『1勝7分』について本気出して考えてみた

徳島ヴォルティスが負けない。だが、勝てない。
ここまでリーグ戦8節を終えて1勝7分の勝点10で14位。引き分け数は当然ぶっちぎりだ。
この成績について、徳島サポーターのみならず思うところがある人もいるようである。

それはやはり徳島の立ち位置が関係しているだろう。
徳島はJ1からの『降格組』としてこのシーズンに臨んでいる。
さらに降格組でも最終節まで残留の可能性を残していたのは徳島のみ。
昨年、1つ上のカテゴリで一番結果を残し、昇格争いをリードしなければいけないクラブが勝ちきれないとは何事か!というところだろう。
「そんなん言うても、その最終節のスタメン、9人抜けてるし……」という徳島の事情など知ったことではない。

たしかに、勝てていない。
8試合で1勝。しかもその1勝が8節時点で唯一未勝利の大宮からということを考えると物足りない。
だが、まだ負けていないことも事実なのである。
無敗(5勝3分)で自動昇格圏にいる東京V相手にも苦しみながら引き分けた。
これは価値がある引き分けだ。

結局、1勝7分ってどう捉えればいいんだ?
それを考えていこうというのが今回のテーマである。

それはそれなりに そう悪くはないのさ

最初に、ざっくりとした結論から書こう。

僕がシーズン前の頃イメージした壮大な昇格プランからは多少見劣りする
案外勝てないし引き分けすぎなこれまでだ
それはそれなりに そう悪くはないのさ

パクリな上にざっくりしすぎて結論っぽくなくなってしまった。
とりあえず言いたいのは「見栄えほど悪くない」ということだ。
何を根拠に、と言われそうだが、以下の3点を軸に考えている。

  • これまでの歩み

  • 勝点ペースの是非

  • 昇格へ向けての道筋

これまでの歩み

まずシーズンオフから第8節までの流れを振り返ろう。

シーズンオフの恒例行事として、主力選手が大量に移籍した。
移籍した選手の出場時間合計は全体の6割強にも上り、残留した選手の中で昨シーズン出場時間換算で半分以上出場したのはカカのみ。
移籍した選手の中には”徳島の心臓”であるカピタン・岩尾憲も含まれ、チームは根本からの作り直しを強制された。

それでも白井永地、櫻井辰徳、新井直人などの有力選手を獲得し迎えた新シーズン。
今度はプレシーズンの恒例行事として、主力選手の負傷離脱が起こる。
20年には絶対的存在としてJ2優勝に貢献した田向泰輝、残留した選手の中で昨シーズン唯一複数得点(2点)を挙げている一美和成の離脱は大きな打撃を与えた。

要するに、チームを一から立て直していたところに、さらに再設計を要求されるような事件が起こっていたわけである。
正直、厳しい船出を予想していた。
が、その予想と比べると現状はまだ耐えていると言える。

そしてこの期間にもポジティブな要素はいくつかあった。
まず大きいのはホセ・アウレリオ・スアレスの合流だ。
上福元直人が抜けたGKの救世主として現れたビルドアップに関われるGK。
さらにセーブ力もまったく見劣りしないことを長崎戦(8節)で見せつけた。

そして選手を多く起用できていることと戦術の浸透である。
徳島はリーグ戦と並行してルヴァン杯を戦っていることもあり、実に多くの選手を公式戦で起用し、組み合わせを試行錯誤しながら戦術の浸透を進めている。
ベースとなる選手は徐々に固まりつつあり、これから連携の向上も見込めるだろう。
ここまでリーグ戦に出場できていないのは前述の田向・一美以外では石田凌太郎・佐藤晃大・田中颯・森昂大だが、
GKの田中は事情が異なるとして、石田・佐藤の2人に関しては全体練習でも姿を見せるようになっており、公式戦出場が近いだろう。
(石田は前回のルヴァン杯が所属元の名古屋戦で出場できないという事情があった)
森がフィールドプレーヤーでは唯一やや苦しんでいるが、これはCBの層の厚さが主要因。
これから連戦がさらに増えてくるので、森が出てくる機会もあると思われる。

そして守備組織の構築である。
なんと言っても負けていないのである。失点数もリーグ最小だ。
長崎戦では長崎FW都倉賢が苛立ちのあまりボトルバッグを蹴るほど決定機を作られていたが
よく見るとその決定機のほとんどはカウンターややや強引に入れたクロスによるものである。
つまり徳島の守備戦術のベースである、前線からのプレッシングで相手の選択肢を限定していく、というところが破綻していたわけではない
(その状態からでも決定機につなげた長崎のカウンター・サイド攻撃の精度が素晴らしかったとも言える)
山口戦(7節)ではプレスがハマらずやや苦しんだが、こちらはブロックの堅さと球際の強さで決定機を作らせなかった。
このように、試行錯誤が続く中でも守備組織の構築は順調であると言って良い。

となると残りは攻撃の部分である。
こちらは正直、現状ではポジティブな要素を見出しづらい。
一応、ボールを持って押し込むことはできている。
「アタッキングサードはアタッカーのクオリティを表現する場所」とも言われているし
お互いの特徴を理解しコンビネーションが熟成するのが今考えられる一番現実的な道のりだろう。
焦らずにやっていくしかない。
大事なのは、焦りすぎてこれまでの積み重ねを放棄してしまわないことだ。

勝点ペースの是非

しかしいくらこれまで良い積み重ねができていると言っても結果にならなければ意味がない!と言う人もいるだろう。
そこでJ2で戦い昇格プレーオフ決勝まで進んだ19年、そしてJ2優勝した20年と比較してみたい。

  • 19年 3勝3敗2分 勝点11

  • 20年 4勝3敗2分 勝点14

  • 22年 1勝0敗7分 勝点10

お分かりだろうか。
序盤から上位を維持して優勝した20年はともかく、19年とはほとんど勝点は変わらない。
補足すると19年はこの後の8試合でも思うように勝点が伸ばせず、16節終了時点で4勝6敗6分の勝点18。
つまり勝点ペース上では、この状態からでも昇格争いに残った実績が徳島にはあるということだ。
この観点でも、現状は”そう悪くはない”ことがわかる。

昇格へ向けての道筋

とはいえ、だ。
結局最後に求められるのは”結果”である。
現時点でのベースの上に、どのように積み重ねていけば昇格への道筋が現実的になるか。
19年をモデルケースとして考えてみたい。

まず言っておくと19年序盤の徳島はひどかった。
J3からの昇格組・鹿児島を仕留め損ねた開幕戦から、李栄直の恩返し弾で追いつかれた東京V戦や、終了間際にパワープレーからギリギリ追いついた水戸戦・愛媛戦など、理想とはほど遠い試合を続けていた。

ターニングポイントとなったのは11節の京都戦だ。
この試合では内田裕斗に新たなタスクが与えられた。それが今や常識となった”偽SB”である。
やや内寄りのポジションを取りビルドアップをサポートしながらサイドハーフにスペースを与える。
これによって内田-杉本竜士の左サイドという、このシーズンにおける戦術のベースが確立された。

そして17節の町田戦で河田篤秀が初出場で決勝ゴール、
18節の横浜FC戦では序盤はオフに太り過ぎコンディション不良から
本来のパフォーマンスが発揮できていなかった野村直輝が恩返し弾を決めるなど
活躍が期待されていた実力者が本調子を発揮し始めた。

そして何よりこのシーズン一番大きなトピックスは渡井理己のブレイクだ。
海外クラブへの練習参加で逞しさを身につけたのちの10番は、序盤戦苦しみながらも出場時間を増やしていった。
杉本・田向が広げ、河田がラインを押し下げたことによってできたスペースで岩尾・小西からのパスを受けると野村と共にバイタルエリアを蹂躙した。

戦術の確立・実力者のフィット・若手のブレイク。
この相乗効果によってシーズン中盤〜終盤にかけて驚異的なペースで勝点を伸ばしていった19年。
これと同じことが、今年もできるのではないかと見込んでいる。

まず戦術の確立。これに関しては先に述べたように順調に進んでいる。
内田の偽SBのようなセンセーショナルな変貌ではないかもしれないが、
群れをなし、相手を締めつけていくようなプレッシングはすでに今年のベースと言ってよい完成度となっているだろう。

続いて実力者のフィット。
戦術理解が進んだことで、最初は手探りだったところも自信を持ってプレイできる選手が増えてきた。
白井は少し遠慮がちだった開幕戦から徐々に運動量を増し、必要ならば逆サイドの奥まで走ることも多くなった。
長谷川雄志もポジションが安定し始め、展開力を発揮できるようになってきた。
何より、すでにこのチームで実績がある田向・一美・佐藤がポジションを奪い返さんと虎視眈々と準備を進めている。
それぞれ現状欠けている武器を搭載している選手なだけに、彼らが戻ってきたときこそが反転攻勢の好機となる。

そして若手のブレイク。
まず、櫻井はすでに岩尾が空けた王座に腰を下ろした。
キャンプ時点では迷いのあるコメントも多かったが、チームとしての意志が統一され始めたことで、櫻井も持ち味を出せるようになった。
だが、ここからブーストをかけるには更なる新戦力の台頭が必要であろう。
そこで注目したいのが坪井清志郎だ。
本職であるセンターフォワードの位置ではなく、インテリオールやウイングでも出場時間を伸ばす修行帰りの若武者。
デュエルを厭わない勤勉性、ポジションによって異なるタスクをこなせる賢さ、
そして何より、スペシャルな右足というどこに置いても色褪せない武器を持っている。
今はチームに馴染むのに精一杯かもしれないが、その武器が解放されたとき、きっとチームを救う一撃が生まれるだろう。

どうにか勝ち越してみたい 密かに全勝狙い

ここまで『1勝7分』という成績、そしてその成績をもたらした試合内容を振り返ってきた。
現実は結果ほどネガティブではない、ということを再認識できた。
だが、あくまで”それなり”で”そう悪くない”だけと言えば、そうなのである。

本音を言えば、そりゃもちろんチームが勝っているところが見たい。
2分より1勝1敗のほうが得られる勝点は上という現実的な問題もある。
これまでの積み重ねと、これからの積み上げで、昇格へ向けた上昇曲線を描いてほしいものである。

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