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記憶はことばに騙される。

Fundamentals of Psycholinguistics (Fernández & Cairns, 2010)の中で紹介されていた、Loftus & Palmer (1974)の実験が面白かったのでシェアします。

実験では、2グループに分けた被験者たちに自動車事故の映像を見せた後、それぞれ以下のように尋ねた:

(1) How fast was the Buick going when it hit the Ford?
「Buickが Fordに当たった時、どれくらいの速度でしたか?」
(2) How fast was the Buick going when it smashed into the Ford?
「Buickが Fordに激突した時、どれくらいの速度でしたか?」

【注】the Buick, the Fordは車種名;太字・日本語訳はガリレオによる。

(1)の質問に対する被験者の回答は平均 34mph(≒ 時速54.7キロ)であったのに対し、(2)への回答平均は 41mph(≒ 時速65.9キロ)と、統計的にも有意な差が表れた。

さらに1週間後、この2つのグループの同じ被験者たちに対して「事故現場に割れたガラスはありましたか?」と尋ねたところ、実際には割れたガラスは存在していなかったにもかかわらず、最初の実験で (2)の smash intoが用いられた質問で尋ねられていた被験者の32%が「あった」と(誤って)答えた。なお、(1)の形で尋ねられた被験者の場合、誤答率は14%であった。

このことから、smashという表現を耳にした被験者グループは、ことばのイメージに引っ張られて、現実よりも激しい事故のイメージを頭の中に描いてしまったことが示唆される。

ガリレオ流・考察

このような記憶のバイアスを、かなりの程度は意図的に利用しているのがコマーシャルメディアであろう。タウリンはいつでも「1,000mg配合」されているのであり、決して「1g配合」ではない。

人間の記憶は曖昧であり、ことばひとつの影響でも簡単に左右されうる。無自覚のままでいれば知らぬうちにコントロールされてしまうかもしれないが、このようなバイアスの存在を知っているだけでも、一歩踏みとどまることが可能になるだろう。

また逆に、どのように言語化するかによって、同じ経験でも記憶のされ方がリアルに異なってくるのではないか?…と考えられる実験結果とも言えよう。感情を書き出すことによって、メンタルの安定に好影響を与える (expressive writing)といった研究もあるが、言語研究の測光からも、人間の認知や心理を眺められるように思える興味深い実験であると感じました。

参考文献

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Loftus, E. F., & Palmer, J. C. (1974). Reconstruction of automobile destruction: An example of the interaction between language and memory. Journal of verbal learning and verbal behavior, 13(5), 585-589.

↑論文PDFリンク

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