講義録 記号論(2020情報文化論)

講義録.

底本

記号論の入門書はいろいろあるので,持ってるやつだけ紹介.

川本茂雄のことばとイメージは,後述の記号論への招待とならんで岩波新書の記号論入門書の2大巨頭だと思う.が,なぜかことばとイメージのほうがマイナー.(タイトルに記号論と入っていないからか?)
入門書としては圧倒的に読みやすいし,記号とは何かが系統的に,順序立てて理解できると思う.特筆したいのは,パースの記号論をわかりやすく解説してくれている点.たしか自分も「味覚の記号論やるなら,パースだな」と思ったきっかけはこの本だったと思う.ここからパースの著作集にいったと思う.

池上嘉彦先生の記号論への招待は,やっぱり意味論,認知意味論につながる記号論ということで面白い.当然,記号論の教科書の一番最初は「記号って言うと道路標識とかが思い浮かぶでしょ,でもね」から始まる.本書もその入りなんだけど,もう2ページめから「言語創造」「人間は,すでに慣習的に定められた「記号」をあやつるばかりでなく,新しい「記号」をせっせと創り出しているのである.」
スピード感すごいやん.自宅から成田空港徒歩2分みたいな.
記号論への「招待」というタイトルが秀逸で,教科書的な「入門」書ではない.恣意性だの二重分節性だのを,まとめて教えてくれる本ではない.もうちょい高次の,映画の記号論とか詩の記号論とか意味づけ的な記号論をやる上ではガイドブックになる.ちなみに,引用とかほとんどせずに突っ走る.さすがっす.

アメリカン?な「漫画でわかる」的なやつ.イラストベースで意外としっかり記号論.パースもある程度.中盤から急に難しくなるけど.記号論と漫画テキストは相性がいい.

ウンベルト・エーコの記号論(Ⅰ・Ⅱ).講談社学術文庫.検索したら絶版になっててびっくりした(1度再版して2回目の絶版?).僕が大学院生のときにエーコが死んで,そのとき「一つの時代が終わった」と思った記憶.

ソシュールをざっくり知りたければやっぱり丸山圭三郎からがわかりやすいかも.ソシュールはまあ現代言語学の根底なので,取り立てて読まなくてもとは思うが,まあ一応.箱まんじゅうのメタファなんかは動的な意味論でよく引用する.

パースはもう入門書なんてものはないから,前出の川本『ことばとイメージ』の次は著作セレクションになると思う.
相性の良いものが見つかるといいけど,自分は内田種臣のパース著作集123シリーズと米盛裕二の「パースの記号学」が読みやすかった.博士の1年のあたりはこの辺を9割くらい意味わからないながらお経のように読んでたと思う.

パースの本はいつか別記事でまとめておきたい.


底本ではないが,記号論まわりで最近気になっている本をいくつか.

川出由己の生物記号論.生物学の先生で,「生物はすべて心(の次元)をもつ」という考えのもと,単細胞生物,あるいは細胞のひとつひとつ,分子のひとつひとつのレベルで記号作用があるというもの.この本については別記事を書きたい.


記号論というか意味論だが,まあ最後に,僕の指導教員である田中茂範先生の〈コトバ〉の意味づけ論.この本はヤバい.
田中先生に,いつか先生の意味づけ論の本の書評を書くことが僕の目標なのだ,と言ったことがある.そしたら,「その昔この本の書評を書きたいという話があったので快諾したが,その人があきらめた」と教えてくれた.田中先生は「書けなかったんだろうね」と言っていたが,ほんとうに書けなかったんだろうと思う.先生は自慢のつもりじゃなく,純粋に言ったんだと思うが,田中先生と数年いて唯一の自慢話だったと思う.
調べたら絶版になってた.なんでやねん.


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