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もう一度、もう一度

「新宿 喫煙 カフェ」なんてGoogleの網に解き放つより、打ったら響く友達の「じゃあとりあえずタイムスで」または「一旦ピース入ってて」という白い吹き出しに「おけ」と緑の吹き出しを返す。月20日はスーツとパジャマの往復なので、同級生に会う週末はここぞとばかりに一張羅を引っ張り出し、雨でも構わず白地のエアフォースワンを水溜りに沈められる。それに合わせた靴下に、持ってる中で一番高いズボンと、そのズボンのために買ったようなタイダイのトレーナー。いつも付き合いの悪い自分に、ふたりも必ず素敵な格好で登場してくれるから途轍もなく嬉しくなる。新宿にくるだけならこのくらいでしょ、という変な遊び紙が一切ない。表紙、からの本編!ショートヘアが似合う、目も鼻も可愛い、メイクが上手。週40時間も50センチ先の冷たいモニターを見つめるだけのこの瞳に、色が、造形が、つんざくように飛び込んでくる。眼球の中に心臓があるのかと思うくらい、血流がドクリドクリと視界を揺らす。「おお、久しぶり」あまりに久しぶり過ぎると、それが上擦った声となって現れ、一張羅の下で私は、少しだけ小さくなった。待っている間に、隣の角張った男たちが交していた「痴女だった」で終わる会話について、2人に話そうか話すまいか、メニューに書かれているアイスコーヒーの文字に沿って思考したりする。そうして絶え間なく続いていたチューニングを、”いつ見てもいい感じ”な店員さんが、オーダーを取りに来て止めてくれる。「生クリーム要ります」と言ったときにはもう、ああこの感じだ、と、そこからはもう巻かれたゼンマイが戻るように、自然に高校時代の自分が動き出す。もっともっとお利口さんな自分をっているし、器用な自分も解ってる。このふたりの前で、どうしようもなくぎこちないのは、海馬に溜まっているのとは違う、出来立ての言葉や表情そのままだから。ふたりはどうだろうか。自分とは全然違って、しなやかに身をこなすから悔しい。ふたりが知っているゲームもあんまり知らないし、アニメも漫画も全然ついていけない。けれど、正直言ってどうでもいい。スプラトゥーンは横で見ているだけで楽しいし、ジョジョはここからが面白いというところから観せてくれるからまんまと見はまって夜更かし。共に通ったところなんて点ほどもない気がするけれど、初めてのピアス(しかも軟骨!)を開けたのは左の貴方で、オドオド載せている短歌をいいと言ってくれるのは右の貴方。

いつもケツが短い私は、またまた分離する。本当に大した用事なのだろうかとか、明日の会社に私がいなかったパターンのシミュレーションをしたりとか。いつも置いていくように帰りながら取り残された気分で乗る電車で、今日、呼吸困難になるほど笑ったシーンを頭の中に繰り返す。

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