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「性格」の呪縛・ライフスタイル【アドラー心理学とは何か"臨床心理学と自己啓発を整理する"#4】

 「性格は変えられる!」よくアドラー心理学の主張とされ、胡散臭がられる点です。変われたら苦労しないと反感も受けやすい。
 インパクトは強いですが、現実的には、アドラーの考えを通して性格という捉え方を柔らかくすることが、行動を変える手がかりになる、という所でしょうか。「性格は変えられる!」に比べキャッチーさ激減ですが、日常でも多用される言葉「性格」に囚われている人は多いです。
 今回はまず「性格」を巡る様々な心理学の解釈を押さえた後、アドラー心理学的な性格の捉え方「ライフスタイル」を解説します。


1.原因論的な「性格」

 まずは性格のという語の意味を整理しておきましょう。一般の辞書ではこんな感じです。

せい-かく【性格】
行動のしかたに現れる、その人に固有の感情・意志の傾向。「ほがらかな―」「夫婦の―が合わない」

出典:デジタル大辞泉

 明るい・暗い、几帳面・大雑把、せっかち・のんびり、饒舌・寡黙という感じで対になる表現が多数使われますね。

 そして「私は暗い性格だからみんなと話せない」「あなたは暗い性格だから好かれないのだ」など、性格はよく理由に使われます。
 しかし、アドラー心理学はこうした短絡的な原因論を否定しています。「こんな性格だから」を原因として、言い訳やレッテル貼りの道具に使っていると考えます。
 
 実際、人はそんな単純化できません。大雑把な性格と思っていた人が、料理の分量は正確に測る、なんてことはよくあります。その時「大雑把な性格"のくせに"」と思う人もいるでしょうが、「あなたが勝手に括っただけ」となります。
 結局、性格はある人の一評価に過ぎません。本人が自分を評価した際もそうです。見方・見る人が変われば評価も変わります。性格という変えられないものが人間の根本に存在して、行動を決めているわけではないのです。
 ですが、性格を固定的かつ根源的に捉える見方は少なくないです。そもそも、性格心理学が、行動の原因となる人間の根幹を探る試みという側面もあります。

2.性格心理学・アセスメント、その限界

 ここから心理学上の話では、性格はpersonalityを指します。
 心理学でも「personality 人格」として、先天的な「temperament 気質」と後天的な「character 性格」を合わせたもの(文献①)とする捉え方もありますが、パーソナリティ研究の萌芽とされるオールポートは、パーソナリティが行動を決定する、行動の原因であると見ました(文献②p.2)。

Personality is the dynamic organization within the individual of those psychophysical systems that determine his unique adjustments to his environment.
(中略)Personality is something and does something. It is not synonymous with behavior or activity.

パーソナリティとは、精神身体的組織をもった個人内の力動的体制であって、彼の環境に対する彼独自の適応を決定するものである。
パーソナリティは行動や活動と同義ではない。それは行動の背後にあるものであり、個人の内部にあるものである。

出典:Allport(1937) p.48、訳佐藤・渡辺(1992) p.92(文献③、④)

 1940年代から様々な性格検査が作られました。主に性格そのものを分類する類型論、要素ごとに示す特性論の2種類があります(文献⑤)。
 現代の類型論代表は「16Personalities」でしょう。
◆ユングの流れを組み1962年に開発されたMBTI(マイヤーズ=ブリッグス・タイプ指標)(文献⑥)
◆…をベースに"Performer","Mastermind ”など16の名称を付けたKTS(Keirsey Temperament Sorter)(文献⑦)
◆…に類似したイギリスのNERIS Analytics有限会社が2011年から運営するサイトでの性格分類です(文献⑧)。
 
 進化系なのか、もどきもどきもどきなのか、私には判断ができません。言えるのは、多くの人が性格分類を求めるということです。

 現代の特性論代表は「ビッグファイブ」でしょう。90年代に確立した性格を5要素で説明する理論で、名称は識者で若干異なりますが概ね「外向性・協調性・勤勉性・情緒安定性(神経症傾向)・知性(開放性)」が要素です(文献⑨)。確かに一見性格を大体説明できそうな感じがしますし、ビジネスに利用しやすそうでもあります。しかし、これが絶対ではありません。

 こういった心理学的測定などを用いて個人の特徴を明らかにすることをアセスメントと言います(文献⑤)。上述は性格のアセスメント、知能検査が知能のアセスメントとなります。
 また、性格のアセスメントには投影法検査という、解釈が多様な言葉や絵に対する反応から性格や心の状態を捉える検査があります。1921年からあるロールシャッハ・テストが有名ですが、正直、理屈は私にはよくわかりませんでした。エビデンスに対する疑義は常にあり、投影法は盛んではなくなりましたが、現在も臨床上利用はあるようです(文献⑩)。

 いずれにせよ、日々色々なアセスメントが生まれているのは、確固たるものが未だない証でもあります。
 加えて、世には研究されていない「心理テスト」を標榜するものが溢れています。一見関係ない所から本当の性格が見えるとする投影法もどきです。信頼性がチェックされているものは皆無でしょう(文献⑤ p.145)。

 また、そもそも性格を行動の原因とする枠組み自体の限界が、ウォルター・ミシェル(1968)を発端に60年代から指摘されています(文献⑪)。行動は状況による影響が大きく、様々な状況要因を無視してアセスメントで出した性格だけで行動を説明することはできません(文献④ p.97)。
 例えば、協調性が低いと判定されても、必ず教室や職場で上手く過ごせないとは限りません。やる業務やメンバー、色々な要素で変わってきます。

3.ライフスタイル ~「性格」で縛らない~

 アドラーは、性格をライフスタイル(lifestyle)と表現しました。生活様式、行動の仕方・生き方全般を指し、各人に特有の習慣的な行動パターン(文献⑬)、思考や行動の傾向「クセ」です(文献⑭)。性格より変えられる感ありますね。
 もっともアドラーも簡単に変われるとは言っていません。仕草の癖やスポーツの癖も気づいて修正を試みても中々消えないこともあるように、思考や行動も染み付くものです。アドラーはライフスタイルの基本は4-5歳で形成される、現在は10歳前後とする識者が多いようです(文献⑫ p40)。過去の影響は否定できない、でも今から修正可能でもあります。

 そのために、性格ではなく行動を考えます。「面倒くさがりな”性格”だから掃除ができない」ではなく「掃除しないライフスタイルを送っている」、掃除が必要ならばその行動様式を変えるのです。
 目的論的な思考が大事ですね。結局、エネルギー使わないなどの目的を果たすため掃除をしないのであって、性格が原因ではない。
 実際にはこの話一つとっても、あまりに掃除してないから手を付けるコストが莫大になっていたりと事例によって難易度は様々ではあります。ただ、いずれにせよ、性格を原因にしても仕方ないということです。思考の中で言い訳しまくるクセに気づくだけでも、色々な行動が変わる可能性はあります。

 また、他者を見る上でも、性格での判断は限界があります。
 例えば、ある先生にAさんとBさんは学校でいつも静かに過ごし「おとなしい性格」に見えました。しかし、Aさんは家でも物静かですが、Bさんは家ではもの凄いはしゃぎぶりで騒がしい、ということはよくあります。
 Bさんは、学校や家という状況に合わせて行動していると言えます。クラスメイト集団が苦手かも、教師を気にしているのかもしれない。あるいは家族や呼んでくる友達が大好きなのかもしれない、この要因もそれぞれです。
Aさんも何があっても気持ちが落ち着いている人かもしれないけど、教室でもクラスメイトが、家でも家族が怖いから静かにしており、安心できる別の場所を見つければそこでは違うかもしれない。
 「性格」を決めた瞬間、他の可能性を排除する懸念はあります。事実はある先生がAさんとBさんの振る舞いを「おとなしい」と判断しているだけ、誰かの暫定的な見解です。
 
 ただし、性格の判断はあまり役に立たない、とも言いきれません。人間は「この人はこういう傾向がある」と特徴を見出すことで、関わり方を工夫してきました。それが役立つ機会もあるでしょう。
 大事なのは、その判断は思いのほか間違うと知っておき、盲信しないことです。抽象度が上がれば上がるほど表現は楽になりますが、その分当てになりません。この人は「明るい性格」より「人の悪口を言わない、会話の時いつも笑っている」、「集団では自分がどんどん話すが、相談に行くとじっくり話を聞いてくれる」、「よく集団で騒いで、同調できない人を無視する」など具体的な行動を述べた判断の方が実用的です。しかし、それでもなお例外はいくらでも生じる、完璧に「性格」を示すことはできないのはご注意ください。

 本内容は臨床心理でのアセスメントを全て否定するものではありません。普段、「こんな性格だから」と原因論的な思考が足枷や悩みになっている人を、固定的・決定的なものじゃないよと解放できるかも、という話です。

(次回へ続く)

【参考文献】

①井上嘉孝「『キャラ』 とパーソナリティの発達に関する一試論:現代的な関係性と自己観の心理学的見直し」『人間科学部研究年報』19、pp. 43-61、2017年
②岩熊史朗「パーソナリティと同一性」『文化情報学:駿河台大学文化情報学部紀要』142、pp. 1-15、2007年
③Allport, G. W. ”Personality: a psychological interpretation” Holt, 1937
④佐藤達哉・渡辺芳之「『人か状況か論争』 とその後のパーソナリティ心理学」『人文学報』231、pp. 91-114、1992年
⑤サトウタツヤ・渡邊芳之『心理学・入門 ―心理学はこんなに面白い 改訂版』有斐閣、2019年
⑥中澤清「MBTI 日本語版に関する基礎研究」『人文論究』47(3)、pp. 44-58、1997年
⑦David Keirsey & Marilyn M. Bates "Please Understand Me: An Essay on Temperament Styles"Prometheus Nemesis Books, 1978
⑧16Personalities「Our Framework」:https://www.16personalities.com/articles/our-theory (参照 2023年6月14日).
⑨林智幸「発達的観点からのビッグ・ファイブ研究の展望」『広島大学大学院教育学研究科紀要, 第三部, 教育人間科学関連領域』51、pp. 271–277、2003年
⑩小西宏幸「本邦でのロールシャッハ・テストはどこに向かうのか?:包括システムから R-PAS へ」『大阪大谷大学紀要』51、pp. 89-102、2017年
⑪Mischel, W. "Personality and assessment" Wiley,1968
⑫岸見一郎『アドラー心理学入門:よりよい人間関係のために』KKベストセラーズ、1999年
⑬E. Jones-Smith"Theories of Counseling and Psychotherapy(2nd edition)"SAGE Publications,2014
⑭鈴木義也・深沢孝之・八巻秀『アドラー臨床心理学入門』アルテ、2015年

・Olga Khazan "My Personality Transplant" The Atlantic March 2022 Issue, 2022(クーリエ・ジャポン訳「自分の性格が好きになれないあなたへ」2022年:https://courrier.jp/news/archives/280873/(参照 2023.6.14)

★アドラー心理学とは何か"臨床心理学と自己啓発を整理する" 一覧はこちら

<前回>#3 劣等感・コンプレックス
 https://note.com/gakumarui/n/nc0049a487067
<次回>#5「課題の分離」責任・主体は誰か
 https://note.com/gakumarui/n/ncbcf693f2a96

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