見出し画像

5年後のある一日。 午前の部

 5年後(2025年),私はこうしていたい。

 ニワトリのけたたましい鳴き声に起こされた私は,朝5時に散歩がてら田んぼを見に行く。今日は初夏にしては涼しくて,いい天気だ。7反ほどの田んぼを仲間と一緒にやっているが,先週の土曜に紙マルチ法で田植えを終えたばかりで,水面に紙が浮いている。田植えには仲間の家族や友人,私の学生たちが集まり,さながらお祭りのようであった。田植え後のなおらいがバーベキュー大会になって,自家製の野菜や肉,チーズや豆腐が持ち込まれ,各地の地酒やオーガニックワインが振る舞われたのもすごくよかった。田植えのときに昔ながらの臼と杵で餅つきをやるようになったのはいつからだったか忘れたが,つきたての餅はやはりうまい。なかでも,有機無農薬の大豆でつくった自家製の納豆もちが絶品だった。田んぼの水位も申し分なく,異状はなかった。

【朝食】

 少し散歩をしてから自宅に戻り,朝飯の準備に取り掛かる。1年前に掘った井戸から水を汲む。飯は毎日とはいかないけれど週に1回は,薪を使ってかまどで炊く。もちろん,コメは有機無農薬。以前は北秋田の親戚から送ってもらっていたが,最近は自分たちでもつくれるようになってきたので,コメはほぼ自給できるようになった。自分たちでつくっていることもあるのだろうが,やたらうまくてついつい食べ過ぎる。煮干しで出汁をとり,お隣さんから分けてもらった小松菜と豆腐を入れ,干しエノキダケを入れ,自家製大豆で作ったみそを溶く。最後に陸前高田の知り合いが毎年送ってくる塩蔵ワカメを塩出しして刻み,たっぷり加えてみそ汁とする。おかずはシンプルに目玉焼きとソーセージ炒め。あと梅干し。梅干しも作れるようになりたいな…。

 卵と言えばそうそう,養鶏も非電化工房「地方に仕事を創る塾」の同期から教えてもらって鶏小屋を作り,2年前からわずか3羽だが飼い始めた。私たちが不在の時にはお隣さんが餌やりなどの面倒を見てくれる。ニワトリは偉大だ。イタチなどに襲われないように注意する必要はあるが,新鮮な卵が手に入るし,生ゴミを全て平らげてしまうので重宝している。しかも鶏糞は肥料に化ける。彼らニワトリたちには天寿を全うしてもらおうと思っている。

 いずれはヤギも飼いたいなあ。不在時に世話をお願いすることになる,お隣さんに相談してみるか…。耕作放棄地はこの周辺にも多いから,ヤギに除草をしてもらおう。ヤギが草を食んでいる間,焚き火の前でコーヒーを飲みながら本を読むなんてできたら最高だろうな…。除草には,エンジン式の刈払機は効率がいいからよく使うけれど,静かでのんびりとした田園の雰囲気を壊してしまうのにはいまだに慣れない。

 そういえばジャガイモやサツマイモ,大豆はつくれるようになった。葉物野菜は毎日のように手がかかるので,出張が多い私たちにとっては難しい。けれど,仲間や近所の方からおすそ分けで十分だ。その代わりに私はイモや大豆,コーヒー豆を配ったり,子どもたちの勉強を見たりしている。

 そのようなことをツレとおしゃべりしながら,朝食後のコーヒーを淹れる。自分で焙煎したコーヒー豆を,スポング社製のコーヒーミルで挽き,井戸水を沸かしてオールステンレス製のドリッパーで抽出する。香り高くコクのある,うまいコーヒーができた。すっきりとした苦さがここちよい。コーヒー豆は,生豆の状態で取り寄せて,毎日のように焙煎している。焙煎時には,コーヒーの香りも豆の色の変化も愉しめる。焙煎は1回あたり10分ほどででき,3日間にわけて飲む。そのため,いつも3日前,2日前,当日の焙煎豆が手元にある。これは,焙煎3日後が最もおいしいとされているので,それまでの味の変化を楽しむためである。以前は焙煎したコーヒー豆をより寄せていたが,今では取り寄せるのは生豆ばかりになった。

 このコーヒーを生豆から楽しむことも,今や私のなりわいに化けている。名付けて「自分焙煎カフェRGBY」。"RGBY"は,DIY (Do it yourself)のコーヒー版,「自分で焙煎し,挽き,淹れる」(Roast, grind & brew it yourself)という意味。コーヒーを提供するカフェだが,客に提供するのは,生豆と焙煎から抽出までできる道具(焙煎器,ガスコンロ,コーヒーミル,ドリッパーなど)。つまり,客が生豆を自ら焙煎するところから始まるカフェで,「生豆からコーヒーをつくり味わう」体験を提供するものだ。「真庭なりわい塾」第4期生には実験台になってもらった。いまでは,月1回程度だが軽トラに道具一式を積んで,地域のお祭りやフリーマーケットに呼ばれて出店している。

 コーヒーを飲んで,朝ドラを見たら仕事開始だ。今日の午前中はアロマウォーターの蒸留。アロマウォーターは私の家族が1週間に使う分だけ週始めに蒸留する。1時間も蒸留すれば100ccとれる。定番のスギやヒノキの葉もいいけれど,暑くなってきたから爽快感のあるペパーミントにしよう。庭先にたくさん生えているしね。ついでにミントウォーターも作って冷やしておこう。

 そうそう,今週の日曜日は,月に1回開くことにしているアロマウォーター蒸留ワークショップだったな。その準備もしておこう。「自分でつくった蒸留器で,自分が使うアロマウォーターをつくる」体験をしてもらって,それを日常にしてもらう。蒸留器の販売というより,ライフスタイルの提案だ。ペパーミント以外に蒸留材となるハーブが出揃っているか,畑に行ってチェックしておこう。当日に出すハーブティーとクッキーも選んでおかないと!蒸留器の部品の在庫はあるかな…。蒸留器を市販のペンキ缶やアルミパイプなどから組み立てるのは,時間がかかるし,金属加工(穴あけ・ヤスリがけ)が必要だから,こちらでこの加工はあらかじめやっておく。参加者は組み立てるだけだ。参加は7名でまずまずだ。前回参加してくれたAさんの友人が今回参加するとのこと。ありがたい。

(「真庭なりわい塾」第4期基礎講座修了レポート課題「X年後の自分を描いてみる」)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?