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プロレス超人列伝第16回「ケイン」

「器用貧乏」、得てしてこの言葉は悪い意味でつかわれる。

しかし、逆を言えば万能ともいえるのだ。

一芸に特化した貧乏よりも器用貧乏のがマシ、今回紹介する選手は善玉悪玉コミカルホラーなんでもできるまさに万能選手である。

今回の主人公の名前はグレン・ジェイコブス。

ジェイコブズは元々寡黙で人付き合いが苦手な温厚な性格をした少年だった、だが彼には210㎝以上の体格という抜群の武器を持っていた。

プロレスという世界においては「大きさ」というのはそれだけ派手で多くの観客から好かれる要素である。

二階席からよくみえて、前方の席からもよくみえる。

大は小を兼ねるといういい見本である。

ボリス・マレンコによって育てられたジェイコブスはあの藤原喜明率いる藤原組にも参加した。

その巨体からは信じられない運動神経と技巧性で日本人選手を苦戦させ、ストロングスタイルにすらも順応するという驚異さをみせつけていた。

今考えればこの経験こそケインを世界のスーパースターにさせた原因の一つでもあるといえるのかもしれない。

やがて、1995年にはWWFに登場した彼は殺人歯科医師という冗談みたいなギミックでデビューしたが、大失敗で終わってしまった。

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他にも当時にはWCWにいったケビン・ナッシュへの見せしめのような二代目ディーゼルというギミックもしたが、これもまた大失敗。

自己主張の薄いグレンはビンスのアイデアを淡々と引き受ける、ビジネスマンのような男だったのだ。

だが、そんな彼に転機が訪れる。

1997年、彼は生まれ変わった。

アンダーテイカーの弟、ケインとして…。

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デザインは紺色・青色のまじったテイカーに対して赤い色をしている。

そして、アンダーテイカーよりも大きく力強いという設定もついた。


長い間WWFの守護神であったアンダーテイカーにようやく対等な意味でのライバルが現れたのだ。

ストーリーは、テイカーに顔を焼かれて長い間行方不明だった弟ケインをポール・ベアラーが育てていた。

ベアラーは憎きテイカーを倒すためにケインを差し向けるというもの。

あのアンダーテイカーが両親の墓の前で泣きながら「家族みんなで暮らしたかった」というと、ケインはその墓を叩き潰すという鬼畜の所業をみせる。


それまで圧倒的な力を持っていたテイカーを赤後のように捻りつぶすケインは恐ろしく、多くの視聴者を恐怖させた。

長い抗争の末、兄テイカーのツームストンを何度も受けようやく倒れるというまさに王道のストーリーであった。

このストーリーはとても人気を博し、以降アンダーテイカーとは愛憎ドロドロの関係になったり、共闘して「破壊兄弟」を結成するなどついたり離れたりの関係を繰り返した。

そして、このケイン…キャラクター上複数の女性レスラーに恋しては裏切られを繰り返していった。


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なんとタッグパートナーであったXパックに恋人を寝取られる、リタが流産するというアホみたいなメロドラマも披露されたがこれもまたWWF/WWEらしい特色であったと今になれば思うだろう。

そして、2003年。

ヒールユニット「エボリューション」との試合に負けた彼はマスクを脱ぎ、その正体を晒すこととなる。

これがまた恐ろしい。

タッグパートナーのロブ・ヴァン・ダムは止めに入ろうとするが、ケインはいうことをきかない。

それどころかマスクを脱ぐと鬼か悪魔のような顔で睨みつけ相棒をチョークスラムで叩き落とすのであった。

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その後、ケインは強烈な力としてWWFを支配し始めた。

その当時最強であったヒールユニット「エヴォリューション」やマクマホンファミリーですら手に負えないケインは暴走の限りを尽くした。

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まるでマスクこそが彼本来の力をとめるかのごとく、猛威を振るった。

髪型もない彼のそれは異形そのもので極めて恐ろしかった記憶がある。

やがて、当時アメリカ暴走族の「バッドアス」のギミックをしていた兄のテイカーを襲いなんと殺害してしまうのであった。


ケインは高笑いを起こしながら宣言する。


「俺の兄テイカーはここで死んだのだ!!!」


だが、甘かった・・・。

アンダーテイカーは不死者デッドマン、何度でも何度も蘇るのだ。

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蘇ったテイカーは弟ケインを葬り、復讐に成功する。

それ以降アンダーテイカーはスマックダウンの主人公として定着することになるのであった。

こうしてみるとテイカーと因縁のあるケインだが、私生活ではテイカーと親友同士でありレッスルマニアの連敗記録もケインになら破られてもいいとテイカーがアイデアするほど気を許していたそうである。

やがて、時代は移り変わり2010年代。

長い間怪物としてふるまっていた彼がようやく人間らしい一面を見せる時がきた。

当時抗争していたダニエル・ブライアンとその場しのぎ的にタッグチームを結成。

その結果、チームへルノーが生み出された。


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それまでのケインとは想像できないほどコミカルな一面をのぞかせたケインは40代半ばにして新規路線を開拓するという躍進的な活躍を起こした。

傲慢でプライドの高いブライアンと、一件怪物のようだが常識人のケインは漫才のボケとツッコミの枠まで達した。

この活躍をみたテイカーはケインに「あんな面白そうなことしてお前だけせこい」と愚痴ったそうである。

このようにケインはコミカル・シリアス・善玉・悪玉なんでもできるオールマイティな選手でもあったのだ。

ケインの凄さはこれだけではない。

彼の本当の強さはその腕力にある。

でかいということはやはりそれだけ腕力が高いということ。

UFCでも世界の頂点に輝いた男、ブロック・レスナーはケインと腕相撲をしたがレスナーの腕力ではケインには勝つことができなかったと語っている。


無論レスナーは見栄で他人をほめるようなことをしないので、恐らく真実の可能性が高いだろう。

この事が話題になり、とあるネットメディアで「あなたがWWE一強いといううわさがありますが…」という記者の質問に対して謙虚にこう答えた。


「いえ、それはあくまでレスナーの経験なので私はWWE最強ではありませんよ。」



この謙虚さこそが、ケインの持ち味である。

さらに、試合で若手に負けることが多く王座ベルトに届きそうで届かないという自身の役割に対してもさらに謙虚に一言。


「自分はあくまで脇役、若い人間にこそベルトや勝利が相応しいのです。」


なんという謙虚さであろう。

こんなケインであるが、当然トラブルを起こしたこともある。

しかしその立ち振る舞いもケインに同情が寄せられるというもの。

とあるファンがネット上でケインに対して無礼なふるまいをした。


「やああんた、アイザックヤンカムだろ?」


するとケインは完全にキレてしまい、会見を打ち切り帰ってしまうというまさかの事態に。

まあこれは質問した奴が空気読めない大アホであるというだけのはなしなのだが。

さらにこのケイン、かなりの頭脳派でいつも興行の最中にはノートパソコンを忘れずいつも何か本を読んでいるというインテリ派。

あのみのもんたで一時日本でもブームになった「クイズミリオネア」にも出演、その際には全問正解し司会者が沈黙するというカッコいい一面をみせた。

ここまでくるともはややりすぎであるが、このケインの伝説はまだ止まらない。

なんと2017年、アメリカテネシー州の田舎町ノックス郡でまさかの郡長選挙に当選するという大番狂わせを演じたことがあった。



プロレスの世界で成功を起こした赤い怪物は政治の世界に進出したのだ。

現在彼はこの郡長を続けており、その傍ら時折WWEに姿をみせていた。

当然のごとく、WWE殿堂入りを果たした。

彼の巨大さはWWEのリングすらも飛び越えた。

そう、政治の世界にもその巨体をうねらせたのだ。

(田舎町と書いたが、人口はなんと人口178,874人もいる。割と結構多かったりするのだ。)

人は彼を「器用貧乏」というかもしれない。

だが、器用というにはあまりにもすぎる。

貧乏といえばあまりにも力を持っている。

そう、この男にはこの言葉こそふさわしい。


「大は小を兼ねる」


WWEを支えた巨漢は10万人以上が住む街を現在は支えているのだ。

このスケールのでかさこそ、アメリカンドリームといっても過言ではないだろう。

最後にもう一つとんでもないことをいうと、このケインはまだ引退していないのだ。


つまり、明日リングに上がってもおかしくない。


そんな夢いっぱいのケインが自分は大好きである。






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