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Midnight Invincible Chillllldren

 都内のほうで盛んにデモが行われているのは知っていたけど、それが本日一瞬だけ暴動レベルにまで発展したらしいので僕は久々にテレビをつける。すげー。やるじゃん。海外でのこういう映像には見慣れているし、実際いまニュースで流れている映像でも渋谷のハロウィンのほうがドン引き度でいうと上だった気もするくらいだったが、この町から電車に乗って一時間も移動すればたどり着く場所でこれは起きているのだ。その実感がじわじわと湧いてきてちょっと落ち着かない。ネットに上がっている動画をいくつもチェックする。マジで火炎瓶とか使うんだな、と思った。だって自分も危ないよね? 火をつける瞬間がまず怖いし。武装した機動隊が盾で人を吹き飛ばしている光景と、さらに倍の人数に機動隊員がバシバシ蹴られている姿が同じ映像に収まっていてカオスだ。ひとり部屋でうおーとか言ってしまった。そもそも人を思いきり殴ったら怪我どころか死ぬこともあるんだし、障害とか残る可能性あるし、そういうのはみんな考えないものなのか? なんて思うけど考えているやつから順にボコボコにされるのかもしれない。みんな必死だ。突き動かされている。すげえな。もうそれしか出てこない。
 僕はその動画にBGMをつけたいなと思い、どうせすることもないので無料の動画編集ソフトを落としていざとりかかる。まずは予行演習としてなんでもいいや、とりあえず僕の持っているDMXの『Where The Wood At』を流す。想像したとおりだけど、ないよりずっと興奮度するのは確かだ。でもこういうのって歌詞とリンクしていたほうがいいよな、みたいに思う。英語なのでリリックに対するきめ細やかな理解はできていないんだろうが、別の曲で考えてみようかな。出てこない。こういうときは先人に倣えだ。僕はYouTubeで検索する。検索の仕方にも寄るんだろうが、そう多くは出てこない。大阪で何年も前に起こった暴動にアニメのBGMを重ねた動画は僕もすでに観たことのあるものだ。あんまりふざけるのもな、と思う。リアルタイムの暴動なんだから多少なりとも敬意がないと。
 この気持を誰かと共有したい。
 このまえオンライン飲み会で話した面々ならいつでもつかまりそうだなと思った。四人のうちふたりは無職、のこりふたりもガッツリ仕事を削られ自宅で過ごしている時間が長いとのことだった。俺たちもう終わりだな、家族いなくてよかったなとか、そういう話をした。今思うと全然笑えないけど、本音を漏らせてみんなちょっと興奮している感じもあって終始楽しかった。で、もう夜も結構更けちゃっているが、坂本にラインしてみる。
『いまひま?ひまならオンライン飲みしよう』
 すぐに既読がつく。
『暇!そのまえに酒買ってきていい?』
『りょうかい!ありがとう!』
『何が?』
『いや、誘いにのってくれて』
『りょうかい!ちょっとまってて』
 その間に久留米にも連絡。
『こんばんは。坂本とオンラインのみするけどどう?』
 こっちは既読がつかないので、その間に加藤。
『こんばんは。坂本とオンラインのみするけどどう?』
 よし。ということで再度着想を得るための検索に戻る。今度はこれまで観た映画の暴動シーンで流れていた曲を色々思い出してみながら適当にタイトルを入れていく。久々に脳みそを使っている感じがするな。出てきたのは『ジョーカー』の『White Room』。『キングスマン』の『Give It Up』も暴動シーンの曲だな。あれは敵側が扇動したものだったが。ということでそれらも候補に入れつつ、加藤からの返事を確認。
『何時から?』
『坂本の買い物待ち。先始めとく?』
『いいね。ほかは?』
『前回のメンバーよ』
『久留米も?』
『うん! まだ返事ないけど』
 ということで加藤とはモニター越しの会話に以降。冷蔵庫からレモンサワーを取り出して氷を入れたサーモスのタンブラーに注ぐ。はあ。なんか酒ばっかり飲んでいるな。もうこれしか楽しみがねえよ。加藤はオリジナルブランドの発泡酒を握っていた。開けた瞬間は見ていないが、まさかずっと飲んでいたりして。
「それじゃあ乾杯」
「乾杯~。安藤はきょう仕事だったの?」
「ずっと家。配信の動画サイトでさ、エロ動画大量に更新されてたから片っ端からチェックして過ごしてた」
「ホント好きだね」
「え、AV? 好きというか、病気なのかもね。依存してる。加藤は同人誌だっけ」
「いや、オレも普通にAV見るけど、安藤ほどじゃない」
「あ、ごひっ。すまん」
「しゃっくり?」
「そうごめん。同人誌買ってる?」我ながら雑な質問だと思った。
「買ってる買ってる」
「いいね。でも今年はコミケも無理なのかな。あれいつやるんだっけ、ちょっと詳しくはないんだけど」
「まあ別に通販対応している作家さんもいるからぜんぜん大丈夫だけどオレは」
「ルパンと銭形のやつ、まだ読んでるの?」
「いやそれはオレがめちゃくちゃ感動した同人誌の話であってそれでオナニーとかは別にしてないよ」とめちゃくちゃ早口で加藤がいうのでレモンサワーをちょっとこぼした。
「そういう意味ではなかったんだ。いまのもごめん」
「謝ってばっかじゃん」
「ごめんて!」
 とそこで坂本から連絡が来るので会話に招待する。坂本もきょうは一日中部屋にいたらしい。で、僕は早速二人に聞いてみる。
「暴動シーンの出てくる映画ってなにがあったっけ?」
 ふたりともなにか浮かんだら言うわ、と言ってくるので僕自身まあどうでもいいやという気持ちになってくる。酒も入っているし。で、都内で起こっている暴動の話に移る。
「結構派手にやってたよな。死者出たんだっけ」と坂本が言うので、僕はネットで検索してみる。「負傷者は20名超えだって」
「20名? ひょえー」
「歴史のはざまを生きている感じがするな」
「恐ろしいな」
「え、でも誰か死んだんじゃないっけ」と加藤。坂本の画面からキーボードを打つ音が聞こえてくる。
「いや、死んでないよ」
「死んだけど、隠してるんじゃなかったっけ」
「隠してる?」
 で、僕は加藤が言わんとしていることらしき記事を見つけた。
「あ、デモのときに警察に連行された人だっけ。死んでるけど、死因は別ですみたいな記事はあるよ。起こった暴動とも直接的な関係はない」
 まあでも関係ないってことはないのか。
「ああ、そういうことね」
 どういうことかは僕もよくわからなかったが、なんにせよ一人の人が亡くなったという事実にザラッとした空気だけが残った。それに押されてか、みんなどう? 死にそう? と坂本が言った。どういうことだよ。
「おれはなんとか」
 そう言って画面いっぱいまでカメラに近づき、白目になってみせる。うぜー。
 坂本は新卒で入った会社でパワハラに合った影響で精神を病み、同僚とともに上司の殺害計画を立てたが、また別の同僚が狙いの上司を先に殺してしまったので未遂に終わったという経験があって、その話をまたし始めた。前回のオンライン飲み会のときもしていた。うそつけよ、と初めはみんなが口にしたエピソードだが、いざ検索するとそれらしい時期に「会社内で上司を殺害した男」のニュースが普通に出てくるし、会社名も合致するので、その部分はマジっぽい。
「本気になったからやるんじゃなくて、やってみたら本気だったって気づいたよ」
 坂本の言葉が僕らの胸を静かに熱くしたのも事実ではある。だが、そんな彼は現在無職で、貯金を切り崩しながら過ごしている。たまに派遣の単発アルバイトにもいくが、毎回ニューゲームなのでがんばったところでリセットされるもんな、という気持ちになるらしい。若ければ我慢できたかもしれないけど、いまはもう我慢している時間が惜しい。僕は人を本気で殺そうとした人間でも世界の変動には振り回されちゃうという事実がなんだか癪だった。やってらんない気持ちになる。ちなみに「やってらんない」という言葉の利便性にのまれ、もうそれだけを口にして一日を終えられることにも気づいたと坂本は言った。やつには僕の握られた拳は見えないだろう。実際には握ってないし。
 画面から消えた坂本は、鍋を手に再登場し、ラーメンをすすり始めた。
「なにもしてなくてもお腹空くのやべえよな」
「まあ生きてるから」
「オレそんなに空かないんだ」と加藤。「昨日はなにも食べてない」
「なにその告白。食べろよ」
「今朝は食べたよ。バナナ」
「サバイバル感のあるメニューでいいね」やっぱり無職だからそろそろお金が底をつきそうなのだろうか? という事をぼんやり考えていると、坂本がそのまんまのことを加藤に聞く。
「いや、そんなことないよ。本当にお腹空かないんだって」
 でも酒は飲んでいるのか。やべえな。同じことを考えていそうな表情の坂本と目が合う。
 加藤が無職なのは別にいいとして、その前にどんな仕事をしていたのか僕は知らない。高校を卒業して専門学校に通い、その後ゲームの制作会社に入ったとは聞いていたが、ずっとそこにいて辞めたのか、転職はしたのか、なぜ知らないのかというと、それほど興味がないからだ。加藤といえば専門学生時代に有名な声優が特別講師として招かれた際に撮った集合写真がネットに流出して「この中で誰が一番強そうか」というネット大喜利の題材として消費されているのを見つけ、それをきっかけに声をかけたのが数年前。その時点ではまだ仕事をしていたっぽかったけど、ここ一年ほどはわからない。なにもわからない。
 わからないというか、なにも身が入らない。
 僕もつまみをつくろうかな。いろいろ考えてみたが、なにも浮かばなかったので卵焼きをつくった。
「ちゃんとつくるのえらいね」と坂本が言うので、「なにかひとつはちゃんとしようと思って。なにもしないで過ごそうと思えば無限にできるからそのぶん、ほら、ね」言葉が出てこないのでしゃべるのをやめた。
「わかる!」と坂本。それから「安、藤、安、藤」とうわ言のようにつぶやき、「なんだよ」と聞き返しても返事をくれない。加藤は僕らに言われたことを気にしているのか、画面に向かって焼き鳥の缶詰を掲げ、蓋を開け始めた。
「加藤、いいの持ってるね」
「食べます」
「カ、ト、ウ、くそ。おれはみんなに会いたい」と坂本。「もう無理なのか」
 急になんなんだこいつは。テンションを合わせると悪化する恐れがあるのでおれは「おれもだぜ」とだけ言っておく。
「ごめんさっきの続きなんだけど、暴動で暴れるとするじゃん。どんな曲聴きながらがしたい?」
 僕の質問に二人が悩んでくれて、坂本が言う。「かっこいい曲がいい。『ワンダーウーマン』のテーマみたいな」
 あ、いいじゃん。おれは曲を探して再生する。
「それそれ」と坂本。「筋トレしようかな」そういって画面から消える。作曲者はジャンキーXLだから、あ! 僕は残った加藤に話しかける。「加藤、『マッド・マックス』は観た? 『怒りのデス・ロード』」
 加藤は箸でつまみそこねた焼き鳥を突き刺す。「あ、観てない」
「あれのサントラ、めっちゃドンドコしてるよ」
「へー」
「すこしは興味あるふりしてくれよ」
「ははは、いやいや、興味あるよ」
「せっかくだしBlu-ray買おうかな」
 っとそのまえにサントラを検索して流してみる。焼き鳥を食べ終えた加藤が苦しそうな顔で言う。「これか。いいじゃん」
「暴動って感じ、ある」
 曲を聞きながら、先ほど落とした報道動画を再生してみる。やけに荘厳ですらある。不思議と既視感があって、僕は目を細めながらその根本までゆっくりゆっくり手繰っていく。途中、坂本が戻ってきて「うおー、腕立てしてきた」とか言ってくるのがひどいノイズだが、ピンとくる。バットマンだ。『ダークナイト ライジング』!
 ベインが傭兵軍団を引き連れ、陸の孤島と化したゴッサムシティを占拠するが、復活したバットマンも町の警察官を集め両雄睨み合っての全面衝突となるあの。
 僕は次々とサントラを再生してみる。くそ。僕のこの言われるがままの生活にもハンス・ジマーの荘厳さや、ジャンキーXLのバイブスが必要なのだ。
 怒りを表明するという行為は、基本的には荘厳なのかもしれない。
 ネットニュースを検索し、例の暴動に関する情報をチェックしてみる。暴動って休憩とかは別にないと思うので、例の一件は夜通し行われたらしい。僕はそろそろ寝てしまおうかと思っているが、逮捕者として並んでいた人らは夜を通して怒りを表明し続けたのだ。僕は僕の中の怒りに耳を傾ける。怒りか。まあムカつくことは山ほどあるが、とふと思うのは、形容する言葉によって分散されたりはするが、基本的に僕らはずっと怒っているということだった。
 気がつくと坂本は服を脱いでいた。どうか上だけでありますように。スマホを確認するが、久留米からの返事はまだなかった。久留米。久留米はなにに怒っているだろう? あまりなにかに怒っていた印象はない。いつも大きくて真っ暗な瞳をじっと据わらせて、口元だけ笑ったりへの字にしたり、そんなところだった。強いて言うのなら大学一年の頃、地元に残っていた久留米から真夜中の電話で童貞ではなくなった旨を伝えられ、とりあえず「よかったな」と心にもないことを伝えたところ「全然そんなんじゃねえよ」と言われたあの一件だけは、妙に残っているが。
「なんだかよくわからないが、ショックを受けている」
 やつはそう言って、僕に答えを窮させた。そんな難しい感情を真夜中に報告してくるんじゃねえよと思ったが、そんな難しい感情を真夜中に報告してくれたことはちょっとうれしい気もする、とも思った。
「クソみたいな毎日」という言葉でくるんで一旦おしまいにしてきたこれまでと、ついに向き合うべきなんじゃないだろうか。なぜならもうすべてが杜撰になってしまったからだ。生活。将来のこと。もう存在しないものを前提にしてどうする。いや、どうしたい? 僕はどうすればいい?
 気がつくと坂本がみんなで歌を歌おう、と言い出している。
「なんで?」
「安藤も、ほら、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ。おれはカラオケも大嫌いなんだから」
「それはあんたがうまいへたで見てくるような連中としか交流を持たなかったからでしょう。なんだって好きに歌えばいいんだよ」
「マジで下手だよ」
「知らねえってば」
 みんなで『宇宙戦艦ヤマト』を歌う。僕らは地球に別れを告げた。そして尾崎紀世彦の『また逢う日まで』と、続けて別れを歌っていると坂本が泣き始め、加藤がしゃっくりするみたいに笑い出す。ジュリーの『勝手にしやがれ』は僕の音域に限界が来て途中でひとりだけ歌うのをやめたが、井上順の『お世話になりました』はちゃんと歌う。コンプレックスの『BE MY BABY』はもはや誰も歌わずに全員が画面から消えて好き勝手踊りながらはあはあ息を切らすだけの四分間となった。普段からもっと運動をしておくべきだったのだ。くそ。身体だって真剣に鍛えたほうがよかった。表現したい感情に身体がうまく追いつかないこのもどかしさが憎い。
 汗だくになりながら気づくのはスマホの通知で、僕は一瞬仕事関係の連絡だったら嫌だな、もしそうだったら水差したやつを殺そうかなと思うが、そこに表示されたのは「久留米」の文字だった。
『すまん。いまちょっと家にいないんだ』
 ああ~。僕だけ椅子に腰掛けて返事をする。『了解です!また次回だな』
『そうだね。ところで聞いていい?』と久留米。
『なに?』
『高校の部室で使ってたパソコンのパスワードおぼえてる?』
 は? 高校の……で思い出すのは部活で使用していた共用のノートパソコンのことで、確かにログインパスワードがあった。
『誰かの誕生日を合わせたやつじゃなかった?』
『そうそう。だれの誕生日で、その日付も知りたい』
『ひとつはおれのだよ。もうひとつはたぶん坂本』
 僕は画面内で汗まみれになっている坂本に声をかける。「坂本、誕生日いつだっけ?」
「え? 二月」
「何日?」
「十九。なにかくれるの?」
「いやいま五月だから」
「じゃあなんで聞いたんだよ」
 僕は久留米への返事を打ちながらたしかに、と思った。なんでそんなこと聞くんだろう。
『07080219か02190708のどちらか。でもなんで?』
 既読はつくが、返事は返ってこない。
チャゲアスの『YAH YAH YAH』を歌う。また泣きそうだ。僕は歌うのが嫌いなのではなく、一人で歌いたくないだけなのだと思った。得手不得手は誰にでもある。できるやりかたでやればいいじゃない。僕はそのまま暴動の映像に曲を重ねて三十秒程度にトリミングしたやつをグループラインに上げ、久留米宛にメッセージを送る。
『いまこんな漢字。また次もやろう』
 送ってから誤字に気づくがまあいい。
『なにこれ笑』
今度はすぐに返事がくる。
『いまつくった!』
『盛り上がってるな笑』
『さかむーは半裸で泣いてるぜ』
『なんでだよ笑 いまテレビ見てる?』
『見てないけど』
『俺を探してくれ』
 どういうこと? でも胸も騒ぐのでテレビをつける。坂本と加藤にも伝える。
「みんないまテレビつけられる?」
「久留米だろ? どういう意味?」
「さあ。言葉足らずなのはわざとかあいつ」
カッコつけ野郎だからな。適当にチャンネルを回す。この時間帯だとスポーツ番組ばっかりだ。あれ、もしかしてカウントダウンTV? あいつ何年か前にCD出してたし。
「これつくったの安藤?」と加藤が言った。
「え?」
「この動画」
「ああちょっとね、さっき」
「もらっていいわけ?」
「はは、いいよそんな」
「これ他の場所にあげたりした?」
「してないよ」
「ツイッターにあるよ」
 なんで?
スマホが振動する。久留米から画像。開くと横転する乗用車をバックに顎を引いた久留米の顔のアップ。薄暗い夜の街の気配。片耳にぶら下がったガーゼマスクと口元だけの笑み。
 マジか。


『ここからが本番なのだよ、諸君。』

 ニュース速報が入る。
 道路のど真ん中で一台の車が燃え、他車両の通行を妨げていた。
 そして発煙筒を持ったガーゼマスクの集団。社会的距離を保ったまま、みな同じ方向へ進んでいく。
 街が燃える。
「久留米いま東京にいるぞ!」
 僕が叫ぶと、坂本が言う。「世田谷だろ?」
「暴動! 暴動!」
「暴動?」
 久留米の上げた画像を確認するように伝える。坂本が「ボウドウだ……」とつぶやいた。
 なんてこった。分割されたモニター画面内で全員がうろうろし始める。落ち着こうまずは。でもあれ? なんのために落ち着こうとしているんだっけ。目の前にある氷の溶けたレモンサワーをとりあえず飲んだ。まずは落ち着くための準備をしよう。それはつまり、つまりなんのために落ち着くのかを考えるのだ。なんのため。えー……次に進むため? いまの状況から。
 で、加藤が言う。
「まだ電車ある?」
 オンライン飲み会で終電を気にしたことなんてないので調べてみる。「ある」と坂本。
 ををを待て待て。僕はとりあえず靴下を探しながらアプリで久々に電車情報を調べた。上り電車。ギリ間に合うか。「ある!」と僕は叫ぶと、「それじゃあ現地で!」といつのまにか服を着た坂本が叫んだ。「マスクを忘れるな!」
 騒々しく考えが巡る頭の中ではまだ歌が流れているので、僕は慌てながらもついついハミングしてしまう。
 そもそも暴動ってなに持っていけばいいんだ?
 瓶のお酒はあまり飲まないので困ったが、現地で大学生にでももらえばいい。



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