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衰退をポジティブに逆転するプレイヤーたちのクリエイティブな実践|『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』刊行記念トーク|【イベントレポート】

2018.1.19に大阪で開催された『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』刊行記念トーク。

おかげさまで満員御礼! 予定終了時刻を30分も延長しての熱気溢れるイベントでした。

取りまとめ兼進行役の馬場さんの読みどおり、4名のプレゼンターの皆さんから掘れば掘るほど出てくるネタのおかげで押しに押しまくったわけですが、粘って続いた終盤のディスカッションも面白く。

たいへん盛りだくさんな、4名各々の詳細な【エリアリノベーション】海外編となる事例紹介はぜひ本書を読んでいただきまして、ここではディスカッションまとめの4か国ダイジェストを。

①無一文になっても支え合う「連帯(コムーネ)」の気風
――イタリア・ナポリ(中橋恵)

アルベルゴディフーゾ(訳・分散型の宿)が人気のイタリアの小村では、なんて不運なアクセス性の悪さ、と嘆きたくなるような場所に、こぞって人が押し寄せている。美食、暮らしというシンプルな価値を楽しむ精神は、日本のように市町村単位ではなくコムーネという共同体の単位が基本となる構造によるところが大きい。

コムーネには連帯や共同体という意味があり、無一文になっても支え合おうという気風がある。この「コムーネ」という言葉に反応し、文化をつくる言葉の力は侮れない、と馬場さん。衰退は哀しいものではない、イタリアのように楽観できる精神性に、日本も学ぶところは多い。

②「中途半端」への寛容さ
――ドイツ・ライプツィヒ(大谷悠)

大都市でも山村でもないライプツィヒという都市では、ある種中途半端な都市は、中途半端な(キャリア志向でも農村回帰でもない)若者のクリエイティビティに寛容(失敗を厭わない=地域文脈への同調圧力もない)。

ライプツィヒでは20代そこそこの若者たちがデベロッパーの役割を果たすシステムを設計している。日本の不動産業界ではまずありえない自由度。とはいえこれは尾道や鳥取など、日本の地方に数多存在する30万人都市に、十分転用可能な仕組みでは。

③「潰さない仕組みづくり」の肯定
――ドイツ・ラオジッツ(中江研)

ラオジッツは、月面と揶揄される広大な露天掘り炭鉱の産業遺産で、地域の負の歴史をクリエイティブの力で肯定しようという試みの途上。ようやく日本でも価値が浸透しはじめた「産業遺産」は、これまでお荷物とされ、補助金目当てに潰すことが無条件に選択されていた。

だが、軍艦島を筆頭に価値観の逆転が起こり始めた。観光も産業の一つに位置付けられ、経産省が「近代化産業遺産」としてブランド化を推進する時代になった。文科省とは予算規模が格段に違う。ことが動く状況が整いはじめているので要注目、と馬場さん。

④民間発意を支援する「フレームワーク」
――アメリカ・デトロイト(阿部大輔)

「マスタープラン」でなく「フレームワーク」という言葉にはとても可能性を感じた、と馬場さん。デトロイトという財政破綻の極致を経験し、近代都市計画のマスタープランの限界を実証した大都市では今、不確実を前提とした行政主導でなく民間発意を支援するフレームワークのあり方が成熟してきている。

エミネムの8マイルに代表される貧富の格差を物理的に体現した都市でも、衰退の痕跡をとどめつつ、都市農園、アート、音楽、サッカーなどシンプルに目に見える治癒の連鎖で都市の化膿を止めることができる。未曾有の凋落を経験した大都市だからこそ、「公」ではなく「私」を起点とした計画のスパイラルアップを尊重し、実践できる。

白熱の2時間半でした。スタンダードブックストアさん、ギリギリまで会場を開けてくださってありがとうございました!

(写真提供:加藤優一

『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』

馬場正尊・中江研・加藤優一 編著
中橋恵・菊地マリエ・大谷悠・ミンクス典子・阿部大輔・漆原弘・山道拓人 著

日本より先に人口減少・縮退したイタリア、ドイツ、イギリス、アメリカ、チリの地方都市を劇的に変えた、エリアリノベーション最前線。空き家・空き地のシェア、廃村の危機を救う観光、社会課題に挑む建築家、個人事業から始まる社会システムの変革など、衰退をポジティブに逆転するプレイヤーたちのクリエイティブな実践。



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