日本で最初の姉弟ゲンカ
父の伊邪那岐神(イザナキノカミ)に国を追放された須佐之男命(スサノオノミコト)は、黄泉国(よみのくに)にいる母の伊邪那美神(イザナミノカミ)のところをへ行く前に、姉であり、高天原(たかまのはら)を治めている天照大御神(アマテラスオオミカミ)のもとへ挨拶に行くことにしました。
このとき須佐之男命は追放されて心が荒ぶっていたので、天に上る時、歩くたびに雷鳴がとどろき、山、川、大地も揺らぎました。
その轟音を耳にした天照大御神は、
アマテラス「弟が来る!けど何しに来るん?「海の国を治めなさい」っていうお父さんの言いつけも守らんと。。まさか!私が治めてるこの高天原を奪いに来たんちゃう!?」
と訝られた(いぶかられた)天照大御神は、ただちに武装にとりかかり、弟が来るのにお備えになりました。
男のように神を結い直し、男装をなさいました。さらに、五百個の八尺勾玉(やさかのまがたま)を、髪に巻き、左右の手に持ち、背には千本の矢が入った靫(ゆぎ)という矢を入れる武具を、また脇にも五百本の矢が入った靫を付け、稜威高鞆(いつのたかとも)という武具を装着した。まさに完全武装です。
男装で身を固めた天照大御神は、引くのに力のいる強弓を起こして、堅い地面に股まで踏み入れ、地面を雪のように踏み散らかし、威勢よく雄叫びをあげ、まさに臨戦態勢で弟と対峙なさいました。
アマテラス「止まれ!止まらないと射つ!!」
スサノオ「いや、もうブチ切れてるやん!待って!違うって!」
アマテラス「何が違うねん!この国を奪いに来たんやろ!?」
スサノオ「いやいやいやいや!お父さんに「お母さんに会いたい」って言うたら、お父さんが「この国から出ていけ!」って言われたから、出ていく前に姉ちゃんに挨拶だけしとこうと思って来ただけやねん!」
アマテラス「なんや、そういうことなら、、って言うと思ったか!油断したところを奪うつもりやろ!」
スサノオ「(こいつマジでなんやねん)わかったわ!ほんなら、神に誓いを立てて、俺ら二人がそれぞれ子供を生んで、その生まれた子供によって、俺が本心を言ってるか判断してくれや!」
アマテラス「誓約(うけい)をするってことな?いいよ。本心暴いたるわ!」
誓約とは、あらかじめ決めたとおりの結果が現れるかどうかで吉凶を判断する占いの一種です。
二柱の神は天の安の河(あめのやすのかわ)を挟んでお立ちになり、初めに天照大御神が須佐之男命の帯びていた十拳剣(とつかのつるぎ)を自分に渡すように仰せになり、受け取ると三つに打ち折り、天之真名井(あめのまない)という神聖な井戸の水ですすぎ、それを口に入れて噛みに噛んで、ふっと吹き出した。その息が霧となり、その霧の中からたちまち、多紀理毘売命(タキリビメノミコト)、市寸島比売命(イチキシマヒメノミコト)、多岐都比売命(タキツヒメノミコト)という女神が現れました。この三柱の女神は福岡県宗像市の宗像大社に鎮座しています。有名な宗像三女神(むなかたさんじょしん)です。素晴らしい神々です。天照大御神のドヤ顔が浮かびます。
つづいて須佐之男命が、天照大御神の左の角髪(みずら)に巻いてあった勾玉(まがたま)をもらい受け、同じように神聖な井戸水ですすぎ、噛みに噛んで、ふっと吹き出した。その息がまた霧となり、その霧の中から現れたのが正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト)です。のちに生まれる初代神武天皇の高祖父(ひいひいおじいちゃん)ですので重要な神様です。
さらに、右の角髪にまいてあった勾玉も同じように噛みに噛んで吹き出した。すると天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)が現れました。こちらは、のちに大国主神(オオクニヌシノカミ)と深く関わる重要な神様です。
さらに、御縵(みかずら=頭)に巻き付けた勾玉と、左の御手の勾玉と、右の御手の勾玉も、それぞれ噛みに噛んで、神が現れました。
アマテラス「(手数で勝負かよ。。)」
こうやって天照大御神の持ち物からは、五柱の男神が現れました。
スサノオ「ほら!これで俺が挨拶しに来ただけで、国を奪う気なんて無いってことがわかったやろ!?」
アマテラス「、、、」
スサノオ「なんで黙ってるねん!なぁ!なぁって!、、、あ!」
アマテラス・スサノオ「(ルール決めるの忘れてた。。)」
そうなんです。『これがこうなったらスサノオが正しくて、これがああなったらアマテラスのほうが正しい』というルールを決めずに、勢いで誓約を始めてしまっていたのです。
妙な雰囲気になってしまった二柱の神ですが、先に天照大御神が仰せになりました。
アマテラス「数もそうやけど、やっぱり男神を生んだほうが正しいと思うねん。」
スサノオ「(お?姉ちゃん意外と優しいやん)」
アマテラス「あとから生まれた男の子は、私の勾玉から生まれたわけやから当然、私の子ってこと。」
スサノオ「(え?)」
アマテラス「先に生まれた三人の女の子が、あんたの子。ってことで私が正しいってことで。じゃあ。」
スサノオ「待て待て待て!お前マジか?」
アマテラス「なにが?なんか文句ある?」
スサノオ「(コイツ、、、)ハッ!!」
アマテラス「なにが「ハッ!!」やねん。」
スサノオ「っていうか姉ちゃんさぁ、この誓約は『俺の言ってることが嘘かどうか?』で始まったわけやんなぁ?」
アマテラス「そ、そうやで。」
スサノオ「ってことは、俺の心が正直で清らかやから、こんなに優しい女の子が三人も生まれたってことやから、俺は嘘をついてないってことよな?」
アマテラス「クッ!」
スサノオ「俺の心の潔白を証明する勝負やったってことは、勝ったのは誰?」
アマテラス「、、、(ボソボソ)」
スサノオ「なんて!?」
アマテラス「、、、アンタの勝ち。」
スサノオ「なんて!!??」
アマテラス「アンタの勝ち!!!」
スサノオ「そう!!俺の勝ちや!!じゃあ!!そういうことで!!」
須佐之男命は勝ち誇って引き上げていきました。天照大御神は不安を覚えられたことでしょう。もともと弟の須佐之男命は荒ぶる嵐の神だったからです。
須佐之男命にしても、せっかく挨拶にきたのに、姉に一切信用されず、完全武装までされていて、しかも誓約の結果に意地悪な判定まで下してきたので、勝ったとはいえ納得は出来ませんでした。
イライラした須佐之男命は、天照大御神が高天原に作った田の畔(あぜ)を壊し、溝を埋めた。さらには、大嘗(おおにえ=新嘗祭)を行う神聖な神殿に糞を撒き散らし、高天原で大暴れしました。
須佐之男命のひどい行いにもかかわらず、天照大御神はこれをお咎めにならず、
アマテラス「まぁほら、糞を撒き散らしたっていうけど、酔っ払ってたんじゃない?田畔を壊したり溝を埋めたっていうのも、もっと耕せる土地があるって考えたんやと思うよ?」
と仰せになりました。ちょっと意地悪してしまったので、かばってあげることにされたのかもしれません。
しかし、弟の悪態は悪くなる一方でした。
ある日、天照大御神が機織女(はたおりめ)たちに高天原の神々の衣を織らせていると、須佐之男命はその機織小屋の屋根に上り、穴をあけ、尻の方から皮を剝いだ血だらけの馬を落とし入れました。
あまりのことにびっくりした一人の機織女が、機織り道具の梭(ひ)で陰上(ほと=女性器)を突き刺して死んでしまいました。
アマテラス「もうイヤや、、、」
もう、弟のことがわからなくなってしまわれた天照大御神は、高天原にある洞窟の入口を塞いでいる岩である『天の岩屋戸(あまのいわやと)』をお開けになって、洞窟の中にお引き籠もりになってしまいました。
太陽の神である天照大御神が隠れてしまわれたので、高天原(天上界)も葦原中国(地上界)も暗闇に包まれ、悪しき神の声が夏の蠅のように満ちあふれ、ありとあらゆる災いが起こりました。
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今も昔も、姉弟はケンカをするもんですね。
次回、笑いは世界を照らす?
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