセリフ、いつか小説のなかでそのまま使おう。咄嗟にそう思いました。
他の人が聞いたらなんてことはない言葉かもしれません。仮にそうであったとしても、その時胸に響いた言葉は私の腕次第で、いくらでも作品に活かすことができます。現場で体感して得た生きた言葉を活かすことで、作品にリアルを持たせることができます。作品自体はフィクションであっても、そこに込められた想いや感情だけは、ノンフィクションにすることだって可能になるんです。
自分一人だと味わえない感情も、思いつかない言葉も、日常で人と接することで得られる貴重な気づき。
その気づきを逃さないためにも、これからも私はアンテナを常に張り巡らせて生活をしていこうと思います。
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