見出し画像

そろそろJINSを卒業したい。

はじめての Air frame が忘れられない。空気のように軽い。その謳い文句の通り、メガネを着けていることすら忘れそうな軽さに惹かれて購入した、その翌日。

いつものように半ヘルでバイクに跨り、三宮からポートアイランドに渡ろうと神戸大橋を駆ける。橋の前後は車線が複雑でかつ高速道路のような作りなので、わずかな緊張が走るのだが、同時に最も疾走感を味わえる区間でもある。ぼくはバイクに乗るとき、ミラーに頼らず目視を重視している。複雑な車線を右に移ろうと顔を振ったそのとき、世界は一変した。

風と共に去りぬ。Air frameが、その軽さゆえに吹っ飛んでいったのである。

メガネは失ったものの、冷静さは失わなかった。高速道路の真ん中で拾いに行くのは危険だ。買ったばかりのメガネだが、JINSだし、まぁいいか。にしても、風でメガネが吹っ飛ぶなんてことあるか? 後続の車は高速道路の真ん中にポツンと落ちてるメガネを見て何を思うのだろう? そんなことを考える余裕すらあった。

それにしても、前が見えん。ホワイトアウトしたような視力でなんとか橋を渡りきり、ポートアイランドの道路脇でバイクを停めた。そういえば、予備のコンタクトレンズを持っていたはず……リュックをまさぐると奇跡的に1ペアが出てきた。突発的なサーフィン重要に、と仕込んでおいたものだ。「何にしても予備は持っておくもんだ」とバイクに跨ったまま装着した、はずが、焦っていたのか、左目のコンタクトを着けそこねてしまい、これまた風と共に去りぬ。

「なんて日だ!」と叫びながら、片目で神戸大橋を引き返して三宮に戻り、再びJINSでメガネを買った。Air frame じゃないやつを。

今、ぼくのメガネ歴は30年になろうとしている。デビューはたしか小学5年生のころ。はじめは家の中で着けるつもりが、あっという間に学校に着けていかねばならぬほど視力が低下。ただし、中学生になるとレオナルド・ダ・ビンチが発明したともいわれるコンタクトレンズが一般に普及して、高校生まで部活のためにコンタクトをメイン使用していた。が、大学生になるとメガネが主軸に。当時は、Hatchというお店にメガネを買いに行っていた。

5000円・7000円・9000円のスリープライス。いちばん下の価格帯で選ぶつもりで行くのだが、似合うものが絶対に見つからない。逆に、いちばん上の価格帯で見つかるのだが、そこは我慢。結局、中価格帯の第二希望で購入するのがお決まりだった。なんとも憎らしく、よくできたシステムだ。

社会人になったころにJINSが、少し遅れてZoffが台頭してきた。同じようなスリープライスなのにカッコいい。あれもいい、これもいいとデザインで悩めるようになった。しかも、Air frame やら、エヴァコラボやら、花粉対策やら、ブルーライトやら、次々と新しい切り口を打ち出してきた。そして、市場とは残酷なもので、Hatchは淘汰されていった。

ぼくにとって、あくまでメガネは消耗品。JINSで充分。つい最近まで、そう思っていたのだが、AURALEEやCOMOLIなんかを調べているあいだにYouTubeの巧みなターゲティングに捕まり、ayameやらEYEVANやらが気になるようになってきた。とくに「10 EYEVAN」。

「美しい道具は美しいパーツの集合体である」という考えのもと長い歳月をかけて10個のパーツをオリジナルで作ることからメガネをネジから新しく考え直した。そんな物語に惹かれつつ、見事な洗脳ができあがったところで、こう思うに至る。

「そろそろJINSを卒業したい。」

Youtubeで少し調べてみると、スニーカーのサイズのように、メガネにもサイズがあることを知る。「PD=瞳孔間距離」といわれるもので、まっすぐ前を見たときに左右の黒目の中心を結んだ距離のこと。

ぼくのPDは「68」なのだが、メガネを選ぶときにブリッジにある表記を見てほしい。たとえば、このメガネには46□21と刻まれている。46は片方のレンズの直径=横の長さ、21はブリッジの長さ。この46と21をたすと67になる。この数値はぼくのPDである68とほぼ同じ。プラスマイナス1ぐらいは許容範囲とする。絶対的基準ではないが、メルカリでメガネを買うときに役立つかもしれない。

その上で、近所に「The PARKSIDE ROOM」という意識高い系のメガネ屋さんがあったので覗いてみた。すると、気がつけば買っていた。

「OG×OLIVER GOLDSMITH POSTINO Ⅱ」

10 EYEVANのメガネを狙っていたのだが、まさかのオリバー・ゴールドスミス。しかも、セルフレームを選ぶつもりがメタルフレーム。フレーム+レンズで72,600円。さすがの高価格。JINSなら10本は買える。10本ぶんの価値はないと思うのだが、新世界が見られるかもしれないと投資してみることにした。

オリバー・ゴールドスミスは1926年に生まれたイギリスのブランド。オードリー・ヘプバーンやジョン・レノンなどが愛用していたことで有名で、代表作は黒ぶちガッツリな「CONSUL」というモデル。

ブランド創設100周年に向けて作られた新ライン「OG×OLIVER GOLDSMITH」では「職業」がテーマ。POSTINOとは郵便配達員のことで、初代はブリッジの形にクセがあったが、二代目の「Ⅱ」になってからはよりシンプルで使いやすくなった。

毎日使うものはお金の使いどころ。スマホやパソコン、リュックサックがそれに当てはまる。そして、もうひとつ。それがメガネである、と言える自信はまだないが、高いメガネ屋はレンズも高い。さすがにZeissのレンズは選べなかったが、少しランクを落としてもレンズだけで3万円。高いメガネ屋はここで儲けているのだと思うのだが、物は試しだ。乗ってみた。

7000円のJINSのメガネなら2年は持つ。しかし、72,600円ならば、20年は持ってほしいところだが、果たして。

にしても、このメガネでバイクには乗れない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?