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IDOL or DIE

 本当は何もかも最初からわかっていた。そんな事は言われなくても知っていた。


 わたしが居るのは、一応事務所に所属しているアイドルグループで、二年前に雑誌のオーディション企画で誕生した。デビュー当初は、その雑誌のバックアップもあってそこそこ話題になったのだけど、特にシングルがヒットするわけでもなく、グラビアを飾る事もなく、当然テレビなんかにも出ることなく、今では自主興行なんかやっている地下アイドルの方が注目度が高いくらい。ホント嫌んなる。


 憧れていた世界に入ったものの、わたしの立ち位置は初めからそこだった。グループの中のやすらぎ担当と言えば聞こえはいいけど、要は他のメンバーの引き立て役みたいな感じで地味な存在だ。今やグループ自体が窮地に立たされていて、解散なんて声も聞こえてきそうだった。


  メンバーの中で二番目に人気のある乃蒼ちゃんがグループを卒業するって事を、ミーティングの終りにマネージャーが告げた。乃蒼ちゃんはスッと立ち上がりみんなに一礼したけど無言だった。そこでミーティングはお開きになって、わたしは乃蒼ちゃんに駆け寄った。

「なんかあったの?」

そう声をかけると五人の中でも一番人気のある華が気だるい感じで口を開いた。

「女優やるんだって」

華はそう言ってから面白くなさそうにテーブルの上のボールペンを何度か指でつついた。

「そうなの?乃蒼ちゃん」

そう聞いても乃蒼ちゃんはうつむいているだけだった。グループの中でわたしはよく乃蒼ちゃんに話しかける方だった。乃蒼ちゃんはクールな感じだけど繊細だった。

「どうしたの?ねぇ乃蒼ちゃん、ねえ」


 すると乃蒼ちゃんは顔を上げてわたしをきつく睨んだ。その目が怒りに満ちていた。

「オーディションの時からそうだった。あの時あなたを見て嫌悪感がしたの」

わたしは乃蒼ちゃんが何に怒っているのか全く理解出来ないでいた。

「こんな事になるんじゃないかとずっと思っていた。オーディションに受かって喜んでいたら、そこにあなたも居たの」

乃蒼ちゃんの唇が震えている。

「それでもやっていこうと努力したの」

なに?乃蒼ちゃんなに?

「あなたみたいのが居る時点で駄目だったのよ。嫌いなの、本当にイラつくの。顔、体型、声、喋り方、雰囲気、すべてよ、大嫌いなの」

わたしのせいなの?

「思い描いたアイドルの世界が全部崩れた。それでも我慢して我慢してやってきたの、あなたが話しかけてくる度に吐き気がした。あなたの立ち振る舞いでグループ全体のレベルがどんどん下がる気がした」

わたしだってこんなはずじゃなかったのよ。

「もうアイドルは諦めた。けど最後にかけてみる。金輪際わたしに関わらないで」

わたしの頬を伝いテーブルの上に涙が滴った。その直ぐ先に華がつついていたボールペンがあった。


 「イラつく」

そう言って部屋を出ようとした乃蒼ちゃんにわたしはぴったりとくっついていた。華が両手で顔を覆っている。他の二人も声にならない悲鳴をあげている。


「アイドルってなんだろね?」

わたしは乃蒼ちゃんに話しかける。乃蒼ちゃんはゆっくりと振り返って、それからお腹辺りを見ながら倒れた。



 わたしは乃蒼ちゃんの血に染まったボールペンを持ったまま笑っているみたいだった。


          終


 


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