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2021.6.20 Jリーグ第18節 浦和レッズVS湘南ベルマーレ マッチレビュー

<前半>
(1)湘南のWB

前半開始からボールを握ったのは浦和であった。後方から丁寧にボールを繋ぎゴールを目指す。
そうした浦和に対して、湘南は引いてブロックを組むのではなく、前線から積極的にボールを奪う守備を選択した。まず最初に、浦和のビルドアップに対する湘南のプレッシングについて見ていこう。

湘南のプレスで一番特徴的だったのがWBだ。WBには浦和のWGを監視するのではなく、SBに対してプレスをかける役割が与えられていた。まず、浦和の2CB+2VLを湘南の2FW+2IHで掴む。ボールが外回りになりSBに渡るタイミングでWBが発車しコースを限定、SBからのパスでボール奪取を狙う。

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また、前線の4枚の動きにも工夫が見られた。FWがCB、IHがVLといった明確な決まりはなく、FWが浦和のVLを背後で消している時はCBに対してIHが前に出ていくシーンも見られた。これは、①FWの運動量を減らす②相手VLへのパスコースを第一に遮断し中央を使わせないといった目的があったと思う。

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前半を通して、湘南の積極的な守備は機能していたと感じた。実際に、WBが出て行けずにサイドで数的不利を作られたシーン(3分)、IHの背後(アンカーの脇)を使われたシーン(28分)以外では、プレスを外されてピンチを招くことは無かった。

この背景には、昨年から継続して行なってきた守備に対するチームとしての完成度の高さがあるだろう。ただ私はそれだけではなく、選手個人の守備意識の高さを強く感じた。特に、IHの山田が浦和CB岩波までプレスをかけた後直ぐプレスバックし、FWユンカーのトラップミスを奪ったシーン(18分)が印象的だった。

(2)際立った浦和の右サイド

前半のシュート本数は、湘南1本に対して浦和9本と圧倒していた。湘南の組織的なプレスをどう攻略したのか。浦和の攻撃を見ていく。

今シーズンの浦和はロドリゲス監督の下、各選手が幅と深みを取りながら前進を図る。この日も湘南のプレッシャーに臆することなく、自陣深い位置からボールを繋いでいた。湘南の前線4枚+WB2枚に対して、GK鈴木を含めた7枚で数的優位を確保し、ビルドアップを行う。しかし、前述したように湘南の中盤は固くボールが外回りになってしまっていた(12分30秒)。

湘南のプレスによって、中々前進することが出来ない浦和。ここで効果的だったのが、湘南WBの背後のスペースへのロングボールだ。特に、湘南の左サイド(浦和の右サイド)でこの形が多く見られた。
例えば、浦和の先制点の起点となったフリーキックも右CBの岩波からのロングパスを右WGの田中達が収めた流れで獲得したものだった。

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前半の平均フォーメーションを見ると、全体が左サイドに寄っている中で田中達のみ右サイドの高い位置に位置していることからも、チームとして狙いを持って試合に臨んでいたことが分かる。

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先制後の20分にも田中達のドリブル突破からチャンスを作る。湘南としては、リスクを負ってプレッシングを行なっている分、サイドで一対一を作られることはある程度許容していた。しかし、その一対一で後手を踏んだことで前半の終盤に連れて徐々にプレッシャーラインは下がっていった。

それでも湘南は下がることを苦にしなかった。これは、給水明けのタイミングで同点ゴールを奪えていたからだろう。むしろ、42分にはCBからタリクに当てサイドに広げ、畑のクロスからウェリントンのバイシクルシュートとシンプルな攻撃からチャンスを作る。

お互いが自分たちのゲームプランを崩さずに渡り合った45分であった。

<後半>
(1)皇帝ユンカーとリンクマン小泉

後半に入ると湘南はプレスの方法を変えてきた。前半の立ち上がりは相手SBに対して両WBを出していたが、後半は1stディフェンスでIHが相手SBに、サイドを変えられた場合はWBが出る形となっていた。これは、浦和のスペースを突くロングボールを意識しての変更だろう。

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IHが相手SBにプレスに行くことで、背後のスペースは管理しやすくなる。
一方で湘南の中盤はより広いスペースをスライドする事が求められる。
このスペースを浦和は見逃さなかった。

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後半になってトップ下の小泉がボールを受けるシーンが増えた。前半も間に顔を出していたが、湘南の中盤にスペースができ始めた事が要因だろう。
47分49分と狭いスペースでボールを受けワンタッチでチャンスを作りだす。

そんな中、衝撃的な追加点を1人の男が奪う。湘南のクロスボールのこぼれをユンカーが拾い小泉に落とすと、全速力で背後のスペースへ、そのまま湘南DF2枚を置き去りにし、身長190cm以上のGK谷の頭を超すループシュートでゴールネットを揺らした。身長に見合わないスプリント力、全速力の中でも落ちないボールコントロール能力、圧巻のゴラッソだった。

ただ、このゴールで光ったのはユンカーだけでなく、小泉のアシストだ。ボールがこぼれた瞬間に反転し、DF2枚の間を通すダイレクトパスは、彼のリンクマンとしての能力の高さを表している。
先制後も浦和の攻撃が続く。明本、小泉、大久保を中心とした左サイドでの崩しは前半見られなかった部分であり、湘南ゴールを脅かしていた。

(2)勝負の分かれ目は

60分、湘南はタリク⇄町野、池田⇄名古で2枚替え。さらに両WBの位置を入れ替える。湘南の攻撃の起点となっていた畑だが、この日は浦和右SBの明本に完全に抑えられていた。浮島監督としては、サイドを入れ替える事で状況を変えようとしたのではないか。

62分田中達⇄関根、金子⇄柴戸、浦和も2枚替え。
交代直後の63分浦和に立て続けでチャンスが訪れる。自陣でボールを奪うと明本から大久保へ、大久保はドリブルでボールを運びながら、小泉が中央でディフェンスを引きつける。それによって開いたスペースに流れたユンカーへ大久保からパスが渡る。パスを受けたユンカーは、ボディフェイントで上手くシュートコースを作り左足一閃、しかしシュートは左ポストに弾かれた。

さらには64分、右サイドの関根からのサイドチェンジを受けた大久保がキックフェイントで相手をかわしてシュート、そのこぼれ球をユンカーが押し込むも、湘南GK谷が気迫の3連続セーブでゴールを割らせない。今シーズンの谷はこのシーンのようにゴール前での球際の強さが目立つ。
また解説の岩政氏も試合後に語っていたが、このシュートストップが試合を決めるターニングポイントだったように思う。

(3)ハマった交代策

69分、湘南が同点に追いつく。
ゴールのシーンの前に、この試合での湘南のボール保持時の振る舞いと浦和の守備を確認しておこう。湘南は浦和のように中盤を使いながら丁寧にビルドアップを行うのではなく、素早く前線にボールを入れる攻撃を目指していた。ボールを入れる場所としては、2トップの足下とWB畑の背後が挙げられる。2トップにボールが入るとそこからサイドのスペースに、畑が背後を取れれば、そのまま突破というように目指すのはサイドからのクロスであった。

浦和は湘南の3バックに対して4-4-2を形成。前線の3枚でプレスに行くのではなく、小泉とユンカーがパスコースを限定する守備を行なっていた。
この結果として、浦和はファーストディフェンダーを決めきれず、湘南のCBにFWや畑に対して質の高いボールを供給させてしまった。しかし、浦和としてはそれでもブロックをしっかりと組めば崩される可能性は低く、逆に2点目のようなカウンターのシーンが多く作れるという算段であったのだろう。

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さてこれを踏まえて、69分のシーンを見てみよう。ロングボールのこぼれ球をウェリントンへと繋ぎ、右サイドから田中→山田→左サイドの畑へと展開。畑がカットインから右足で上げたクロスをウェリントンが飛び出してきた浦和GK鈴木の上からヘディングで叩きつけゴール。シンプルに前線を使いながらサイドからのクロス、湘南の狙いとした形であり、WBの入れ替えも効果的だった。
一方浦和は、前後半とも給水直後のプレーで非常にもったいない失点となってしまった。

浦和は75分、トップ下の小泉に代えて興梠を投入する。ユンカーと興梠で2トップを構成し、よりゴールに近い位置でプレーするのが狙いかと思われたが、浦和の攻撃は良い意味で変わらなかった。
78分には興梠が左サイドで時間を作り右に展開、ユンカーから関根へのスルーパスで決定機を作る。湘南は全体の重心は下げつつ中央は使わせない守備で耐える時間が続く。

(4)執念の恩返し

87分試合が動く。浦和のゴールキックからプレッシャーをかけ、パスミスを誘い、IH梅崎からのクロスをWB岡本がワントラップからボレー、シュートはニアを打ち抜きゴールネットを揺らした。元浦和所属の2人の活躍で湘南がこの試合初めてリードを奪った。

このゴールは、湘南が耐える時間が続く中でも、前に出ていく姿勢を失わなかったことで生まれた。起点となるゴールキックは、相手陣までプレスをかけて奪い、シュートまで持って行き、獲得したものだ。また、ゴールを決めた岡本もWBながらゴール前にしっかり詰めていた。

浦和は、杉本を投入しパワープレーで同点を目指すもそのまま試合終了。
3-2真夏の激闘を湘南が制した。

編集後記

シュート本数だけ見ると、浦和が終始試合を支配していたように見えるが、実際には両者が自分たちの積み上げてきたものを出し切った好ゲームであった。

湘南は我慢の時間が長かったが、ゴール前に張り付くのではなく、前線からのプレスとシンプルな攻撃で逆転劇を作り出した。相手のミスを待つ受け身のサッカーではなく、相手のミスを誘う積極的なサッカーであった。

浦和からは、基本的には丁寧にボールをつなぐことを目指すが、相手の重心を見てサッカーを変えられる柔軟性を感じた。監督の目指すサッカーが浸透してきている証拠である。その分、ゴールキックからの2失点が痛かった。ただ、浦和のようなサッカーを志向する場合こうした失点はある程度許容しなければいけないものであり、次戦以降どのように修正してくるかに注目したい。

両チームのゴールキーパーにも言及しておこう。U24代表候補対決となったこの試合、谷は試合の流れを変えるシュートストップ、鈴木は決勝点に繋がるパスミスと明暗が分かれる展開となった。

両者ともに2失点目は判断ミスであったが、その後も集中力を保ち続けた谷と鈴木にはJ1で1年間通して試合に出続けた経験値の差があった。

ただ鈴木も失点シーン以外では安定感あるプレーを見せていた。
今後はミスの残像に負けず、どれだけチャレンジ出来るかが求められる。
その点、浦和には西川がいる分安心だ。
長いプロ生活の中で、ゴールキーパーの酸いも甘いも味わってきた西川であれば、鈴木に対して適切なアドバイスを送ってくれるだろう。



















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