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シン・ゲゲゲの鬼太郎は動かない「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」

ゲゲゲの鬼太郎第6期のスピンオフにして、鬼太郎誕生というオリジンストーリーでもある本作。
6期の部分は序盤とエンドロール前のみ。声優とねこ娘のデザインが6期なので、数年前に終了したTVシリーズにつながる物語と理解していいかと思います。特にモデル体系ねこ娘は、本編でほとんど説明がないため、TVシリーズを知らずに本作を見に来たオールドファンは、「誰?」ってなる可能性も。まあ、本編を楽しむ分にほとんど影響はありませんが。
本作の鬼太郎は物語の案内人的ポジションで、荒木飛呂彦の「岸辺露伴は動かない」よろしく、殆ど動かないキャラクターとなっていました。
岸辺露伴の方は最初の作品以外動きまくっていますが。

さて、本作の舞台は昭和31年(1956年)の東京とどこかの山村。1956年といえば、映画初代ゴジラが公開されてから2年後ですね。本作は太平洋戦争の後始末的なテーマを内包しており、それは奇しくも同月に公開された山崎貴監督作「ゴジラ-1.0」に通じる部分を持っていました。
ただ、本作で描かれた昭和31年は、マイゴジの昭和より汚く猥雑で、より当時の負の部分に向き合った作品だったと感じました。

冒頭の東京の川の汚さよ。公害や下水でまさにドブ川の様相を呈しており、それはそのまま水木しげるが描いた鬼太郎世界そのもの。
そして主人公のひとり水木が本作の舞台となる哭倉村への移動中の列車。
ここは多くの人が指摘しているように、幼い少女が咳き込む中、車内でスパスパ吸われるタバコの煙が、とても印象的に描かれていました。水木も同様、少女を意識しても自分がタバコを吸うことに関しては、あまり気にしていない印象なのですが、結果的に「吸わない」描写になっている塩梅が見事だなー、と感じました。
ここは同時にもうひとりの主人公、鬼太郎の父(後にゲゲ郎と呼ばれる)と水木との会合シーンにもなっており、本作のイメージを決定付けるシーンとなっていました。

その後の哭倉村に着いてからの、龍賀一族の遺産相続での醜態や、予兆を殆見せずに起きていく怪死など、村ミステリーで私が見たかった要素がてんこ盛りでした。水木が哭倉村へ行く動機が「M」という、打つと元気になる薬で、これを打てば日本がもっと復興できる=それを見つけた自分が所属する製薬会社で確たる地位を得ることができる、という実に俗的な動機なのがいいですね。
そしてゲゲ郎の動機は妻。愛もまた俗的な動機ですが、自分より他者を優先している様が尊い……。本作のゲゲ郎は、風貌と言いお風呂好きなシーンがあることといい、鬼太郎の父である目玉の親父に通じる雰囲気を漂わせているのがとても良かったです。
あれ、でも目玉の親父の目玉だけになる姿って、原作や墓場鬼太郎で描かれてなかったっけ……?とこの辺りから思い出していたのですが、それについて最高に見事なアンサーもつけてくれていたので、本当に隙のない作品です。

中盤以降は怪異殺人と並行して、アクションシーンも増えてきまして。特に村内の立入禁止の島で、初めて描かれるゲゲ郎のアクションや、裏の陰陽師みたいな集団との対決に、父ちゃん強え!と興奮の連続でした。サスペンスも妖怪アクションも堪能できるなんて、本当に隙がない……(2回め)。

そして終盤の謎解きと大惨事ですよ。
龍賀の良心的存在であった沙代の悲劇と怨念、そして黒幕の時貞の醜さといったら……。
あれ、これどこかで見た事が、と思ったら、FateZEROの。間桐桜と臓硯じゃないですか。向こうはZERO内でややり切れないところで終わりましたが、1作完結のゲ謎では、きっちり時貞に報いを受けさせる事ができるのがいいところ。胸糞悪い展開の後、ある程度溜飲を下げる事ができました。
また、ここで龍賀家の当主たちがみせる身勝手な論理が、「お国のため!」と水木達に特攻を命じた上官と被る描写が秀逸で。ここにマイゴジが映画化なかった日本の加害と、それに反省を全くしない当時の指導者たちの醜さが詰め込まれていて最高でした。本当に隙がない……(3回め)。

そんな魅力的な物語、キャストも本当に豪華で。
水木をプルートゥでの好演も記憶に新しい木内秀信、ゲゲ郎を最近だと鬼舞辻無惨が有名な関俊彦が演じていました。
他にも今季どれだけ印象的や役をやっているんだ、な種崎敦美や、石田彰、皆口裕子、釘宮理恵など錚々たる顔ぶれが並んでいました。

音楽は川井憲次。有名なOP、EDのアレンジが秀逸で、特にエンドロールに流れる「カランコロンの歌」のアレンジは、あの歌であり川井憲次楽曲でもありと、とても不思議なしんみりさせてくれる曲調に仕上がっており、本編後の出来事と原作漫画を繋いでいく映像と合わさって、静かに心が動かされるシーンになっていました。

劇場でのパンフは売り切れ、入場特典もなし。そりゃこの出来ならそうだろうなあ、と思いましたが、東映自身もそこまで売れるとおもっていなかったのかな?と感じさせるグッズの少なさ、パンフの発行部数の少なさでした。
平日の昼鑑賞でしたが、女性を中心にそれなりにお客が入っており、週末はまだまだ盛り上がりそうな勢い。
私も次に映画館に行く機会にパンフくらいは入手したいと思いますので、増刷を強く要望したいですね。


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