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哀しみのスサノオ

高天原を追放された須佐之男命(スサノオノミコト)は自らの罪を贖う(あがなう)ために、神々に供える食物を、大気都比売神(オオゲツヒメノカミ)に求めました。大気都比売神は鼻・口・尻からたくさんの美味しそうな食べ物を取り出し、料理して差し出したのですが、須佐之男命は

スサノオ「お前、なんちゅうところから食べ物出しとんねん!わざと汚くしとんねやろ!」

と勘違いをし、大気都比売神を殺してしまいます。自らの罪を贖うためにお願いしたのに、気に食わなかったので殺したということです。はい。なんにも反省されていません。まだまだヤンチャであらせられます。

ちなみに、殺された大気都比売神の体から、さまざまな大切なものが生まれます。頭からは蚕(かいこ)、二つの目からは稲、二つの耳からは粟(あわ)、鼻からは小豆(あずき)、陰部からは麦、尻からは大豆が生まれました。頭から生まれた蚕以外を『五穀』といい、大気都比売神は『穀物の神様』となりました。さらにその五穀を、日本で最初に生まれた三柱の神のうちの一柱である神産巣日神(カミムスヒノカミ)が拾い上げ、『種』として地上にお授けになります。これにより人間は五穀を育て、食べるようになり、たくさん実ると『五穀豊穣』を神に感謝するようになったのです。

さて、須佐之男命は、出雲国(島根県)の斐伊川(ひいがわ)の上流の鳥髪(とりかみ)という所に降り立たれました。

うっそうと茂る森の中で、色々と考えを巡らせておられたのかもしれません。

(ハァ、、俺はなんも悪いことしてないのに、、なんでこんなことになんねん、、そんなことより腹減ったなぁ、、さっきの料理食っといたらよかったなぁ、、)

はい。全然客観視出来ておられません。するとこの時、川上から、どんぶらこどんぶらこと大きな桃ではなく、普通のお箸(はし)が流れてきました。須佐之男命は川上に誰か住んでいるとお考えになり、川をお上がりになりました。

案の定、川上に一軒の家がありました。しかし、どうしたことか老夫婦が若い娘を挟んで泣いています。須佐之男命はお尋ねになります。

スサノオ「どないしはったん?」

老父「(誰や?けど、立派な神様ぽいから答えとこか)わたくしは国つ神(くにつかみ)の大山津見神(オオヤマツミノカミ)の子で、名を足名椎(アシナヅチ)と申します。妻の名は手名椎(テナヅチ)、娘の名は櫛名田比売(クシナダヒメ)と申します。」

『国つ神』は高天原にいる天上界の『天つ神(あまつかみ)』に対して、葦原中国に土着した地上界の神々の呼び名です。大山津見神は出雲の守護神で、『神生み』の時に生まれた『山の神』のことです。

スサノオ「そうなんや。ほんで、なんで泣いてるん?」

アシナヅチ「(自分は名乗らんのかい!)実はわたくしどもには八人の娘がいたのですが、毎年、八俣遠呂知(やまたのおろち)が来て、一人ずつ餌食にしていて、この娘が最後の一人なんです。。そしてまた、あの怪物がやってくる時期が来てしまったので泣くしかないんです。。」

スサノオ「(。。。娘めっちゃ可愛いやん。)」

アシナヅチ「あの、、聞いてます?」

スサノオ「ああ!ごめんごめん!ほんで、それはどんな遠呂知(おろち)なん?」

アシナヅチ「それはもう恐ろしい姿かたちをしております。目は熟したホオズキのように赤々としていて、一つの体に頭が八つ、尾も八つ、その体には苔(こけ)、檜(ひのき)、杉などが生え、大きさは八つの谷、八つの峰に渡るほど大きく、その腹はことごとく血がにじんでいます。」

スサノオ「、、、お父さん。」

アシナヅチ「お父さん?」

スサノオ「娘さんを僕にください!!」

アシナヅチ「どういう意味!?なんでこのタイミング!?」

スサノオ「僕がその遠呂知を退治するから!娘さんを僕にください!」

アシナヅチ「君に、、君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!、、、いや、絶対こういう話するタイミングじゃないって!ほんで、ずっと思ってたけど、君誰やねん!」

スサノオ「僕は天照大御神(アマテラスオオミカミ)の弟で、須佐之男命と言います。ついさっき天から降りてきました。」

アシナヅチ「そうか、君があのスサノ、、、須佐之男命!!??いやいやいや、なんで!?もう何がなんだかわからん!色々起こりすぎてる!処理が追いつかん!」

スサノオ「、、、あの、それで娘さんはくださいますか?」

アシナヅチ「いや、敬語やめて!君のほうが偉いねんから!ってか、わしがタメ口使ってるのもあかんがな!なんと畏れ多い!どうぞふつつかものでございますが、我が娘をもらってやってくださいませ!」

こうして、櫛名田比売と結ばれた須佐之男命は、遠呂知退治の準備をはじめられました。まず、櫛名田比売をその御力で神聖な櫛(くし)に変えて、御自分の髪に挿して、遠呂知から隠しました。そして、足名椎と手名椎の神に命ぜられました。

スサノオ「お義父さん、お義母さん、めちゃくちゃ強い酒を用意してください。それから家の周囲に垣根を巡らして、そこに八つの穴をあけて、その穴ごとに台を置いて、その上に酒船(さかぶね=さかだる)を置き、その酒船に強い酒を満たしておいてください。」

老夫婦は、ムコ殿の言われたとおりに準備をしました。

スサノオ「あとは、遠呂知が現れるのを待つだけだ。」

どのくらいの時間が過ぎたのだろう。気がつけば日は暮れ、あたりには怪しい気配が漂っていた。

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