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『コタキ兄弟と四苦八苦』は無自覚な偏見を描こうとしている

テレ東の金曜深夜のドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』が、なかなかに凄い展開になっている。

ドラマ24 コタキ兄弟と四苦八苦|主演:古舘寛治 滝藤賢一|テレビ東京 https://www.tv-tokyo.co.jp/kotaki/

全12話の内、昨日の最新回が第10話。前回の第9話で、第8話まで観ていた人には驚きの展開が待っていた。コタキ兄弟が通い詰める喫茶店シャバダバの看板娘(古い上になんとなく蔑視を感じる呼び名だ)さっちゃんが、実は、異母兄妹であったという驚愕の真実。しかも、兄の一路は、そのことを知っていたという。視聴者の多くは、第8話でその真実を知るまでは、一路を穿った眼で見ていたことだろう。20歳以上も離れた異性に執着して通い詰める40過ぎの無職男。さっちゃん本人からも、冷ややかな視線を送られていた。

そんな彼を見る目が、第9話で大きく変わった。今までさっちゃんに向けられていた目線は、決して真実は明かせないものの、年の離れた異母兄妹に変な輩が絡まないように見守る優しい目線だったのだ。そして、第10回では、認知症を患った父親(小林薫が老けメイクをしている)が登場し、自分の名前が「零士」で何もないことから、子どもたちの名前には数字を入れて「一路」「二路」「五月」としたこと、酒にも女にもだらしない父は、父なりに反省していたことなどが語られた。

同じ脚本家 野木亜紀子さんによる『アンナチュラル』では、毎回、悲しい事件が描かれたが、その多くの回で、話が始まった時には有った偏見を、謎解きを通じて謎と共に晴らしていくという試みが行われていた。当初、犯人と思われた人は犯人ではなく、善人だと思われた人は善人ではなかった。「人は見た目が9割」という自己啓発本が、かつてベストセラーになった。人は見た目を重視する。見た目で多くを勝手に判断する。

本作においても、最初の方は、一路という人物に偏見を持っていた人も少なくないだろう。娘くらいの年齢の異性に恋愛感情を頂いてもおかしくなさそうと。(演じる古舘寛治さんの怪しさも偏見に拍車をかけている)しかし、毎週、回を重ねる中で、その生真面目なまでの誠実な行動を何度も目撃し、こんなまともな男が、勘違い恋愛などするものだろうか……と疑問が出てくる。そこに来ての衝撃の真実だ。正直、謝った。申し訳ねえ、一路さん、申し訳ねえと謝った。

誰しもが偏見を持ってしまう。関係する全ての人の本質を、会ってすぐに見抜けるような人は居ないだろう。むしろ、誰しもが「自分自身も自覚なく偏見を持っていること」を自覚することが大事だろう。

その偏見をなるべく少なくするためには、なるべく多くの時間を過ごすこと。対話を繰り返し、行動を、言動を注意深く見つめること。そうして信頼でも共感でもなく、ひたすらに理解することが、世の中から偏見を無くすことにつながると本作は教えてくれる(気がする)。