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1年前①

M-1グランプリ2003の笑い飯の漫才を見たあの日から、ずっと何かがモヤモヤしている。

その『モヤモヤ』の正体には、すぐに気がついた。気がついてはいたが、

『まぁまぁ、自分の気持ちに気づくのが遅かったってことで。』

と、自分で自分を諌める毎日だった。


『M-1に出たい』


そんなことを思ってしまう、自分と、それに付随してくる感情のすべてを『恥ずかしい』と感じていた。

こんな歳で、何かを始めようとすることが恥ずかしい。親に説明することが恥ずかしい。友達に気づかれたら恥ずかしい。まだ何も始まっていないのに、テレビを『やる側』目線で見だしていて恥ずかしい。何の根拠もないのに「俺なら上手くいくんじゃないか?」と、ちょっと思っちゃっていることが恥ずかしい。そもそも、夢を持ってしまったことが恥ずかしい。

何かを抱えたまま年が明け、2004年になった。


そんなとき、仕事先でたまたま、同級生の『たっちゃん』と遭遇した。

たっちゃんの実家は理髪店で、彼は高校卒業後、実家を継ぐために美容専門学校へ進学していた。この頃の僕たちは22歳になる年齢だったので、卒業して2年ほど経っていた。

僕「たっちゃんやん!ひさしぶり!何してんの?こんなとこで!」

た「おー!おくちゃんひさしぶり!バイト帰りやねん!」

僕「バイト?散髪屋になったんちゃうん?」

た「なろうと思ってんけどな、ちょっと前にやめてん。」

僕「え?なんで?」

た「俺、スノーボードのプロになろうと思って。」

僕「へ?」

た「だから、今年は金貯めて、来年は一年中スノボやろうと思って。冬は日本で滑って、夏は北欧で滑るために金貯めてるねん。」

僕「すげえな!」

た「全然すごないよ。めちゃくちゃ親に文句言われてるし。まぁ、またな!」

僕「うん!また!」


自分が恥ずかしいと思った。

『恥ずかしい』と思っていたことを、恥ずかしいと思っていた自分が、一番恥ずかしい思った。

家に帰り、初めてNSCのホームページを見た。

本当は、これを一番最初にやりたかった。

だけど、『お笑い』を自分に近づけたくなかった。近づけたら、たぶん抱きしめてしまうと思ったから。

M-1を見た日から、たぶん1ヶ月ほどしか経っていなかったと思うが、その瞬間に、気持ちをせき止めていた心のダムが決壊した。

次の日、人生で初めてピアスをあけた。

『いや、今やることは絶対にこれじゃないって!笑』

と思いながら。


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