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研究者情報サイトの「所属」の見方 ~名誉教授は所属?~【KAKEN】

 現代は、一般の方でも研究者の情報を簡単に得られます。「KAKEN」や「researchmap」といったサイトでは、現在と過去の所属や研究行政が公開されています。「KAKEN」では所属に「大学, 学部・研究所等, 役職」の順で記されます。
 そうしたサイトを見た際、経歴に隙間がある場合がよくあります。例えば、以下の例ならば2012~13年度、そして2017~22年度の所属は記されていません。しかし、これは「所属なし」だったことを意味しません。

出典:KAKEN https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000010295694/

 今回は研究者情報サイトにおける「所属」について「KAKEN」を例に見ていきます。また、特に一般にはわかりづらい「名誉教授」に関して解説します。


1.情報サイトは全ての経歴を収集しているとは限らない

 「KAKEN」など研究者の情報を集めたサイトは、必ずしもすべての年度の所属を記録していません。
 「KAKEN」であれば「所属(過去の研究課題情報に基づく)」には「科学研究費助成事業」の情報が記録されますが、研究者は全ての年度で助成事業の支援を受けられるとは限りません。そのため、実際には所属や称号があった年度でも、サイト上に記録されない場合があります。 
 また、「KAKEN」の「所属(現在)」の欄は、現在の科研費電子申請システムの登録情報が記されます。最新年度に登録がなければ、この情報は表示されなくなります。
<参考>https://support.nii.ac.jp/ja/kaken/researcher_details

 冒頭の例ならば、2012~13年度・2017~22年度は「科学研究費助成事業」に採択された研究がなかったというだけで、その間無所属だったわけではありません。また、科研費が研究の全てではないので、研究業績が全くないというわけでもありません。

 なお、サイトごとに情報の収集方法・掲載基準は違うので、あるサイトで記録が無い期間も、別のサイトなら記録がある場合もあります。例えば、「researchmap」は研究者自身や大学など機関が情報を載せるサイトです。ここには先ほどの例で空白だった2012~13年度・2017~22年度の所属も記されています。
<参考>https://researchmap.jp/public/about/operations

出典:researchmap https://researchmap.jp/read0161457

 注意として、「researchmap」は研究者や機関が自発的に情報を載せなければ記されないので、「researchmap」の方が「KAKEN」より情報量が多いとは一概には言えません。

2.役職ではない称号「名誉教授」を「所属」に記す慣例

 この所属の欄に「名誉教授」という肩書が記されていることがあります。「名誉教授」は教授・准教授などと違って役職ではありません。功績のあった教員に対して、大学が退職時に与える「称号」であり、文字通り名誉に過ぎません。(法律上の位置づけや歴史など以前解説記事を挙げています。)

 名誉教授という称号を与える大学は、その後の雇用関係を結ぶ必要はありません。「○○大学名誉教授と名乗ることができますよ」という権利を与えるだけなので、研究者側は一度貰えば(剥奪されない限り)ずっと「○○大学名誉教授」を名乗り続けられます。(名誉教授に対して「特任教授」など特別なポストを用意してもう一度働いてもらうこともありますが、別制度です。「名誉教授」自体は「功績ある退職者」を意味し、現在のその大学との雇用関係の有無は問いません)
 一般的に所属といえば勤務先や就学先を指し、「元職場」を示す「名誉教授」を所属というのは違和感があります。しかし、論文など研究者の世界では、所属の欄に「○○大学名誉教授」と示されることはよくあります。(現在の所属が無い時「無所属」と書かれるより個人を識別するのに役立つ利点はあるかなと思います。)

 例えば、「KAKEN」で過去の所属が以下の通り記されていれば、それまで教授をつとめ、22年度をもって退職し名誉教授になったことを指します。

2023年度: ○○大学, △学研究科, 名誉教授
2010-22年度:○○大学, △学研究科, 教授

 ただ、先ほど述べた通り、サイトには全ての情報が記されるとは限らないので、記載に空白の期間が生じることがあります。

所属(現在)2023年度: ○○大学, △学研究科, 名誉教授
所属(過去の研究課題情報に基づく)2004-2012年度:○○大学, △学研究科, 教授

この例であれば、「2012年度終了時またはその後10年間のどこか」で退職し、名誉教授の称号をもらっています。その10年間は「KAKEN」に残る研究成果はないものの、現在も研究者として「科学研究費助成事業」に応募する意志を示している(少なくとも登録はしている)ということになります。

 こうした性質上、「KAKEN」では時にこんな表記も生じます。

2017年度-2023年度: ○○大学, △学研究科, 名誉教授
2012年度-2015年度:○○大学, △学研究科, 名誉教授

2016年度だけ名誉教授ではなかったかのようにも見える表記ですが、1年だけ名誉教授を剥奪して再付与なんてことはまずありません。開きがあるように見えるのは「KAKEN」に記録がないだけで、実際には2016年も名誉教授です。

★過去の教育学解説記事


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