冬月mai / 小説

現実の匂いがするファンタジー|余韻ある物語を|純文学・ファンタジー|海のある町で育つ|…

冬月mai / 小説

現実の匂いがするファンタジー|余韻ある物語を|純文学・ファンタジー|海のある町で育つ|1995/2/1|福岡出身|九州大学/フランス文学|昆虫着想小説|『僕と、蚕な君』230冊販売中|ラジオ「月下虫音」出演|西日本新聞『シン・フクオカ人』|shop「冬月や」

マガジン

  • カフェで読む物語【不定期 更新】

    2.3分で読める、小さなお話。 例えば、カフェでコーヒーが出るまでの待ち時間に読んでもらいたい、ワンシーン小説です。 ちょっと1話、読んでいきませんか?

  • 小説紹介記事

    私が書いている小説の紹介記事になります。 作品ページへのリンクを貼っていますので、気になるものがあればぜひのぞいてみてください!♪

  • 短編小説『Holiday-land』

    平日と休日の境目が深くなった人に現れるという“Holiday-land”。 その世界にあなたも訪れたことがあるかもしれない……

  • #今日という日(エッセイ集)

    日常の中で思ったことをつらつらと。 イラスト描いてます。

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    『僕と、蚕な君』

    『僕と、蚕な君』は、全56ページの短編小説です。 同書籍内に『泣けない、鈴虫』というお話も同時収録されています。 書籍コンセプト、各物語のあらすじは下記よりご覧くださいませ。 読まれましたあとは、ぜひご感想をお寄せくださいませ。 感想フォーム▼ https://forms.gle/WGJCJ4nvYz56UsqW7 * * * 昆虫着想小説 - the novels inspired 
 by insects - 生き物の生態とは面白いものだ。遺伝子には予め、あるプログラムが書き込まれていて、誕生・成長・死までの過程で、それが身体的変化や行動として表出する。個体を超えた
種全体の目的、長い進化の歴史の中でその種が選び取った“選択”をそこから読み
取ることができるのではないかと思う。 ■僕と、蚕な君 世界で唯一、野生回帰能力を完全に失った「家畜化された昆虫」と言われる蚕をモチーフとするファンタジー小説。 
絵を描くことに情熱を燃やし続ける少女マユ。そんな彼女から、「僕」はいつしか目が離せなくなる。寝食を忘れて描き続ける彼女に、思わず同居を提案し、奇妙な共同生活がはじまった。
彼女を中心に回り始める世界。だけど彼女は普通の人間ではなくて――。 ファンタジーでありながら、現代世界を舞台に、リアルな感情・リアルな距離を込めた物語。 ■泣けない、鈴虫 雨上がりの夏の夜、駅のホームでは鈴虫が泣いている。遅延電車の待ち時間という、ふいに訪れた
エアポケットのような時間。「私」は「彼女」との歪な人間関係に思いを巡らしはじめて…… 高く
擦り切れるような鈴虫の音は、次第に求愛の“必死さ”を帯びて聞こえてくる。その声に呼応するかのように、「私」の感情が少しずつ浮き上がり、やがて電車がホームにやってくる。 読まれましたあとは、ぜひご感想をお寄せくださいませ。 感想フォーム▼ https://forms.gle/WGJCJ4nvYz56UsqW7
    500円
    冬月や
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    『僕と、蚕な君』

    『僕と、蚕な君』は、全56ページの短編小説です。 同書籍内に『泣けない、鈴虫』というお話も同時収録されています。 書籍コンセプト、各物語のあらすじは下記よりご覧くださいませ。 読まれましたあとは、ぜひご感想をお寄せくださいませ。 感想フォーム▼ https://forms.gle/WGJCJ4nvYz56UsqW7 * * * 昆虫着想小説 - the novels inspired 
 by insects - 生き物の生態とは面白いものだ。遺伝子には予め、あるプログラムが書き込まれていて、誕生・成長・死までの過程で、それが身体的変化や行動として表出する。個体を超えた
種全体の目的、長い進化の歴史の中でその種が選び取った“選択”をそこから読み
取ることができるのではないかと思う。 ■僕と、蚕な君 世界で唯一、野生回帰能力を完全に失った「家畜化された昆虫」と言われる蚕をモチーフとするファンタジー小説。 
絵を描くことに情熱を燃やし続ける少女マユ。そんな彼女から、「僕」はいつしか目が離せなくなる。寝食を忘れて描き続ける彼女に、思わず同居を提案し、奇妙な共同生活がはじまった。
彼女を中心に回り始める世界。だけど彼女は普通の人間ではなくて――。 ファンタジーでありながら、現代世界を舞台に、リアルな感情・リアルな距離を込めた物語。 ■泣けない、鈴虫 雨上がりの夏の夜、駅のホームでは鈴虫が泣いている。遅延電車の待ち時間という、ふいに訪れた
エアポケットのような時間。「私」は「彼女」との歪な人間関係に思いを巡らしはじめて…… 高く
擦り切れるような鈴虫の音は、次第に求愛の“必死さ”を帯びて聞こえてくる。その声に呼応するかのように、「私」の感情が少しずつ浮き上がり、やがて電車がホームにやってくる。 読まれましたあとは、ぜひご感想をお寄せくださいませ。 感想フォーム▼ https://forms.gle/WGJCJ4nvYz56UsqW7
    500円
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最近の記事

手折らぬ、花よ

「うん、そうなんだよね……」 声のトーンを落とした悲しげな横顔に、僕ははっとした。 さっきまで、花が咲いたみたいに笑っていたのに。 僕の一言で、その花を無造作に摘み取ってしまったような気がして、すごく焦った。 言葉に窮する僕に、彼女は、また弱々しく笑って、 「あ、でも大丈夫だよ。連絡はとってるし。結果なんて、すぐには出ないから。やるだけやってみるよ」 移動する先輩から、100件以上の顧客リストを引き継いだという彼女。ただでさえ、忙しく働いているのは知っていたのに、「

    • 「君を線で追いかけた。」

      「僕は、人は上手く描けないんだよ。特に女性はね」 そう言っていたのに。 「先生は嘘つきです」 アトリエにあちらこちらに山積みにされた、膨大な数のクロッキー。 それはある女の人を、とてもいきいきと写しとっていた。 なめらかな、えんぴつが滑るような線。 無我夢中で、描き出された、走らされた、えんぴつ。 こんなの私じゃなくたってわかる。 かなり上手い。 「違うんだよ」 細身の先生は、ふらふらと体を揺らして、困ったように目を細める。 「僕の手がね」 指の細く、長い、骨

      • 暮れの便りは

        この一年、何度先生に呼びかけたかわからない。 留年したときは、親から大目玉ものだった。 けれど、それで私は先生ともう一年一緒にいられた。 今年は流石にそうもいかなくて、私はなくなく卒業し、名門大学の看板を引っ提げて出版社に潜り込んだ。 「もっと勉強したかったので」 真面目そうな黒髪丸メガネのなりでそう答えれば、面接官は嬉しそうにうなづいた。 事実、私は先生とフランス文学について話してばかりいた。白い髭を口元にたくわえ、落ち着いた声で喋る先生。本当は内容なんて何でもよかっ

        • 小説『僕と、蚕な君』の通販はじめました。

          先日、文学フリマ福岡の参加して、初の小説同人誌づくりに挑戦しました! 興味を持っていただき、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました!!     その場ではありがたいことに完売し、その後「読んでみたい!」という声をいただきまして、「じゃあ、また刷っちゃおう!」と、増刷しました✨     さて、何冊刷ろうかな? と考えたんですが、結果、   どーーーーんと、100冊。     やりすぎじゃないか? とも思いますが、来年もたぶんイベント参加するので、100冊くらいなら在庫抱

        手折らぬ、花よ

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        • カフェで読む物語【不定期 更新】
          52本
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          3本
        • 短編小説『Holiday-land』
          5本
        • #今日という日(エッセイ集)
          15本

        記事

          生活と私

          カフェオレよりも、ミルクティーが飲みたくなった。季節が変わって、暖かな陽気が流れ込んだからだろうか。やさしい香りとほのかな甘さのミルクティーが飲みたくなった。  ミルクパンに牛乳を注いで、火をかける。 ミルクパン、というのは、あの美味しいパンではない。牛乳を温めるための小鍋のことをそう呼ぶのだと、私は最近始めて知った。 ミルクパンで温めた牛乳は、すぐにクツクツと揺れ出して、ほかほかになって、レンジで温めるのよりもずっとゆっくり冷えていく。 こういうのが、つまり、「影響」っ

          陽に溶ける

          桜が散っている。 ーー大人になってしまった。 川面を埋めるピンクの花びらを眺めながら、私はぼんやり思う。すぐ近くの中学校から、懐かしいチャイムの音が聞こえてくる。 ーー今年で、30歳。身体だけ大人になってしまった。 私だけだろうか。未だに自分の年齢がしっくりこなくて、本当だろうかと思ってしまう。私が思っていた30歳は、こんな風だっただろうか。 本当はもう営業回りは終わったのだから会社に戻るべきなのだけど、春の陽気が私の足に絡まった。 まだ、昼過ぎだというのに、中学校

          Knife

          思いがけず、その刃はキレイに刺さった。 僕の口から放たれた言葉は、彼女の胸の真ん中に突き刺さり、今その傷口からどくどくと血が流れて出しているのが見える。 彼女も僕も唖然として、その瞬間を眺めていた。 そんなつもりはなかった。こんなはずじゃなかった。 そのことは、きっと2人ともわかっていた。 だけど、血が流れていることは事実。 それは消しようのないこと。 あぁ、僕は、いつの間にこんな恐ろしいものを手にしていたんだろう。 その使い方も分かっていないくせに。 不器用に、不用

          連れ去る列車

          寂しくなんかない。 今はちょっと弱ってるから、それでセンチメンタルになってるだけなんだ。 何しろここ数ヶ月、あれもこれもと詰め込んで毎日があっという間に過ぎ去っていった。 少し、疲れたのだ。それだけのこと。 そう思おうとしたけれど、やっぱり胸の奥がぎゅうぎゅうする。 窓の外を流れる、見慣れぬ風景に眉をしかめる。 ーー今何してるかな…… ーーううん、それよりもっと、今何考えてるのかな、どんな気持ちなのかな…… 恋人は、私の出張を知らない。 今日はどこにいて、明日はどこに

          連れ去る列車

          泣きたい前髪

          前髪を切りすぎた。 高校生の頃みたいに、眉の上まで。 私はもうじき30歳にもなるというのに、どうしてこんなことで失敗してしまうのかしら。 高校生の時、いつも前髪を自分で切っていた。 成長盛りのあの頃は、前髪まで伸びるのが早かったのかもしれない。だってこの前切ったと思っても、うっとうしくすぐに目にかかるのだ。 洗面所の前、ティッシュを敷いてハサミを用意したら、美容師さながらハサミを縦にしてチョキチョキ切る。 左から右に流れるように、そう思っているのにいつもきれいに揃わなくて。

          泣きたい前髪

          鼻利きの店員

          「では、本当にお心当たりはありませんか?」 女性は斜め上を見て考える。 「はい」 そして、思い立ったようにこちらに向き直る。 「本当に、原因は水没なんでしょうか?」 突如動かなくなったという哀れなスマホを右手で握りしめている。 「あっ、いえ、疑っているわけじゃないんですが」 変な人だな。こちらのセリフのようなことをしどろもどろで言っている。 「でもほら、私、スマホをお風呂に持ち込んだこともないし……」 ねぇ、と同意を促されるが、そんなことこちらが知るはずもな

          鼻利きの店員

          学ランの君

          似ている。 小銭を渡し損ねたとき、瞬時にそう思った。 いや、あまりに似ていたから動揺して小銭を落としたのだろうか。この予想外の衝撃のせいで前後のことさえわからない。 大丈夫ですよ、とはにかんで笑う。 笑った時に、あの、目尻に皺がよる感じ、いかにも優しそうな感じが似ている。 目の前に立つ男の子は、学ラン。 そして私は黒いエプロン、カフェの店員の。 私は今年で27歳になるというのに。 目の前の男の子は、中学時代の初恋の人に瓜二つ。まるで、時間が歪んだかのよう。 小銭を拾

          さよなら、してから

          花束を握りしめていた。 さよならには、とっくに慣れたと思っていたのに。 「京ちゃんが好きだって言ってたから」 そう言いながら佳代子が渡したのは、オペラ色のアザミが彩る、丸い花束だった。 男に花束なんて、そう思って笑おうとしたのに、声を出そうとすると泣き出しそうで、何も言えなかった。 アザミの花。 佳代子と寄り道した学校帰り、空き家の庭に咲いていた。 他人の庭に勝手に忍び込む、あのなんとも言えない背徳感。 そのスリルを楽しむために、京介は父親の転勤があるたびに引っ越し先で

          さよなら、してから

          心、すれ違い

          私はあなたしか欲しくないのに、あなたは私じゃ足りない。 そのことが今日はずいぶん分かった。 薄暗い個室、誰かのカラオケ、お酒とタバコ。 そういうものの中で、あなたは水を得た魚のように生き生きとする。 私はアルコールとタバコの匂いで頭が痛いし、気弱な笑顔を貼りつけてタンバリンを叩くので精一杯。 「寂しがり屋」 そういう言葉でよかったんだっけ。 こういう虚無をそんな風に言ってしまってよかったのかな。 触れられそうなほど隣にいても、あなたはいつも遠い。 退屈な夜だ。 そう、私

          心、すれ違い

          並んだプリン

          「えっ、やだっ!」 冷蔵庫の一番上の段のプリンが、また一つ増えた。これで5個目だ。 またプリンを買ってきてしまった。 近頃、思わずプリンを買ってきてしまう。 思わずというか、どうしても。 プリンがあれば大丈夫な気がして、昨日買ったことを忘れてまた買ってしまうのだ。 きっともう、プリンを買うことはお守りみたいなもの。 今日も大丈夫なお守り。 あまく、なめらか。 そうして自分を甘やかしていないと、バランスが取れないの。 仕事がなんだか上手くいかないのも、久しぶりに会っ

          並んだプリン

          転がる。煮詰まる。

          里芋の煮っ転がしを作っている。 大きすぎず、小さすぎず、手頃なサイズの鍋の中で、里芋たちがくつくつ揺れる。 うすぎるのではないかと思うほどの醤油味が、中火にかけられ煮詰まるにつれてやさしくほんわりとした和の味に変わっていく。 くつくつ、くつくつ。 先生は今日は疲れているだろうから、やさしい味のモノがいいだろうと思ったのだ。 最近食欲もないと言っていたから、胃がビックリするような濃い味はやめにした。 そうなると、洋食よりも食べ慣れた和食の方がいいに決まっている。 そんなこ

          転がる。煮詰まる。

          願うよりも、強く

          やわやわのたこ焼きは、水のように喉をくだっていった。 腹が減っていたのだな、と気がつく。 初詣。 これも帰省のついでと実家の近くの神社をふらり訪れれば、鳥居の前の道路は例年通り歩行者天国となり、屋台が軒を連ねていた。 周りは家族連れかカップル、少なくとも友人と来ているようで、一人きりなのは自分だけらしかった。 いいのだ、34の男にもなれば、一人で参りたいこともあるというものだ。 息を切らして境内へと続く階段を登る。 今となっては、幼い頃とは違う心持ちでの参拝だ。 人混みの

          願うよりも、強く