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闇より出し影



身だしなみ。

例えば服装だったり、髪型だったり。
相手に対する表敬の一つでもあり、自分をいかに清楚に見せるかのアピールの場でもある。

これをしっかりしているといないとでは、社会ではおおよそ通用しないだろう。
多様性や文化などの違いはあれども、これは万国共通ではなかろうか。


短いながらも社会を経験した立場からすると、人に会う時はなるべく気を遣おうとは思っている。
オシャレとかとはまた少し違うのかな。まあ似たり寄ったりなのだろうが。



しかしイレギュラーとは、いつもふいに起こるものだ。




鼻毛。


鼻毛ちょろっと出てますよ事案、みなさん経験はないだろうか。


正直、拙者はよくある。



ふいに鏡を見たとき、ちょろっと伸びる影一つ。

鼻の下が少しくすぐったいなーと思った時にはもう遅い。奴は歩を進めているのだ。


鼻毛。


頼んでもないのに生えてきやがる。


鼻毛。


たまに「こいつ…こんな姿に成長するまでよくものうのうと生きていやがったな…!」と思うくらいのサイズがたまにある。


鼻毛。

文字通り太々しい奴がいる。
いけしゃあしゃあとのさばってる奴がいる。

あとたまにさっきまでいたのに急に雲隠れする奴がいる。


鼻毛。

ずっと長いままそこにいる。
住民税取るぞ。

穴のなかで くるん となって隠れても無駄だ。
怒らないから穴から出てきなさい。


鼻毛、憎い。



仕方のないことなのはわかっている。

空気中のホコリやらを体内に入れないように守ってくれているのだと。


体を守る働きをしてくれているのだと。


わかっている。感謝している。
ありがとう。おかげで健康ですよ。



ただ、たまに仕事しすぎな時あるんよ。
伸びすぎなときあるんよ。

鼻の「穴」の範疇で止まれよ。
伸びすぎ。
ガイアナのGDP成長率くらい伸びすぎ。


もっとおしとやかにしてほしい。




そして、自分はいいけど人の鼻毛が出てる時、言いにくいね。


友達とか男なら、ぜんぜんいいけど。


「ちょwwwおまwww鼻毛出とるぞwwwww」

『ムホwww我www鼻毛の伝道者になりけりwww』

これで済む。鼻毛の伝道者にはなってほしくはないが。




これが女性の場合はそうはいかない。
かよわいレディにはこんなこと言えない。かよわいから。

シンプルに、鼻毛出てますよとでも言おうものなら島流し。


ユーモアを交えて言うのはどうだろう。

鼻でブロッコリー育ててるんですね。

間違いなく首をはねられるだろう。
鼻毛は死と隣り合わせ。


どうしたらいいものか。

デートに行くとする。



マッチングアプリとかではなく、友達の紹介で知り合った、同学年の会社員の女性。

ご時世柄、初対面からマスクでしか会ったことなく、時折カフェオレを飲む時にご尊顔を拝見するが、まだ会って3回目。
まじまじとちゃんと見たことはない。

今日こそは。

そう決めて、思い切って誘った。月末の金曜日。

いつもランチだけだったりLINEでのやり取りしかないから、お酒を伴う食事は初めて。


乾杯から1時間は過ぎただろうか。
この店に決めてよかった。どうやら僕も彼女も焼き鳥とエイヒレが好きらしい。

改めてちゃんとみる、かわいい顔。
そんな顔に似合わず、ずっとビールを飲むところも、またいい。

少し顔が赤くなってる。

「今日楽しみにしてたから、お気に入りを着てきたんだ〜」と見せてくれた、花柄のワンピース。


ああ、なんて幸せなんだ。


仕事に追われ、残業、休日返上。
周りは結婚。
徐々に遊ぶ相手も少なくなっていく。

たまの休みも家でもっぱらゲーム。
TwitterとInstagramを見ることで時間を潰し、閉店間際のスーパーで、安くなったお弁当を食べる毎日。

出会いなんて、もう無いと思っていた。


そんな僕にも、こんな出会いが。

これが実らなくてもいい。今が幸せだから。


でも、あわよくば、、、実ってほしい。


もっと仲良くなりたい。

もっと話したい。

そうだ、今度はライブに誘おう!
同じバンドが好きって話で盛り上がったではないか!


よし、決めたぞ。

今日も誘えたんだ、ウジウジするな。思い切れ!


「あ、あのさ…」




うそだろ…

そんなわけない…


この娘に限ってそんなことはない…




鼻毛が出てる…


うそだ…


右の穴から…


『ん?どうしたの?急に固まっちゃって(笑)』


どうしたもこうしたもないよ、君のことだよ。

だめだ、なにか言ってるけど話が入ってこない。こちらも話したいがそれどころじゃない。何から話したらいいかもわからない、どこだ、どこで話が止まった?なぜだ、なぜこうなったんだ…そうか…


鼻毛が出てるからか…




『…っと!………ちょっと!』




ハッ!いけない、我を忘れていた。


『ほんとにどうしたの?酔っぱらっちゃった?』


「…から…」


『え?』

「…出てるから…」

『なにがよ、ハッキリいってよ!』


「出てるから!○○のライブの先行チケット情報が!今度いっしょにいこうよ!」


目の前の娘が少しうろたえる。
しまった、取り繕おうと語気を強めてしまったか。

これじゃどちらにしろ最悪じゃないか。
くそ、ここまでか…




『出てるってそのことか(笑)
うん!いいよ!じゃ、チケット2枚取っててくれる?』




…この後、無事にライブには行けたようだが、その後の話は、この2人の間に生まれた子に、また語ってもらうとしよう…






とまあ、こういうことになりかねない。

恐ろしや、鼻毛。


みなさんもお出かけ前に、いま一度確認しましょう。


あなたの鼻毛、伸びてるかもしれませんよ。

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