京大講演(1)研究者を演出するとは

第1回ガレージ勉強会」でも書いたことだが、
演出のノウハウについていくつか事例をご紹介した。

そもそも【演出】とは、

1 演劇・映画・テレビなどで、台本をもとに、演技・装置・照明・音響などの表現に統一と調和を与える作業。
2 効果をねらって物事の運営・進行に工夫をめぐらすこと。
(引用:デジタル大辞泉)

とあるが、ここではもっと具体的に
「あるコンテンツを魅力的に伝える方法」としておこう。

研究者の演出手法の具体例として
・外部からの仕掛けによって魅力をブーストする
・ルールやフォーマットを利用する
・本人のキャラクターに依存する
の3つをご紹介した。

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【外部からの仕掛けによって魅力をブーストする】

ステージの設計や効果など、発表の場を工夫する事で
舞台に立つ人をかっこ良く見せる方法だ。

例えば2013年12月に行われた「第5回ニコニコ学会βシンポジウム」の
「研究してみたマッドネス」というセッションのオープニング。

【参考映像】
第5回研究してみたマッドネス オープニング

「研究してみたマッドネス」とは
公募と審査を勝ち抜いた15名の野生の研究者が
1人あたり3分間で渾身の研究発表を行う、というコーナーだ。

【演出】
・会場が暗転し、爆音でオープニング映像がスタート
・座長からのプロレス風呼び込みに応じて出演者は歩いてステージへ。
・全員がステージに揃ったら、座長がシャウトして発表スタート!

シンポジウムの大トリのセッションでもあるので、
派手かつわかりやすい(どこかで見た事があって予想ができる=ノれる)
ものにした。

考える道筋はこんな感じ。

【条件、制限】
・デモ発表が続くので、
 ”メインステージ”と会場脇に平台でこしらえた”サブステージ”の
 交互に分かれて発表する
・出演者は自分の発表にのみ集中してもらう必要がある
・予算はない

【方向性を決めるきっかけ】
自他ともに認める「マッドネスマニア」の湯村翼さんの
「メインステージに立つのがうれしいんです!」という言葉

発表ステージが分かれてしまうということは、
せっかくはるばるニコファーレまで来たのに、
平台のステージにしか上がれない人もいるということ。
それはなんとか避けたい。
全面スクリーンのメインステージからの眺めは最高だ。
だが、メインステージにあがって何をしてもらえばいいのか。

そこで選択したのが
「何もしないで成立する=何もしない事に意味がある」という手法。

メインステージに立ちたい、という願いを叶えるだけではなく
視聴者にとっては「すごい人」という印象が与えられるし
登壇者にとっても最初に「音と映像に囲まれてカメラも観客もいる会場」に
立ってもらうことで、多少の場慣れをしてもらうことにもつながる。

京都大では時間の都合で紹介できなかったが、
プロ研究者のセッションでもこの外部の仕掛けは使用している

【参考映像】
菌放送局 オープニング

テーマが菌類なので
(その前のセッションではテクノロジー系の話がメインだった)
それに合った世界観に引き込みたかった。
なのでみんなキノコになればいいじゃない!ということで
森林と苔の映像からスタートし(あえてローアングルにしている)
会場からキノコが伸びていく映像を作成した。
音楽もエレクトロニカ系を多様していたが、このセッションは
民族音楽系の楽曲をセレクトした。
(登壇者の白水貴氏の声が素敵ボイス過ぎるのは仕様です。)

シンポジウムの演出で、
誰でも実践できて効果が大きいのは「暗転」だと思う。
スタートをはっきりさせること、で聴衆の興味を引く事が可能になる。
とぼとぼ司会者が出てきて、ダラッと始まるのはあまりよろしくない。
ここはステージなのだ、非日常なのだ、と全員が認識するようにしている。

ニコニコ超会議のような、ブースの天井が無く暗転ができない、
他のブースの音が混ざってしまう、通りすがりの人が多いという条件では
ロックフェスなどが参考になるかもしれない。ここはまだ模索中。

【補足】
これらの演出は「ニコニコゲームマスター×地球防衛軍」という
イベントのオープニングを参考にした。
映像はこちら(タイムシフト版 03:00付近からオープニングスタート)
ニコファーレをシェルターに見立て、
観客もゲーム世界に巻き込む素晴しいアイデアだと思う。

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【ルールやフォーマットを利用する】

事例として「研究100連発」をご紹介した。
これは、5名の研究者が連続で研究発表をするというもので、
1名あたりの発表本数は20本。制限時間は15分。時間厳守で行われる。
1本の発表に使える時間は45秒しかない、というものだ。

聴講者にとって、研究内容ひとつひとつの詳細は理解できない
1件の発表を飲み込む前に次がくるという、
一見とても不自由なフォーマットだ。

だけど、この15分で20本を「一気に見せる」ということが大切で、
20件の発表を1本化することで
研究者の研究に対する「哲学」や「熱量」「人間性」が
強制的に浮き彫りになるのだ。

「外部からの仕掛け」も「ルールとフォーマット」も共通しているのは
「登壇者の舞台上のパフォーマンスに期待しない」ということだ。
当たり前だが研究者は役者ではない。
研究内容が素晴しい事とカメラを前にした動きの巧みさ
(容姿、立ち姿、発声、表情、身振り)は別の要素だ。
それを求めてしまうのは演出サイドの傲慢だと思う。

なので僕がニコニコ学会で演出をするときは、
トレーニングを必要としない工夫を大事にしている。
「舞台の左から右に歩いてきてください」
「このルールと時間は厳守してください」
出演者への指示はこれだけにとどめている。

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【本人のキャラクターに依存する】

研究者は役者ではない、のだが、
中にはタレント顔負けのキャラクターを持ち合わせている人もいる。
そういった場合、演出というより発表のスタイルや
パフォーマンスの個性の強さに便乗するもので、
カメラワークなどの検討になる。
技術的なノウハウについてはここでは割愛する。

【参考映像】
むしむし生放送 前野ウルド浩太郎さん

その風貌と圧倒的なパフォーマンスで会場を魅了した前野氏だが、
見た目のインパクト以上に研究内容の濃さとわかりやすさが印象に残った。

本人依存の場合、個人のキャラクターを全面に出すので、
与える印象はとても強いのだが
反面イロモノ扱いされてしまう危険もはらんでいる。

そのため、伝える側としては、
登壇者のパフォーマンスの表面的な部分にのみ目を奪われないよう、
本人が「何を研究していて、何を伝えようとしているのか」
その実現のために必要なパフォーマンスなのかを
注意して見ておく必要がある。

また、上記「むしむし生放送」がとてもいい例だが、
ファシリテーターの存在は重要だ。
むしむし生放送の場合、メレ山メレ子さんのスタンスが
観客の興味を正しく導いていた。

「こんなに妙な人だけど、研究の内容がとてもすごいんですよ!」
というスタンスを終止貫く事で、
見た目だけが一人歩きしてしまうことをうまく回避している。

ファシリテーターがただ表面的な面白みだけを膨らませる
(お笑い芸人が研究者やアーティストをいじる番組などに見られる)だけでは
リスクの方が大きくなってしまうことがあるのだ。

ファシリテーションの姿勢は人によって様々で、
あえて何もしないで放置するという意見もあるが
僕はそれはちょっと無責任だと思う。
主役は自分ではないから、という言い訳を聞くこともあるのだが
ならばカメラの前にいなくていい。
場を司る立場として人前に立つ以上は、そのコンテンツがどのように
受け取られるかについて意識しておいたほうがいいと思うのだ。

【補足】
技術的ノウハウは割愛するが、
プロの技術者との連携で重要なことのみご紹介する。
ニコニコ学会βシンポジウムでのスイッチングやカメラ画角の検討など、
技術スタッフのチームワークと専門的な機材操作技術が必要なところは
すべて現場の技術部にお任せしている。

とはいえ、「わからないのでお任せします」ではなくて
・このセッションの見どころはこれ
・1度に登壇する人数、立ち位置
・モノを使う場合はその情報
・見ている人がこんな気持ちになってほしい
(「内容を伝えたい」のと「この人の熱さを伝えたい」では
 カメラの位置が変わる)
など「実現したいこと」を伝えるようにしている。
上記を決定する事(相談じゃなくて、決定)が
ディレクターを担当する人の必須項目となる。

ボランティアベースのイベントでは
運営と技術者(技術会社などのスタッフ)が切り離されていることが
多いが、それは必ずトラブルを生む。
職人を運営に引き込む必要はないが、「業者扱い」をして
蚊帳の外に置くのはよくない。

こちらが技術的なことに慣れていなくてもいいので、
現場の技術者には事前に対面して話をすることが何より大切だ。
メールでも電話でもなく、先方に行くのが望ましい。
例えばニコファーレなら実際の機材を見せてもらいながら話をする。
挨拶もされず、顔も名前もわからない状況におかれても
しっかり仕事をしてくれるのがプロのプロたる所以だが、
それでは最低限の力しか発揮してもらえない。

たまに「技術の人は怖い」って言われるけど、仲間はずれにするからだよ。
挨拶しましょう。で、弁当は出そう。

【次回】
京大講演(2)演出の「目的」と、「ズレ」が生む悲劇
 演出には必ず目的がある。取材トラブルの原因とは。

【目次】
京都大学で講演してきました

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