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都会の自然を発掘せよ〜フィリピンセブシティ編〜

 生まれて初めてフィリピンに行ってきた。場所はリゾートで有名なセブ島。だが、私の行き先はリゾートとは全く関係ないセブシティ。そこは海辺には砂浜ではなくスラム街が広がる。発展途上国らしい街である。
 さて、今回は生徒の語学研修先の視察が目的である。とはいえ常に「もしかして」を期待する私は、当然のごとく内緒で釣り道具を旅行カバンに忍ばせている。
 国内出張ではおなじみの「ちょっとそこまで」を海外でも敢行するのだ。この心がけが、沖縄では大成功を収めた。

この辺りで大抵の場所は何とかなるはず。

何が釣れるかわからないが面白い

 ネットで検索するセブ島の魚釣りは釣堀りのミルクフィッシュやティラピアだ。ミルクフィッシュとは日本人の知らない(食べない)世界一の養殖魚。汽水〜海水の魚だ。別名のサバヒーは「聞いたことあるな」程度。

サバヒー。セブの水族館で撮影。


 ティラピアなら高知や沖縄でたらふく釣っている。東南アジアの河川で爆増しているアフリカ出身の淡水魚だ。
 しかし、スラム街のあるような市内のドブ川での釣り情報どころか魚情報も0である。魚なんていないかもしれないが、いるかもしれない。

セブ島に到着してちょっとビビる

 Google Earthで検索した時から予感はしていたが、ガチの発展途上国”フィリピン”が与えるカルチャーショックは大きい。しかし、人々の表情は明るい。そんな雰囲気も「なんくるないさー」的な気候に納得である。到着した夜は同僚に連れられて夜間のスラムロレガ(これもスラム街)で大人の社会科見学。

 社会科見学の結果、野犬とスリにさえ注意すれば何とかなりそうだと判断した私は、日の出のタイミングに単独で宿を出る。途中のセブンイレブンでパンを購入。ほぼ経験のない外国のコンビニでの買い物。しかし、躊躇する心を「釣り餌」獲得の重要性が上回る。えいやっと購入して徒歩10分ほどの場所を流れるドブ川に向かった。ちなみに、フィリピンの歩行者信号はあてにならない。青信号も「目安」なので、油断しているとバイクや車が突っ込んでくる。日本の感覚でいるとやられてしまう。逆に、赤信号でも強引に行けば道路を渡れるようだ。何とも愉快な国なのであった。

赤信号でも渡ろうと思えばイケる。

”パクパクの魚”と”翻りの黒魚”

 Google Mapを片手に凸凹な道を突き進むとうっすらとドブの匂いが漂ってくる。「これは(笑)。」

ドブですわ。

 20年前の高知で嗅いだことのある化学的な匂いだがビジュアルが凄い。でも、「この匂いなら魚いるかも!」と期待を込めて川を覗き込むと
  パクパク。  パクパク。   
「いるな!」ということで食パン投入…。しかし、まさかのガン無視。都会の魚はパンが好きという日本の常識が通じない事態に直面する。気づけばパクパクの魚は水底に沈んでしまい、朝の魚釣りは失敗に終わった。

この落ち込みを狙うのだ。

ちびっ子との攻防戦

 夕方、すべての仕事を終え夕食まで1時間ほどの休憩時間があった。じっとしていることのできない私は再びパクパクの魚を求めて川に直行する。しかし、残念ながらパクパクは完全無。その代わりに何やら黒い魚が時々水面で翻る。再び食パンをばら撒くも反応なし。そこで、ミミズ系の匂いが染み込んだ人工餌を投入するも反応なし。「???」日本ではありえない。餌釣りの二大巨塔が通用しない。これは由々しき事態だ。

 ところで、フィリピンの人も「怪しい人には関わっちゃ行けないよ。」と育てられているのだろう。それだけこのドブでの釣りには我ながら違和感がつきまとう。そんな私を街ゆく人々は横目で捉えながらも、関わろうとはせず、足早に去っていく。
 まあ、それはそれで都合がいい。しかし、悲劇が訪れる。常識を恐れないちびっ子の襲来だ。5歳くらい?の少年が、ガンガン私に話しかけてきた。

少年「%&$#"&%$@"!」

私はとりあえず英語での意思疎通を試みる。
”Hey,What are you saying?”

少年「!#$”@’!%!”#”’!」

 諦めて日本語で応戦。英語が通じないのだからどっちにしても同じだ。
分からん!少年よ、とりあえず静かにしてくれ。魚が散る。

少年「%&&%$%&%%'*`!」

はぁ…。少年よ、悪いが無視するよ。
で、ちょっと静かになる。すると再び黒い魚が水面に翻り始めた。
次の瞬間、少年は再び興奮。魚は沈黙。

 こうして夕方の隙間時間は時間切れとなってしまったのだった。

見たことないナメクジがホテル前でお出迎え。

ラストチャンスの朝まずめ

 実質2日間の強行スケジュールで乗り込んだ今回の視察は最終日を迎えた。朝まずめの時合いを逃すまいと宿を出発。残念ながら水面にはパクパクの魚の気配は見られなかった。黒い魚は相変わらず翻るが、持ちの餌に興味を示さない。この魚たちにどのようなアプローチをすればいいのだろうか。練り餌を欲するが日本に置いてきた。

 それでも、やっていれば何かが起きるだろうと策を尽くす。しかし…残念ながら魚を目の前に釣り上げることはできなかった。半年後か1年後にもう一度この地を訪れることになる。「次こそ!」と誓い、後ろ髪を引かれながら帰国の途についた。

『釣り上げるよりも釣りをすることに意味がある。』

 有名なシーバスアングラーの方がおっしゃっていた一言に、私は随分と救われた気がしている。
今回はそんな釣行…いや、出張であった。

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