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「ザ・ビートルズ:Get Back」感想文①

正月休みに見ましたよ、「Get Back」。一日一本ずつ見ました。8時間は長いかなと思ってたけど意外とそう思わなかったかな。でも二本目は3時間近くあるからちょっと休みながら見た。見るのどうしようかなと思っていたけど、解禁日以降YouTubeに続々とアップされる美味しい部分だけを切り取った動画(非公式なものである場合が多い)をお薦めされ続けるので、ちゃんと見ておこうと思ったのでDisney+に入会して見たのです。勿論とても面白く感じていたし、映画「Let It Be」を見て持っていた印象も多少変わった部分はある。それを踏まえて色々書いておこうかと。ネタバレ的な部分もあるから見た人か見る気もない人向けかな。


そもそも映画「Let It Be」って

今も上で『映画「Let It Be」で~』とさらっと書いたんですが、この映画をきちんとした日本語訳で見たことある人、しかもそれが今でもちゃんと記憶に残ってる人ってどれくらいいるんでしょうかね。ご存じの通り国内では未ソフト化の作品(海外でも一瞬だけ売られていた程度)ですし、70年代はテレビ放映がそれなりにあったという話ですがそれも40年以上前。僕自身はファンクラブ主催の上映会で見たのが唯一ですかね。それも30年以上前だと思います。近所のレンタルビデオ店には海外版のビデオがあってそれも見たけど、字幕もないし。海賊盤として数多くのアイテムが世には出てますが、90年代にこっそりリマスタされた映像にちゃんとした日本語訳を乗ったものを所有してるのは余程の人と書いても良いのではないでしょうか。かまやつひろしによるナレーション入りバージョンまで所有してるのは更に余程の人かもしれません。動画系のサイトを探せば見られたりするんですかね。

今流布してる映画「Let It Be」の印象とは

あくまでも僕の印象なんですが、映画「Let It Be」の評判によくある「暗い」とか「陰鬱」ってそういう昔何某かで見た人の話に尾ひれがついて独り歩きしてる部分はあるように思えます。だってずっとちゃんと見られない状態が続いていたから。ちなみに、実際暗いは暗いんですが。そこに今回「これが真実の姿です」って大々的に銘打たれて公開するのはズルくない?とは正直思ってたんですよ。実はその辺のモヤモヤも「ザ・ビートルズ:Get Back」を見て腑に落ちた部分が結構あるのです。


映画「Let It Be」の名誉回復を思う

まず、これは今回新たに発見された事実ではなく割と有名な話ではあったのですが、元々の映像素材が16㎜フィルムで撮影されたものを劇場用映画にするために35㎜にブローアップしたものであること。当初はテレビ特番として撮影が始まった(結局撮影最終日近くまでこの辺がうだうだとフィックスしないで話があっちこっち行くのは少し笑ってしまった)ので、誰を責めるわけにはいかず、多少ぼんやりした映像として映画「Let It Be」は50年間もその汚名を着せられていたのです。前半のTwickenham Studioは本来映画撮影用の巨大なスタジオであるから、照明を入れたり花を置いたりしても(ついでに最新技術でいくら映像が綺麗になろうと)その一角で練習に励む四人組ロックバンド(色々あって三人組にもなってしまう)の姿だけではどうしても寒々しいし、後半のApple Studioは正式に完成する前でゴチャゴチャしてるのも映像的にあまり見た目は良くない気がする。この辺は映画「Let It Be」の印象に大きく影響を与えているはず。そして最大の納得が次項で取り上げる人なのです。


Michael Lindsay-Hoggという人

今回の「ザ・ビートルズ:Get Back」でも全編に渡って頻繁に登場する、映画「Let It Be」の監督であるMichael Lindsay-Hogg。おそらく依頼されたライブ特番というコンセプトから開始数日でどんどん離れていく状況の中で、必死に作品として(この人にとっても終盤までテレビのつもりだった)成り立たせるために壮大なドラマを作ろうと考える様子が今回の「ザ・ビートルズ:Get Back」の結構大きなサイドストーリーになってるように思います。ジョンやポールに不仲についてストレートに突っ込んだり、絵になる会場でのライブを提案したり。挙句にシリアスになることが予想されたジョンとポールの会話を盗聴までする暗躍ぶり。挫けずに撮影を続けた素材が50年の時を経て今回我々が見ることのできる「ザ・ビートルズ:Get Back」であるのです。でもこの人、基本的にミュージックビデオを撮るのが本職とまでは言わなくても得意な人で、当時は劇場用映画もドキュメンタリも実績のない人ではあったのです。この撮影の一か月前に撮影しつつも当時はお蔵入りになったRolling Stonesの「ロックンロール・サーカス」もこの人が監督。調べると68年に一本テレビドラマを撮ってるみたいですが、劇映画を撮るようになるのももっと先の話。そうした人がライブ特番の監督として撮影を始めたのに、蓋を開ければライブはやりたくないと言い出すわ、数日後にはメンバーの一人がキレて脱退宣言して帰ってしまうわで人間関係もゴタゴタしてるし、本領発揮できる演奏シーンもいつまで経っても椅子に座ってダラダラしてることが多いわで困惑したんだろうなと予想されます。でも「ザ・ビートルズ:Get Back」内に残るMichael Lindsay-Hoggの姿はあまり悲壮感も出さずに、冷静に動きつつもむしろ興奮状態にあるようにも見える。プロジェクト自体が途中で放棄されずに一応は完走となったのはこの人の頑張りも大きいと思うし、今後評価されても良い気がします。映画「Let It Be」でも今回の「ザ・ビートルズ:Get Back」でもハイライトとなる屋上でのライブシーンは言ってしまえばこの人にとってもようやく依頼されたものを撮れて自分の力を発揮するチャンスだったはずだし、それに見合うだけの気合の入った撮影になってると思います。Beatlesの皆さんも寒さに凍えながらも充実した演奏でそれに応えた結果ピリッとした良い映像が残ったのは、Michael Lindsay-Hoggが実績を買われて当初依頼されたであろう部分だから当然と言えば当然なのでしょう。ちなみに、今回の「ザ・ビートルズ:Get Back」は当時のカオスな状況の渦中にいたこの人じゃなく第三者が今の視点で再構築した作品だし、それは成功してると思います。


本編について書く前に随分と長くなってしまったので今日はここまでにし、今回はちゃんと感想を最後まで書ききりたいと思います。そう、諦めずに撮影を続けたMichael Lindsay-Hoggを見習ってね。


どうでも良いけど、Michael Lindsay-Hoggって日本では「マイケル・リンゼイ=ホッグ」って読み方が定着してるけど実際どうなんだろう。ピーター・バラカンだったら違う読み方するような気がする。あとTwickenham Studiosも日本語で発音できなくない?

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