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不妊治療を経験した方が親になること

不妊治療という言葉のネガティブなイメージは以前に比べてかなり和らいだとは感じているものの、ハッピーなもの、というニュアンスはないと思っています。

不妊治療は、物理的にも、精神的にも、そして経済的にもかなり難しい治療です。

なぜこれが難しいのか、ということと、教育問題を考えていた時に僕自身が感じたことを綴りたいと思います。

不妊治療の難しさ

不妊治療の難しさの根源の一つに「曖昧さ」が横たわっています。

むしろこれが全てと言っても良いのかもしれません。
それくらい大きな問題です。

私達は教育の過程で、問題を解く勉強能力のように「正解」にたどり着くことが正しいと教えられ、先に誰かが決めた答えにはめていく感覚を強く持っていると思います。

不妊治療の難しさの曖昧さを象徴する問題として、
「妊娠確率は0でも100でもない」
というところがあります。

例えば、35歳で不妊期間が3年ほどある方がいるとして、
自然妊娠できる確率:2%
人工授精で妊娠する確率:5%
体外受精で妊娠する確率:30-40%

というような分布をよくセミナーで示します。

この比較だけみれば、体外受精が図抜けて高いと思うでしょうけれど、よく考えてみて下さい。
一回の治療あたりの成功率よりも失敗率の方が高い、のが当たり前なんです。

そして、不妊治療で悩む方々の中では体験した人も多いと思うのですが、
大した治療もしていないだろうに、楽々妊娠した人、というのが必ずいます。

努力ならきっと誰にも負けないくらいやってきたはずです。
でも、はたから見たら、努力もしていない人が、サクッと妊娠しているという実態があります(事実は本人のみがしりますが)

妊娠というものが、本人の努力によって得られる、と考えるということは、
同時に、妊娠できないのは努力が足りないからだ、と考えていることになります。

国民的な病になりつつある不妊症に対して、自分の努力不足が原因、と考えるのが本当に正しい考え方でしょうか。
その考え方で、この問題を解けるかといえば、僕はいつか壁にぶつかるだろうと思います。

これは日本人が受けてきた教育に根付いている問題とも同じだと思っています。

答えのない問に答える力です。

同時にキャプテンシップのようなものも重要です。
妊娠を希望しているのは本人たち夫婦です。
ですが、自分たちの力だけでは難しいです。
この難題に対して、最適な人々を集め、協力関係を築き、
彼らの本領を発揮させ、目的達成につなげていく力です。
リーダーシップというと、自分がぐいぐいやるイメージがありますが、
船長をイメージするとわかりやすいと思います。
大きな判断はするものの、実際の業務はクルーが行いますよね。
このように、他人との協働関係を築く力が必要です。

そして現実的に、なぜかそういう方々に医療者も惹かれるのか、
良い治療結果が出ているように感じます。
どうにか手を尽くそうと必死になるのだろうと思います。
医療者もまた人なので。

精神的な辛さ

不妊治療は精神的にも負担のある治療です。
内診されるのが心地よいと感じる方は稀でしょう。
標準レベルの治療からして、すでに負担はあります。

ただ、その中でも医療者側の配慮であったり、器具の進化はしており、以前に比べて、その点の負担は小さくなっていると実感しています。

別の視点での精神的な辛さがあります。
それは、不妊治療を行う際の予定の管理の都合で、急に休まないといけなくなってしまうなど「人に迷惑をかけてしまう」側面があるからです。

人の役に立とうということ以前に、人に迷惑をかけるな!という教育を受けてきた方も多いと思います。

自分の妊娠に向けた治療で会社に損害を与えるなんて、と責任を感じてしまい、仕事を優先して、治療を遅らせてしまうのです。

これほどおかしな話もないですよね。
自分の人生の主役は自分です。
自分がしたいと思う人生を歩むべきであって、心から妊娠したいと願うのに会社を数日休む程度のことが何がいけないのでしょう。

本当に、自分以外に替えがきかないのかといえばそんなことはありません。
事実、自分が辞めたところで会社が潰れてしまうなんてことは早々ありません。そう思いたいだけです。

自分のかわりに誰かが奮起したり、そのチャンスをつかもうと必死になったりして、ピンチもチャンスに変えていくものだと思います。

もちろん、迷惑をかけてしまうことに対しての真摯な態度は必要です。
でも、自分の人生のど真ん中に何を置くのかは自分で決めたいです。
迷惑をかけてしまうことがあってもいいのです。お互い様、でいきていくのだから。

個性は誰にでもあり、自己決定が重要である、ということの理解が必要です。

経済的な辛さ

経済的には保険適用にもなり、かなり軽減されたものの、それでも通常の内科などでは払ったこともない金額がどんどん出ていくものです。

高額であること自体は、貯金ややりくりでどうにかなるかもしれませんが、お金を多く払う感覚が、特に知識のない男性などから多くもらう言葉として

「そこまでしなくていいんじゃない?」

という言葉です。
そこまで、とはなんでしょうか。

国民的な病となり、国も一般的な治療と認めた不妊治療は国民の保険料から出ているわけです。普通で、当たり前の治療です。
「そこまで」の要素など何もないけれど、事前知識のなさ、金銭レベルの低さから、こうした抵抗につながるのも一理あるだろうと感じます。

他の人がどう言っていたとか、常識・偏見を疑い、正しい情報にふれる力が必要です。

不妊治療で大変な思いをした方が親になること

不妊治療は大なり小なり大変な思いをする可能性のある治療です。
この経験を、お子様を授かった後に、教育に活かしていただけるのではないかと思っています。

・答えのない問いに答える力
・キャプテンシップ
・自分らしい意思決定ができる力
・正しい情報に触れる力

これらはこれからの先の日本の教育でも必ず生きるものだと思っています。

一日でも早く一人でも多くの人が不妊治療を卒業され、親になられることを願っています。

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