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芙蓉文學館

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わたくしが書きました文學作品をこちらでご紹介させて頂きます。
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七十二候【桃始笑】(ももはじめてわらう)

 西日の横切る机で一人帰り支度をしておりますと、級友の千鶴子さんが桃の大輪を携えてお辞儀をするように扉を潜ってまいりました。と申しますのも、わたくしたちの学び舎には教壇の脇に古ぼけた花台が据えられておりまして、華道の心得のある生徒が持ち回りで花を生けておくという風習があるのです。  今日は千鶴子さんの番でしたようで、素焼きの花瓶に鮮やかな桃色の花がまるで風景の一部を切り取ったかのように咲いております。 「紅子さん、お待たせしてしまったわね。ごめんあそばせ」 「いいえ千鶴子さ

処女小説『お嬢様と(以下、「乙」という。)』を公開いたしました。

ごきげんよう。 本日はわたくしの処女小説、『お嬢様と(以下、「乙」という。)』を公開させていただきました。本作品はコミック百合姫さまの百合文芸小説に応募しております関係で、こちらではなくpixivさまにて公開しております。   下記御案内よりご覧いただけましたら嬉しゅうございますわ。https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10666348

今日詠んだ俳句 1月9日

霜柱眺むる口もひび割れて 裸木やぼうと見守る竹箒 寒晴に払う筆哉雲一つ

最近詠んだ俳句(冬)

塵積もる三十日の本棚堆く ユリカモメ首寒し鳴く隅田川 舞う葉落ち姿寄せ合う浮寝鳥 鈍色に裸木寂し翁の忌

女學生日乗ー怪談

 あれは雷鳴轟く夏の終わり、雨降る放課後のことでしたわ。    わたくしは或る先生にお手伝いを頼まれまして、古い教材を旧校舎へと運ぶお仕事をしておりましたの。  一人では少し量があったものですから、わたくしは後輩の子達と荷物を分担して、戯れ合いながら廊下を歩いておりましたわ。  もう殆どの子は帰った後のことでしたから人影は無くて、硝子窓に雨が打ち付ける音はするのですけれども、他に聞こえるものといったら私達の話し声くらいのものでしたわ。  京紫の袴姿でそろそろと歩きます私達数人