野球の神様㉒

バットくんの第2打席目が回ってきた。

「ここまで俺以外に対しては9割ストレートしか投げていない。俺以外に、カーブが初球カウントをとるために2回、フォークが勝負球で1回、それだけだ」

頭の中でここまでの配球の展開をめぐらせながら、打席へと向かう。

ネクストバッターサークルにいるとき、ピッチャーの視線をなんとなく感じていた。それに気づいた瞬間、バットくんはピッチャーがバッターに投じた真っ直ぐのボールにあえてタイミングを外してボールを振ってみた。

「きっとネクストでの俺のイメージがピッチャーの頭の中にはすりこまれているはずだ。だとしたら、、、」

バットくんは審判とキャッチャーに「よろしくお願いします」とヘルメットのつばを持って軽く会釈をし、足場を均して左腰の重心をしっかりと確認し、打席に入った。

そして、ピッチャーに目線を向けた瞬間、ピッチャーがキャッチャーのサインに対して一度首を振って、それから少し間を置いてうなずく仕草を見せながら、「フッ」と一息強く息を吐いて、投球動作に入ろうとしていた。

「一度首を振った。これは間違いなく、真っ直ぐが来る」


カキーーーーン!!

ドスッ。


ピッチャーがボールをリリースした1秒後、

ボールはライトフェンス奥のスタンドに飛び込んだ。

バットくんは、安堵というか、清々しさというか、何か新たな野球道に向けた自信に満ちたような表情でダイヤモンドを堂々として周っている。


すばらしい。大きな成長じゃ。ふつうに考えたらこの状況、これまでの観察と思考を重ねた結果を総合して考えるなら、誰もが「カーブ」がくると読むじゃろう。でも、ここが普通の野球人とは一味違う。バットくんはその観察と思考から読みを作った上で、直前のピッチャーとの駆け引きで、最後の最後の相手の思考を完全に読み取りおった。おそらくあの状況で「ストレート」がくると思ったのは、ピッチャーとバットくんだけであっただろう。さすがじゃ。心からの賞賛を君に贈ろう。


この試合、バットくんは4打数3安打5打点の大活躍であった。しかも、バットくんはかつてないほどに、1試合を通じて身体の疲れをあまり感じていなかった。これまでケガをして休んでいた期間があったにも関わらずだ。

「これが楽して勝つということだな」

そのことを身をもって実感した貴重な1試合であった。


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