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新垣結衣さん、ある性的指向を抱える女性を熱演 映画『正欲』に主演

「新垣結衣さん、ある性的指向を抱える女性を熱演 映画『正欲』に主演」(『telling,』2023/11/03)というネット記事を記録のために全文引用致します。

文:田中春香

新垣結衣さん主演の映画「正欲」が11月10日から公開されます。朝井リョウさんによる同名小説を映像化した本作は、家庭環境や性的指向、容姿といった異なる背景を持つ登場人物が交差していくさまを描いた物語。人に言えないとある指向を抱え、息を殺すように暮らす主人公・夏月の複雑な感情の揺れを、新垣さんはどのように表現したのでしょうか。それまでの「普通」とは異なる物事に直面した時、新垣さんはどのように向き合っているのか、について語ってくれました。

作品から問われる“静かに怖い感覚”

――本作への出演にあたり、「問われている感覚が、原作を読んだ時から、映画が完成した後もずっとそばにあります」とコメントしていました。「問われている感覚」とはどういうことか、詳しく伺えますか。

新垣結衣さん(以下、新垣): 原作を読ませていただいて、登場人物たちの物語を見て、「どう思いますか?」と問われたような気がしました。自分が想像し得ないところで、この作品に出てくるような思いをしている人たちがいる、そういう人たちがいるというのはどういうことなのかを考え続けなければいけないと。

――それは、責められているような感覚もあったのでしょうか?

新垣: 責められたり、「これが正しい、これは正しくない」と押し付けられたりというものというよりは、ひとつひとつの出来事に対して丁寧に、「考えて」と言われているような感覚というか。「これを観てどう感じた?」と言われている気がしたんですよね。それはどこか、静かに怖いような感覚でもありました。

――実際に演じていく中で難しいと感じたのはどんなところですか?

新垣: とある指向を持った夏月という役で作品に参加することに対しては、いろいろな思いはありました。夏月が何をどんなふうに感じるのかというのをたくさん想像しました。ただ、現場に入って実際に演じている時には、それまで頭で考えていたよりも感覚を大事にできたような気がしていて、演じることに対しての難しさはあまり感じなかったです。もしかしたらものすごく考えていたのかもしれないけど、それでいて何も考えていなかったような。

ただ、一歩引いた時に、この作品を、この役をどう表現するのかというチームとしての意思疎通など、細かいところはすごく難しかったです。本当にいろんな人と相談をしてやっていました。

――作品の後半、特に佳道(磯村勇斗)と再会してからの夏月はだんだんと表情が解放されて明るくなっていくような印象を受けました。そういったものも感覚的なものだったのでしょうか?

新垣: 私が先にクランクインして、あとから磯村さんがクランクインされたんですけど、それまでは基本的にひとりで悶々としていたので、磯村さんがクランクインしたときはやっと分かり合える人がきたというような感じがありました。もちろん、現場でスタッフさん含めたくさんの方にサポートしていただいて、思いを分かち合ってはいるんですけど、役としてそこにいる中で「やっと会えた」みたいなものを感じて。もしかしたら夏月と佳道の抱いた感情と似た感覚だったのかなと思います。

――作中、夏月が佳道に感情を吐露するシーンがあります。他人には理解されない性的指向を持つ自身について「地球に留学しているような感覚」と表現し、それに呼応する佳道。作品の中でも重要なシーンとなりますが、この時はどんな感情が浮かび上がってきましたか?

新垣: 佳道の言葉を聞いた時には、安心感が広がっていくようでした。ふたりのいる場所から、安心感がわーっと広がっていくような、「やっと人と繋がれるんだ」という思いが湧いてくるような感覚ですね。

人との関わり、年を重ねてプレッシャーから解放

――誰かと繋がりたい、誰かに自分の存在を理解してほしいという気持ちと、分かり合えないのではないかという怖さは多くの人が持つ感情ではないかと思います。新垣さんご自身は、「分かり合いたい」と感じる時、積極的に他者と向き合うアプローチをされてこられたのでしょうか。

新垣: 人と関わることができて、それがすごく良い関係性であるというのはとっても素晴らしく、価値のあることだと思います。ただ「積極的に」かと言われると私自身はあまり積極的なほうではないかもしれません。関わる前に、すごくいろんなことを考えちゃったりするほうなので。一緒にいる時に不快な思いをしてほしくないなとか、せっかく同じ時間を過ごせるなら楽しい良い時間にしてもらいたいなとか、そういったことがプレッシャーになってなかなか一歩踏み出せない、ということがよくあります。それでも、徐々に年齢を重ねるにつれて、そこまで自分を追い込まなくても人と関われるようにはなってきたかもしれないとも思っています。

――自分にとっての「普通」から外れている人や物事に対しての反応や向き合い方の違いを丁寧に描いている作品ですが、新垣さんはそういったものに直面した時に、どのように向き合っていますか?

新垣: 自分の知らないものに出会った時にどうしてきたか……極端に拒絶するでも、逆にすべてを受け入れるでもなく、まずは「そういう世界もあるんだな」と受け止めているような気がします。ただ、無意識の行為が、その世界の人たちを傷つけているかもしれないし、ひょっとしたら排除してると受け取られてしまうこともあったかもしれない。これからもより気をつけたいと改めて思います。

私は、たとえば映画やドラマとか、作品に触れることの良さの一つに「知ることができる」があると思うんです。自分だけの人生だったら出会わなかった職業だったり、人格だったりに出会う……それは、役者として役を演じる時だったり、視聴者として作品を観た時だったりさまざまですが。「知る」ということを大切にするようにはしています。それから、距離感を保つこと……。ここまでは「私の世界」、ここからは「あなたの世界」ときちんと自覚していきたいとは思っています。

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