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Uber配達員の”危険の現実化”。冒頭手続、詳報。

東京地裁 -刑事事件-

(初公判)

2022年1月26日(水曜)13:30~15:30 718号法廷

罪名:業務上過失致死

被告:A  (保釈中)


<公訴事実>

 被告人は、自転車による有償の食品配達業を営んでいる者であるが、令和3年4月17日午後7:05頃、配達中に業務として自転車を運転し、東京都板橋区内の道路上において、時速20km~25kmで進行中、自車には前照灯の装備がない上に、眼鏡に雨滴、或いは汗が付着し前方が見えにくい状態であるから、慎重に運転する業務上の義務があるのにこれを怠り、減速、前方を注視する事なく、その過失により、丁交差点に設けられた横断歩道を右方から左方に渡っている被害者(当時78歳)を4.5mの距離で見つけた為、急制動を講じたがこれが間に合わず、自車に衝突させ、同人は転倒し、同月19日午後8:20頃女子医大病院で死亡させたものである。


<12:55~傍聴券交付開始>

 既に、20名程が列を成しており、注目の高さが窺える。

 結果、傍聴席は14席分のみのところ、64人が並んだ。

<13:25~傍聴人入廷開始>

<13:26 被告人入廷>

スーツ姿で、終始下を向き、緊張気味であった。「スッー」と大きな深呼吸をしていたが、息が荒く、小刻みに震えていた。短髪、黒髪で普通の青年に見える。


<13:30 開廷

裁判官- 名前は?

被告人- 〇〇です。(泣いており、声が小さく、傍聴人が耳を澄ませていた。)

裁判官- 職業は?

被告人- 会社員です。


・起訴状読み上げ(前記、公訴事実を)

裁判官- 今読み上げられた事実に、間違えはありますか?

被告人- 間違えありません。(声を絞り出すように)


・証拠調べ手続

検察官- 被告人は、東京都内で出生後、大学を経て、父親の経営している会社の役員として稼働していると共に、平成31年2月から有償の食品配達業を営んでいた。婚姻歴はなく、犯行当時は実家で生活していた。

 被告人は、アプリを利用した食品配達会社に配達員として委託を受け、平成31年2月から稼働していた

 この配達委託会社では、配達回数や配達距離に応じて報酬を支払われていた為、被告人は効率よく配達を行い、出来る限り多額の報酬を得ようと常に迅速な配達を心がけていた。

 また同社では、悪天候時や一定の条件下において配達を行うと「インセンティブ報酬」が生じていた為、被告人は悪天候下においても「インセンティブ報酬」を得る為に配達をしていた。

 被告人は配達当初は、「ママチャリ(何と言っていたかは忘れました。)」を使用していたが、より高速で快適な「ロードタイプ」の自転車に変更した。

 被告人は、稼働開始から本件までの間に、

1,286回の配達を行い、合計 約80万の報酬を受け取っていた。


・本件の犯行状況

 検察官- 被告人は、犯行当時は17:00頃から食品配達を開始した。

本件自転車は、前後輪のブレーキパッドが大きく摩耗しており、整備不良の状態であった。夕方には雨が降り始めたが、「インセンティブ報酬」を得る為、配達を継続した。また、自転車の前照灯が壊れていたが、そのままの状態で配達を継続した。

 被告人は、板橋区内の飲食店から配達依頼を受けた事から、依頼先の店舗に行き、商品を受け取った後に注文者に配達を開始した。

被告人は、雨が降っていた為、撥水性のフードを着用し配達を行っていたが、ヘルメットは被っていなかった。

大型の配達用バックを背負い、時速20km~25kmで走行し、本件現場に進行していた。


 本件現場は、

 ・交通整理(信号機)のされていない、T字路交差点

 ・ガードレールによって、分離された歩道が存在する。

 ・そこに、道路を横切る様に横断歩道がある。

被告人は、少なくとも23.9mの時点で横断歩道を認識していたものの、時速20~25kmで進行していた。

同時に、被告人の目に雨滴が付いた為、これを拭う為に両手を交互にハンドルから手を離した状態で走行していた

被告人は、横断歩道から4.5mの時点で、左方から右方に渡っている被害者を発見し、急制動を講じたが間に合わず、被害者に追突した。被害者は、2.9m飛ばされた。

4月19日午後8:20頃、外傷性頸部内損傷により、搬送先の病院で死亡が確認された。

被告人の後方で自動車を運転していた目撃者が、110番通報を行った。


・検察官の採用証拠の読み上げ

(必要事項のみを取り上げます。)

・甲3号証 「目撃者の供述調書」

 目撃者は、この周辺で荷物の配達(Uberではない。郵便かと。)を行っていた。この周辺は、病院や小学校がある事から、小学生から高齢者まで幅広い年齢層が住んでいる。また、この地域は細い道が多い事から、子どもが飛び出してくる事もあった為、前方注視と速度の出し過ぎに注意していた。
 本件時の状況だが、前方の左側に被告人の自転車が見えた。丁度、雨が降り出した為、ワイパーを使用していた。目撃者は、車の前照灯を点灯させていたが、道路には街灯が設置されていたから、道は明るかった。
 被告人は、ハンドルから左右の手を交互に離していた。自転車は当時、20~25kmで走行していた為、追い抜く事はせずに、後方にいた。
 目撃者は、約40m手前で被害者を認識したが、被告人はそのままの速度で直前まで走行していた。被害者に衝突後、「大丈夫ですか?」と声を掛けたが反応は無かった為、救急車に通報した。被告人は、スマホを持ったまま、焦っていた。


・甲12号証 「被害者の妻の供述調書」

 夫は、家族想いの良い人だった。「夕飯を買いに行く」と言って、外を出た。警察から電話がきて、事件を知った。病院に行ったら、医師から「とても自転車と衝突したとは思えない程に、脳の損傷が激しい。」と言われた。目の前が真っ暗になり、現実が受け止められなかった。
 被告人の処罰感情については、「しっかりとした刑罰を下して欲しい」。現場は自宅の目の前で、そこを毎日通らなければ何処も行けない為、仕方なく通らざるを得ず、その度に心を痛めている。生きている限り、この状態が続く。
 私も息子も、同様の配達員には夫の件を除いても、良いイメージが無い。普段の外出時にも、配達員はもの凄いスピードで配達をしており、いつ夫と同じ事故が起きても不思議でたまらず、仕事であっても、安全対策を施し欲しい。

(被告人は、下を向いたまま、小さな声で泣いていた。)


・甲16号証 「自転車販売会社の整備担当社員の供述調書」

 ロードバイクは、制動距離が通常の自転車と比べて、長くなる。それに加えて、被告人の自転車はブレーキパッドの摩耗が激しく、修理に出せば、すぐに交換するレベルである。


・乙2,3号証 「被告人の供述調書」

 被告人は、特に決まった時間はなく、「ブースト」や「クエスト」の特別報酬に応じて配達を行っていた。本件当時も、「ブースト」や「クエスト」が支払われる為、雨天にも関わらず配達を継続した。
 いつもは、土地勘のある場所で配達を行っているのであるが、今回は土地勘のない場所であった。
 被告人は、1件分の料金が決まっていた為、効率を重視して迅速に配達を行っていた。 「ブースト」、「クエスト」が発生しないと、一般的なバイト代よりも低くなってしまうから、発生しない日は配達をしない。
 配達委託会社が行っていた、「安全講習会」は受けていなかった。(少し文句ですが、私も安全講習を4度程応募しましたが、落選。これが量刑に判断に影響が生じれば、被告人の不利では? 追記:判決文には記載がありませんでした。)
 被告人は、配達当初の2か月はママチャリ(これも正式名称でしたが、忘れました。。)であったが、友人からロードバイクを譲り受けた。
 本件当時は、前照灯が壊れていた。
 当日は、17:00頃から配達を始めた。配達先が十条駅方面であった為、マップを確認し、普段より少々速度を抑えて走行していた。
 本件自転車には、速度計が無かった為、正確な速度は分からないが、20~25kmであった事には、「間違えない」と供述した。
 本件現場は、これまでに配達業務外でも走行した事が、数度あった道である。

・乙5号証 「被告人の交通違反歴照会結果」

弁護人- これについては、乙5号証が採用される場合には、乙1号証「身上経歴等」がいらないのでは? 一部は、15年前の違反歴である為、本件には関係性がない。

裁判官- 相当古いですので、不採用とします。


・弁護側証拠調べ

・弁1号証 「示談経過報告書」

 被害者の長男と弁護人が4月からやり取りし、6月23日には長男と被告人が弁護人立会いで面会した。
 損害賠償については、Uber側の保険から支払われる。
 Uberが契約している保険会社は、最大で1億円を支払う事となっており、現在までに、保険会社が提示した金額である350万円は治療費、3400万円は慰謝料として提示している。(合計 3750万円)(※ウーバーイーツユニオン様より、御教授を賜りました。誤り、失礼致しました。)


<証拠調べ、終了>

最後に、

弁護人- 情状証人よりも先に被告人質問をお願いします。

裁判官- そうしましたら、被告人質問を先行して行う事とします。

(本来の刑事続きは、証人尋問→被告人質問ですが、今回は弁護人が被告人の反省の程度を明確化させ様としたのかと。)


<14:24 休廷>

被告人質問・証人尋問に、続く。

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