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IVMと乳がんの状態との関係性

IVMについては、先日出生児調査の結果を紹介しました。

今回は、乳がん患者の乳がんの特性とIVMの結果について調べた論文について紹介します。

乳がんは国内ではStage分類やTNM分類などが聞かれますが、
ヨーロッパなどでは、Scarff-bloom-Richardson分類(通称SBR分類)というものが用いられているそうで、SBR1<SBR2<SBR3という風にリスク分類されるようです。
ホルモン受容体陰性、HER2陰性タイプのいわゆるトリプルネガティブ乳がんはまた別の分類です。

さて、今回の論文のダイジェストを見てみましょう。

Influence of breast cancer prognostic factors on oocyte in vitro maturation outcomes performed for urgent fertility preservation
(緊急の妊孕性温存目的で行ったIVMに関する乳がんの予後因子の影響)

J Raad et al.,Hum Reprod. 2022 May 19;deac109.

乳がんの予後を確認する際の重要な指標として、
・SBRグレード
・トリプルネガティブ乳がんかどうか
・HER2の過剰発現の有無
・Ki-67がどの程度か

というのが重要であることはよく知られています。
日本の場合で言えば、乳がんのStageが低いほうが当然予後は高いとされています。
仮に、ここでいうトリプルネガティブ乳がんのケースやHER2過剰発現の場合やKI-67がHighと判断されている場合は、術前術後を問わず化学療法を行うケースが多く、患者さんの身体への影響も大変大きくなります。
それだけ、同じ乳がんと言っても状況に応じて治療内容は異なります。

この研究では、IVM後卵子凍結を行う予定であった
321名の患者さんのデータを研究し
・得られた卵子の数
・成熟率
・凍結された卵子の数
を評価しています。

患者さんのバックグラウンドとして、平均年齢は32・3歳。
平均の胞状卵胞数(AFC)は22.8個、平均のAMHは3.8でした。
なお、トリプルネガティブ乳がんの患者さんに関しては、AMHレベルは有意に低い傾向が見られました。(3.1±2.6ng/ml vs. 4.0±3.3ng/ml,P=0.02)

回収された未成熟卵子の数は10.2個で、平均成熟率は58.0%、最終的には平均で5.8個の卵子を周期ごとに凍結していたとのことです。

SBRⅢの方は、SBRⅠ-Ⅱの方と比較して、
得られた未成熟卵子の数(9.6±8.7 vs. 11.7±9.8個)
凍結保存された卵子の数(5.4±5.4 vs. 6.6±5.8個)
が低くなったという結果が得られました。

多変量統計解析の結果、HERⅡ陽性の状態が平均成熟率が60%以下となることと関係している可能性があることを報告しております。

Ki-67の値やホルモン状態はIVMの結果に影響と関係がありませんでした。

前向き研究ではないので、これですべてが証明できるわけではありませんが、こうした研究の積み重ねで医療のエビデンスは構築されますよね。

とても興味深い研究でした。

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