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存在文 (there構文)の使い方について

質問

『新中学問題集2年』に、 “What is on the table? ― There's an apple.”という例文(例文85)があるのですが、この疑問文の応答文について、ふと疑問に思ったことがあります。

存在文は、話し手にとっての未知の情報を新しく談話の中に導入する際に用いられるということは、知識としては知っておりますが、例えば、この上記の対話の前提となる背景を、英検2次試験のイラストについて答える問いのように、質問者が問い質すもの(存在しているもの)を既に認識していると設定した場合にも、応答には存在文が使われるのでしょうか?
英検においては、模範解答として存在文が用いられていることは存じていますが、これまで当たり前と思っていたことに対し、急に疑問が沸いてきた次第です。
また、存在文で固有名詞や特定の名詞が出現するパターンとして、リストを挙げるような時や、探し物が見つかった時がありますが、例えば他に、【薄暗い部屋の中、何かがテーブルの上でごそごそうごめいているものがあることに姉のAさんが気付くが、怖がりのAさんは自分では確認ができないため、近くにいた妹のBさんに確認してくれと頼み、Bさんが確認したところ、飼い猫のタマだった】というような状況を設定したとすると、ここでの応答文でも、“There is Tama.(タマがいるわ。)”とは言えず、“It's Tama.”のような答え方になるのでしょうか?

ガリレオ流・回答

現実のコミュニケーションとしての自然さ、という意味では使用状況が限られるとは思いますが、‘What is on the table?’―‘There's an apple.’という応答は実際に使われると思います。

まず、質問者が「答え」を分かっていながらも質問を投げかける、ということが、語学の教室や試験では頻発する一方、自然な会話の中では滅多に生じないので、違和感を抱くのも無理はない話です。他に考えられる場面としては、親が子どもに絵本を読み聞かせながら ‘What is on the table?’などのように問いかける場面が考えられました(もっとも、子どもは ‘(An) apple!’などと答えて終わりだと思いますが…)。

また、そもそも ‘What is on the table?’というのも質問としては少し変わっていて、「テーブルの上に何かしらが存在しているのは前提とし、それは何であるか?」を問う形になっています。ガリレオが大学院生だった頃、授業中に話題になった、「ある先生は授業後 ‘Do you have any question?’ではなく ‘What is your question?’と尋ねる。授業を通じて自ら考えていれば、何らかの質問を抱くことは当然という前提のもと、質問が『あるか・ないか?』の確認を飛ばしていきなり ‘What is ~?’と聞く。」という話を思い出しました(笑)

さて、前置きが長くなりましたが、そのような「何かがあるのは分かっているが、それは何であるのか?」という問いへの応答に存在文で良いのか?を考えるにあたり、ご質問内でも触れてくださっている「存在文は、話し手にとっての未知の情報を新しく談話の中に導入する際に用いられる」について深めていきましょう。

旧情報・新情報を更に分類してみよう

よく「旧情報・新情報」という用語が無責任に使われますが、専門的には:

discourse-old/discourse-new: 文脈の中に既に登場した情報か?
hearer-old/hearer-new: 聞き手にとって既知の情報か新しい情報か?

という2つの階層を考慮する必要があります。

文脈内に生じる情報は:

(1) discourse-old + hearer-old
文脈内に既に登場しており、必然的に聞き手にとって既知
(2) discourse-new + hearer-old
文脈内で話題に出たのは初めてだが、聞き手は知っている対象
(3) discourse-new + hearer-new
文脈内で初めて話題に出て、聞き手にとっても新しい情報

の 3パタンに分けられます。(ちなみに discourse-old + hearer-newは、要するに「あらやだ、さっき言ったじゃないですか」の、おボケになってしまった状態なので本質的にはあり得ないパタンです。)

ここで重要になってくるのが、存在文は hearer-newの情報を導入するということです。その意味で、ご質問の中で「話し手にとっての」という一言が入っているのは非常に良いポイントが指摘されていると言えます。これを理解するだけで、今まで「例外」とされていたような「存在文で固有名詞や特定の名詞が出現するパターン」も同じメカニズムで捉え直すことができるようになるのです。

まず ‘What is on the table?’の応答から検討していくと、上で見たとおり、質問者にとって「『何か』がテーブルの上にあること」は前提であるものの、その「何か」の正体は未知(という建前)になっています。したがって、hearer-newの情報導入を自らの仕事とする存在文は、このような応答で出番が回ってきて然るべき、と判断することができるのです。

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