「良き習慣の奴隷であれ」──自己啓発の大ベストセラーを読む

 オグ・マンディーノ (著)/稲盛和夫 (監修)/無能唱元(訳)『地上最強の商人』(日本経営合理化協会出版局、1996年)──。
 原書が1968年に出版され、全米200万部、世界で300万部を記録したベストセラー『The Greatest Salesman in the World』の邦訳。20か国で翻訳が刊行されており、自己啓発の書籍としてはまれにみる大ベストセラー(故・稲盛和夫さん監修)。
 訳者による本書の解説は以下──。

 「この『地上最強の商人』は、壮大な奇跡についての物語である。そしてまた、いかにしてごく普通の能力の人物が偉大な成功者へ変貌していくのか、という秘密について語られた寓話でもある。
 ラクダの世話をしている貧しい若者が恋をする。そして、その女と結婚したいばかりに、商人として成功し、大金持ちになりたいという願望を抱いた。
 ここに、はるかな昔から、選ばれた一人の人物により代々継承された不思議な十巻の巻物がある。そこには、世界最大の富豪になることも可能な、ある成功の秘訣が記されているという。幸運にも、この巻物を手にいれたこの若者はこれをくり返し読み、砂漠の貿易商人と呼ばれるラクダの大キャラバン隊を指揮するようになり、ついには、中近東の地で『世界最強の商人』とたたえられる大成功者となる」

 著者のオグ・マンディーノ氏は、1923年、ボストン生まれ。高校卒業後、4年間、空軍中尉として働いたのち、ボストンのメトロポリタン生命保険、シカゴコンバインド保険セールスマネージャーとして勤務。その間、数多くの挫折を経験。並外れた向上心により独学で〈人間の心のあり方〉の研究をはじめる。
 自己啓発雑誌「サクセス・アンリミティッド」編集長、サクセス・アンリミティッド・マガジン社の代表を務め、1976年から著作活動と講演活動に従事。アメリカでもっとも影響力のある作家の一人としてその名を挙げられ、その講演内容とともに、アメリカ各地で人気を博した人物。本書の他に『A BETTER WAY TO LIVE』『THE CHOICE』など、著書多数。世界20か国で翻訳され、総販売数は2500万部を超えるということです。96年、没。

 本書は400頁を超える浩瀚な一冊ですが、翻訳も読みやすく、ぐいぐいと引き込まれます。私が強く印象に残ったのは次の一節。

 「朝、起きるごとに、それまでに覚えたことのないような活力が体内にみなぎっているのを知る。かつて、夜明けのときに覚えた、あの漠然として不安感は一掃され、やる気は増し、希望に燃え、世の人々と逢いたくなる。
 かつて、私は、この世の中には争いと悲しみしかないと思っていた。しかし、その私が、今までに思ってもみなかった幸福な世界があることを知るようになる。
 知らず知らずのうちに、私は、日常生活の中で直面する出来事に、巻物の中に説かれている方法をもって、対処している自分の姿を見いだすようになる。そしてまもなく、それらの行動や反応が、ごく簡単かつ自動的に行なえるようになる。なぜなら、反復された練習の効果は、いかなる行為も容易にするからである。
 こうして、新しい良い習慣は私の内に誕生する。なぜなら、絶えざるくり返しにより、その行為が容易になると、それを行なうことが楽しみになるからである。楽しみになるゆえに、私は自然にそれをくり返し行なうようになる。何回も行なうゆえに、それは私の習慣になり、そして、私はその習慣の奴隷になる。そしてそれは良い習慣であるゆえに、私の意志になるのである」(本書、84頁)

 著者は、「人間は習慣の奴隷である。何びとも、この命令者には抵抗しえない。このゆえに、成功を願う者は自分で良い習慣をつくり、自らそれに従わなければならない」と言います。人間が習慣の奴隷であるなら、良き習慣の奴隷であれ。その良き習慣こそが人を成功に導くのだと説いています。
 本書の原書は上述のとおり1968年に出版。私の手元にある日本語版は1996年刊行。2022年時点で74版になっています。寓話の形式をとりながら、成功へと至るための心理学と、具体的な実践哲学を伝えています。
 迷いも悩みも尽きない日々にあって、自身の心身のバランスを取り戻すには何をすればよいのか。背中を強くおされ、励まされる思いを抱きました。


オグ・マンディーノ著・稲盛和夫監修・無能唱元訳『地上最強の商人』日本経営合理化協会出版局、1996年

(文責:いつ(まで)も哲学している K さん)

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