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Power To The Pop

2019年発売のコンピ。最初に帯文を丸写ししようと思う。

「ポップの魔法を信じるかい?誰もが納得のマスターピースから隠れた名曲まで、レーベルを超えて世界中から集めた、究極のポップでパワフルな作品集。すべてのポップ・ファンに贈る日本独自企画のコンピレーションCD!!」

だそうです。でもこれ、所謂ビートルズっぽい曲(僕はBeatlesqueって呼び方が好きなんですが)を集めたコンピ。何故か帯にも裏ジャケにもビートルズのビの字も出さないのは奥ゆかしいのか大人の事情なのか。詳細すぎる解説にはビートルズの名前はガンガン出てきますけどね。


内容は凄く良いと思います。上に引用した帯文の「誰もが納得のマスターピースから隠れた名曲まで」の前に「ビートルズっぽいとされる曲の」と付ければ非常にしっくりきます。変にマニアック過ぎず普通の「洋楽ヒット」な曲も入ってますし。Ben Folds「Zak And Sara」とかこの流れで聴くと確かになぁと思っちゃいますよね。単体で聴くとビートルズの影は全く感じてなかったのに。


これを聴いてると、「ビートルズっぽいって結局何なんだろう」と考えてしまいます。解説やジャケ裏でも書かれているように「Good Melody」であることが第一なんだろうなとは思うのですが、サウンド的にも「ビートルズっぽい」とされる例の形ありますよね。ミドルテンポでストリングスが入ってコーラスがばっちり決まっていてスライドっぽいギターが入って、みたいな。正直このCDもそのフォーマットの曲が多くあって、通して聴いてると食傷気味にもなってもくるのですが。実際のビートルズ(活動当時)の曲にそのフォーマットの曲があるかと考えると、実はそうでもないと思うんですよね。その手のサウンドに近いのって実はジョンとジョージの初期ソロなんじゃないかと。と言うかフィル・スペクターがプロデュースしたそれぞれのアルバム。ジョンで言えば「Imagine」ピンポイントにした方が良いかな。あの感じの音にポール的なメロディを乗せると「ビートルズっぽい」例の形ができるんじゃないかと思いました。まぁそんな簡単なもんでもないのはわかってますが。


と言うか、結論めいた事になるんですが結局その路線の「ビートルズっぽい」曲の最高峰って「Free As A Bird」だと思うんですよね。そりゃ本人たちなんだから当然ではあるんですが、発売当時も薄っすら感じてたし今改めて聴いても「だからってこんな誰しもが納得する『らしい』曲になる?」と思うんですよねぇ。この辺は制作にJeff Lynneが呼ばれた時点で確信犯だったんじゃないですかね。紛れもないビートルズの曲でありながら「ビートルズっぽい」曲の究極系でもある「Free As A Bird」の前にはどんな「ビートルズっぽい曲」もひれ伏しますよ。


このコンピが取り上げられる際に権利関係が大変だったという話が必ず出てきて、確かにそれを一つ一つクリアして水増し感もない選曲で発売までこぎつけたのは凄いことなんですが音楽を楽しむうえではそんな話は雑音でしかないと思います。余談になりますが僕自身かつてはこうしたエンターテイメントの権利関係の仕事をしていてコンピCDの制作もしたことがあるのでその苦労はとてもよくわかるのですが。


解説には権利関係によって収録できなかったアーティストについても言及があって、その中にはEmitt Rhordesなどに交じって当然のようにXTCも入ってる。でもXTCってビートルズっぽいかな?と長年思ってます。XTCってむしろビートルズじゃない方の60年代英国ポップロックの匂いが強いと思うんですよね。勿論そこにはビートルズのDNAがあるじゃないかと言われるとそれはそうなんだけど。曲によっては直接ビートルズの匂いを出してる曲もあるし、「Strawberry Fields Forever」などの完コピのような音源がある(一応名義はAndy Partridgeなのかな?)のも承知の上ですが、XTCに関してはライブ活動を停止してスタジオに篭って作品を発表したという事象の部分でビートルズに繋げて考えられた結果のような気もするんですよねぇ。個人的なXTCの好みがライブバンドだった初期4枚に集中してるのを差し引いても、僕の中ではXTCとビートルズが繋がる部分は少ないです。


このCDも全体的に80年代後半以降のXTC日本人気を支えたある種のポップなロック好き向きみたいな感じがしちゃうんですよね。「XTC好きなの?中々わかってるじゃん」みたいなおじさん。この「中々」がポイントで、何故か上から目線の。そういうの聴いてる俺、センスあるみたいな自負に支えられた人。だからそういう人がDisc2に収録された90年代以降の音源を聴いて「中々良いじゃん、頑張ってるじゃん」みたいに思ってる姿が浮かぶのが嫌ですね。個人的偏見に基づいた妄想リスナーの姿なんですが。


他にこのコンピの不満と言うか意図的に外したのかな?と思うのが、70年代後半~80年代前半の音源がぽっかり抜けてる点ですかねぇ。所謂パンクロックの勃興を背景に出てきた、そうした勢いを持つバンドがごっそり抜けてるのが気になる。結構Beatlesqueなバンドいたと思うんですがね。上に書いたような典型的「ビートルズっぽい」サウンドではなくビート路線のバンド。その辺が入ってないのもストレートなビート物を小馬鹿にするXTCおじさんの好みっぽくてちょっとなーと思ってしまいます。確かに当時のそうした曲は権利関係も一層複雑だったりマスターの行方も不明瞭で、まさか天下のSONYが出すコンピに盤起こしの音源なんか入れられないだろうとは思いますが。このコンピでそうした路線で収録されているのは強いて言えばThe Knackぐらいで、その役割をThe Knack(しかも「My Sharona」で)だけに担ってもらうのはちょっと荷が重すぎるんじゃないかと思います。


何よりこのコンピの弱点はジャケットじゃないですかね。個人的にしばらく購入を躊躇ったのはジャケットのせい。確かに甲虫や林檎をモチーフにしたジャケットにしたら物凄く安っぽくなるとは思うけど、だからってウサギは何なん?と思う。「デビューアルバムを出した1963年がウサギ年だった」っていくらなんでもこじつけすぎじゃない?なら正式デビューにあたる1962年の干支(虎だそうです)にしたら?そもそもイギリスに干支の概念あるの?と疑問ばかり浮かんでしまいます。いや絶対ジャケットで損してるでしょ。


ジャケットなど不満はありますが、聴きごたえありすぎるとても良いコンピだと思います。詳細な解説とにらめっこしながら聴いて良し、単純にBGMとして流してもとても心地よいと思いますよ。




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