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『ガイズ&ドールズ』 雑録 #02

『ガイズ&ドールズ』@博多座、上演中です。

コロナのために公演中止と再開を繰り返し、明日のことは分からない、今日のこのステージが最後になるかもしれない、という思いを全員で共有しながら、より一層感染対策に緊張感を持ち、一公演ずつ味わいながら歩みを進めています。

…今日も楽屋入りできた!

…今日もOvertureが始まった!

…今日もカーテンコールまで辿り着いた!

舞台上そして舞台裏での一瞬一瞬が、本当に尊く感じます。

そんな中、7月20日の博多座公演が開演30分前に急遽中止となり、楽しみにご来場くださっていたお客様をがっかりさせてしまったこと、そのことへの申し訳のない気持ちは、未だ胸に深く残っています。

帝劇での公演は結果的に半分強が中止、一縷の望みをかけた帝劇千穐楽も再開叶わず、3週間の休止期間を経て、7月16日の博多座初日に「全員揃って」リスタートしてからわずか数日後の公演中止でした。

ワイヤレスマイクを取りに、制作ルームのある舞台階へ行った時に知った中止の報。その後、楽屋の一斉放送でアナウンスがありました。ほぼ全員がウォーミングアップもメイクもすでに終わっていて、さあ衣裳に着替えよう、という時でした。

関係者内で体調不良者が出て、陽性反応が確認されたための中止でしたが、検査結果が出てから開演までの本当に短い間に、開演時間を押してでも何とか上演できないか、プロデューサー陣と舞台監督チーム、博多座さんとの間で、瞬時にあらゆる方法のシュミレーションがなされたんだと思います。
でもどうしたって、セリや盆をフル稼働させている、危険と隣り合わせのガイズの舞台装置、転換きっかけだけは当たらないと。怪我人が出たら今日明日のことだけでは済まなくなる。
目先のことではなく、安全と一人一人の将来を最優先に考えた結果下された決断でした。

開演15分前、博多座支配人が舞台上で公演中止を告げた時の客席からの悲痛な叫びは、楽屋モニタ越しでもはっきりと聞こえました。
お客様に対して申し訳のない気持ちで心がいっぱいになると同時に、支配人とはこういう仕事なのか、と、胸が痛くなりました。開演を待つお客様を前に、直接この第一報を伝える重責を担う仕事。
これが劇場主催や共催ではなく貸し館の場合は、興行元のプロデューサーがその任務を担いますが、いずれにしても支配人あるいはプロデューサーという仕事の本質に触れた瞬間でした。

体調の異変を隠さず報告したメンバーの勇気も、心から尊敬します。感染を広げるかもしれないリスクを考え、自分のことよりカンパニー全体のことを優先させて然るべき対処をするのは、プロとして当然のことと頭では分かっていても、私だったら正直に言うことを一瞬躊躇ってしまうかもしれない。いや、躊躇ったとしても言わねば。と改めて胸に刻みました。
療養中のメンバーが、肉体的にも精神的にも、どうか負担を負わずにいられることを祈ります。

支配人からの報告の後、異例のことでしたが、主演の4名(井上芳雄くん、明日海りおさん、浦井健治くん、望海風斗さん)が舞台上に出て、直接お客様に一言ずつご挨拶をしました。すでにロビーに出ていたお客様も客席に戻ってきて、みなさん固唾を飲んで聞き入っている様子でした。

この状況で、舞台メイクに稽古着の状態で、落胆されているお客様に対して何を伝えればいいか。
(芳雄くんだけはメイクこれからだったみたいです。でもそれも、お客様を和ませるネタだったのかも。)

中止になった公演の俳優が、その報の直後にお客様の前に出てご挨拶をすることが、果たして良いことなのか分からない。と芳雄くんは言っていましたが、4人が出てお客様に語りかけたことで、少しでも気持ちが和らいだお客様は沢山いらしたと信じています。

用意された原稿もなく、スピーチ内容を考える時間すらなかったのに、4人の言葉はそれぞれ的確で、四人四様の愛に満ちていました。内輪褒めになってしまいますが、飾ることなく誠実に正直に言葉を選び、紡ぐ姿は、演出家マイケルが残していった言葉 ”Keeping honest” そのものでした。
楽屋モニタを直立して見上げ、様々な思いで滲む涙を拭いながら、この素敵な4人が率いるガイズカンパニーの一員であることを、改めて誇りに思いました。

帝劇での公演がストップしてから博多で再会するまでの間も、座長 芳雄くんを始めキャストのみなさんがグループLINEでシェアしてくれるメッセージや様々な情報に、沢山の元気をいただいていました。

あたたかで、穏やかで、みんなの落ち込んだ気持ちを和ませようとユーモアも交えた、思わずクスッと笑って元気になるメッセージの数々。

本当に素敵なカンパニーです。


急遽様々な手配がなされ、『ガイズ&ドールズ』は幸いなことに7月21日から公演を再開しています。

29日の大千穐楽までこのまま無事に到達することを一緒に祈ってくださる、沢山の皆様の存在に、大きな勇気をいただいています。本当にありがとうございます。

いつの頃からか、「おつかれさま」に加えて、「また明日ね」と声を掛け合って楽屋を出るようになりました。
「このステージが最後になっても悔いはない、と思える仕事をしよう」と、今きっと舞台業界全体が、心に刻み臨んでいると思います。だとしても(だからこそ)、ラストまで何とか辿り着きたい。
あと10ステージ、どうか見守っていてください。


ご覧になれなかった皆様にも『ガイズ&ドールズ』の世界を少しでも感じていただけたら嬉しいです。

 ▼公式プロモーション映像


▼博多座の、粋でwelcomeムード溢れるエントランス


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