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『無防備都市』を見よ、ここに戦争の全てがある

前回のつぶやきから2週間。「まだ」と言うべきか、「もう」と書くべきなのか。その間激しい寒暖差が繰り広げられ、気を付けていたつもりだったのに、見事また体調を崩し、先週前半は仕事を休む羽目に。
家族も会社の同僚たちも、順番に体調不良で休んだりしているが、この季節外れの寒暖差が、やはり体に堪えるんだろう・・・
そんなこんなで、ここ最近は体調優先で、週末も外出を控える日々。
嗚呼、春だというのに。。。

前置きが少し長くなったが、今もあちこちで続く戦争について。
79年前の3月10日未明、私の住む東京の下町一帯はB29による空襲に見舞われ、夥しい死傷者を出し、街は一面焼け野原となった。世に言う「東京大空襲」である。以前もここで触れた事があるので、今回は省略するが、それにしても、あれから80年近く経った今も、世界では戦争・紛争が絶えない。
そんな中、今年の始めに見た『無防備都市』に胸をズドンッ!と射抜かれた。制作・公開から79年(1945年!)経つこの映画は、いささかも古びる事なく、戦争の本質を鮮やかに映し出し、この作品を見ずに戦争を語る事など出来ないとまで感じさせた。「へぇ、どんな映画なの?」という方もいらっしゃると思うので、まず作品の内容に触れよう。

『無防備都市』(原題:Roma città aperta)は、イタリアの映画監督、ロベルト・ロッセリーニが監督・共同脚本を務め、1945年に公開された映画だ。
第二次大戦の終戦直後に制作・公開されたこの作品は、戦争末期のドイツ軍占領下にあった頃のローマを舞台に、パルチザンとドイツ軍の攻防を描きながら、ドイツの支配下に置かれながらも、強く生きようとするローマ市民の様子を描いている。
あらすじは↓に詳しいので割愛するが、この作品の特色は、やはり戦争の本質・核心を突いた事だと思う。

戦争が起こる背景には、民族や宗教、地政学上等、様々な問題が絡むが、根底にあるのは、異なる文化や宗教、民族への差別だ。その根底には、苦境(自然災害や不況、戦争等)を経験する中で醸成される、自分たちのコンプレックス、あるいは強い不安感がある。そうした中で自尊心を保とうと、(無論全員ではないが)根拠のない他者への優越感をかざしはじめ、やがて様々な形の暴力によって、他者の考えや文化、信仰を否定し、彼らの土地や財産を奪い、最悪その命すらも奪っていく。ここまで行くと、相手を同じ人間と思わなくなり、命すら軽いものになっていく。そうして奪われた側は相手への憎しみが芽生え、その経験や記憶を代々受け継ぐ事が多いので、新たな戦争・紛争の火種が生まれていく。これが、歴史上の、特に近現代の戦争・紛争の根本にあるものだと、私は考える。
『無防備都市』を例にすれば、(一部例外的な人物はいるが)作中のローマ市民たちは「奪われた側」、対するドイツ軍人たちは「奪う側」となる。その構図がもっとも色濃く出ているのは、物語の後半だと思う。
主人公の一人であるパルチザンが、ドイツ軍に捕らえられ拷問される間、ローマを管轄するドイツ軍人が、拷問部屋と扉一枚隔てた別の部屋(!)で仲間と酒を飲み、「イタリア人は弱い奴らで、自尊心などない」的なセリフを嘯く。これはまさに、彼がイタリア人を人間と思わず、相手が死のうとどうなろうと構わないから、こうした言動が平気で出来る訳である。残念ながら、こうした発想は、どの時代にも、どこの国・民族でも起きうる。それは戦時中の日本でも、そして今も・・・。
話を戻そう。件の軍人の言葉を聞いた初老の同僚はこんな事を呟く。「前の戦争(第一次大戦)で、捕虜となったフランス人たちは、最後まで口を割らずに死んでいった。それはイタリア人も同じ事だろう。」「墓場から憎しみが生まれるのだ。」と。
そして映画の終盤、抵抗運動を支援していた神父が、ドイツ軍側に射殺される場面がある。神父を慕う子供たちが、フェンス越しに無言で彼の最期を見届け、その場を去るところで物語は終わるのだが、アップで映る子供たちの張りつめた表情、そして神父の死後うなだれて歩き去る姿が印象的だ。彼らは何も言わなかったが、その心に芽生えたのは愛する者を失った悲しみか、はたまた復讐心か・・・

長くなってしまったが、ここまで書いてきた内容は、今もなお世界中で繰り返されている事と重なる。ウクライナ、ミャンマー、ガザを始めとする国・地域で、それ以前の他の地域でも、一体何度繰り返された事だろう。
私たちは、なぜこんなにも簡単に過去の出来事を忘れて、互いを憎み合い殺し合ってしまうのか。そして、大の大人たちがなぜ、自分たちの利害を優先するあまり、争いを止められない(止めようとしない)のか。
こんな現状を変える力も権限もない、さらには戦争を知らないで育った自分だが、それでも歴史に学び、語り継ぐ事は出来る。『無防備都市』を見て改めてそう思った。だから、これからも言い続けよう。「『無防備都市』を見よ、ここに戦争の全てがある。」と。

日本初公開時のポスター。左下の女性は、イタリアの名優、アンナ・マニャーニ。作中、彼女が走る場面は非常に有名。一度ぜひご覧あれ。

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