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裁ち鋏論 その3 東鋏論〜長太郎、長勝について〜

花粉が大変な時期です。私も花粉症なので、日々ツラいです。それでも、家で出来る仕事なのでありがたくはあります。

今回は、このnoteを始めるに当たって一番書きたかった内容の一つです。
それは、『長太郎』。
東鋏』と言えばコレ、と言っても過言ではないですし、ある程度裁縫を齧った方ならば聞いたことはあると思います。
東鋏』の最高峰なんて言われますね。
プレミアが付いていたり、コレクターもいらっしゃるのでしょう。
それと、後に説明しますが、別に解説することは憚られる『長勝』についても書いていきます。

私も『長太郎』を使い始めたのは数年前くらいです。
所持はしていたのですが、もう製造されていないということもあり、勿体なく思えて…。ですが、使わない方が勿体ない、と思い直し、数年間使いました。
最近でも、手が出せそうなら、集めてもいます。

ネットを見ていると、研師さんの見解であったり、コレクター目線であったり、裁縫を生業にしている方の『長太郎』観は余り見ない様に感じました。
そこで、数年ではありますが、使ってみて見えてきた優れた点を書こうと思ったのです。


先ずは『長太郎』と『長勝』の関係性についてです。
コチラの前回も使用した『東鋏』の系統図をご覧ください。


自作の図

吉田弥十郎(弥吉)さんを始祖として、直弟子の1人が初代の長太郎さんです。初代の息子さんが二代目の長太郎さん(本名:さん)。二代目の息子さんが三代目長太郎さん(本名:さん)、二代目の直弟子が長勝さん(本名:さん)となります。
長太郎派などと呼ばれる同系統になるわけですね。
(コチラに正次郎さんなんかも入れたかったのですが、私が正次郎の鋏を所有していないので、割愛します。余談ですが、正次郎さんは千葉は成田で現在も続いているようです。いつか現行の正次郎さんと初代正次郎さんのものは手に入れたいです。)

私はこの中でも二代目のものと、三代目のもの。そして、長勝を所有しています。

左から二代目が4本、三代目が4本、長勝が2本

簡単な見分け方をここで記載しましょう。(初代のものは流石に所有していないので、ネットにあった画像をお借りしました。)

ザ・蝶なのが初代。蝶の中にも字はありません
羽根が尖っていて、触覚に先に丸いのがあるのが二代目
羽根が丸く、触覚が気持ち短めなのが三代目
ついでに長勝です。分かりやすい

分かりやすいので言えば、この蝶のマークで何代目なのかが分かります。
もしかしたら他にも見分ける方法があるのかもしれませんが、私の知っているのはこの見分け方です。
長勝さんは一代だけなので、一目瞭然です。

次に長太郎と長勝の特徴になります。
コレが割と重要な部分ではないか、と私は考えています。

親指の方が少し曲がっています
左が團十郎、右が長太郎。
親指側を比べてみて下さい

この様にハンドル、特に親指を入れる方が若干曲がっています。
コレによって力が逃げることなく、少ない力でもモノが切れる、という印象です。


雑に丸で囲んだところが他の鋏と比べると細いです

あとはイボ(エボ)、ヒットポイントと呼ばれるストッパーの役目をする部分が細めなのも特徴です。
コチラはどういう作用があるのかは研究中です。
恐らく力が分散せずに集中するだろうことしか分かりません。

赤い矢印の部分の弧が他の鋏より強い気がします

刃の部分(シノギと呼ばれたりします)の膨らみは大きいと思います。コチラも切れ味に影響しているのでしょう。柔らかい切れ味を実現していると思います。

左が長太郎、右が團十郎。
ハンドルの長さを見てください

また、ハンドル部分は他の鋏と比べると若干長く作られている様に思います。手の入れやすさに繋がっているのだと考えられます。

手前が團十郎、奥が長太郎。
ネジが若干高いです


手前が長太郎、奥が團十郎。
この写真だとネジの高さは分かりにくいかもしれません

あとは、こちらの要と呼ばれるネジ、これが高いのです。立っていると言っても良いですね。
置いた時に机から浮きます。
この作用で机から手で持つ際に持ち上げやすい、掴みやすいという特徴があります。
毎日の仕事で使うには割と重要になる部分です。

長太郎と長勝は硬い生地(繊維の太い麻など)でも柔らかい生地(カシミヤなど)でも、天然繊維、科学繊維、どんな素材も選ばずとにかく切れる。しかも、長切れ(研ぎに出すまでが長い)する、というのが私の使った感想です。
これは使っている鋼の要素なのか、それとも鍛錬方法によるものなのか、こちらは研師の方のほうが分かることなのでしょう。
ただ、試し切りの様な小さな生地片だけを切るよりも、長期間様々な用途に使ってみての切れ味、切り心地の感覚はプロとして仕事をしてみて実感したものです。
ただし、余りにも切れ味が良いため、繊維一本を感じとって裁っていくというのには向いていないかもしれません。そう言う繊細さよりはスパッと何でも切るという方が向いていそうです。どう言う鋏が欲しいのか理解している方にヒントになれば。

とは言え、とにかく「最高峰」という噂は納得のいくものでした。
恐らく私の仕立て屋人生の中でこれからも第一線に立ってくれることでしょう。


という感じで、ある程度伝えたいことは書けたかな、と思います。
また気がついた点があれば、追記するかもしれないですし、別の記事で書くかもしれません。

さて、次回ですが、まだ決めてはいません。
恐らくこの流れで別の『東鋏』について書こうと思います。
それでは。

たいら がくと

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