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救世主の佇まい、シン・ウルトラマンと弥勒菩薩。

特撮の世界にも仏像の世界にも、マニアがいて専門家・研究者がいて大家がいる。

素人であるわたしがアレコレと言える立場ではないが、それでも2年近く前だったと思うが「シン・ウルトラマン」の姿を初めて見たときは驚いた。それと同時にとても不思議な感覚に包まれ、その瞬間に抱いた気持ちは今でも忘れられないでいる。



「なにごとの おはしますかは 知らねども 

 かたじけなさに 涙こぼるる」

西行が詠んだ有名な句であるが、彼が伊勢神宮を参拝した時はおそらくそんな気持ちだったのかもしれない。


或いは、わたし自身の言葉で嚙み砕いて言い表すならこんな感じだろうか。


時が止まっているのか流れているのか判然とせず、

世界が動くのを止めたのか、

静謐で清澄な凪のような時空に取り残されたのか、

或いはまったく光の届かない暗く深淵の底に吸い込まれたのか、

なんの感情も湧き上がらず一切の思考を永遠に停止させられたような、

悟りの境地に辿り着いたような、そんな気持ちになった。

(と、書いてはみたものの陳腐な表現というか、回りクドい言い方というか、ややこしい難しそうな言葉を並べてみたが要するに「あー、なんか畏れおおいなあー、なんか有難いなあー、なんか妙に静かだなあー、」と思った次第である。)


それで、あの時に受けた印象が何だったのかを少しずつ確かめてみたいと思う。


わたしが見たのは、湖のほとりで立っているウルトラマンの画像だ。知ってる人も多いと思うが、今では映画『シン・ウルトラマン』公式サイト内のシン・ウルトラマンの姿というところでその画像が確認できる。

同ページにはこの作品の企画・脚本である庵野秀明氏のコメントが寄せられていて、『シン・ウルトラマン』という映画をつくろうと考えたキッカケや、『シン・ウルトラマン』の「ウルトラマン」の顔や身体の造作、つまりデザインがこのようになった経緯や、本来の「ウルトラマンの美しさ」を皆に伝えたいという想いなどが語られている。


そして、そのコメントの後には成田亨氏が描いた『真実と正義と美の化身』というタイトルの作品が掲載されている。成田氏は円谷プロにおいてキャラクター、怪獣、制服、機械、基地などのデザインに深く関わっていた人物だ。


その『真実と正義と美の化身』は、わたしたちがよく知っている馴染みのあるウルトラマンとは少し違った印象ではあるが、その油彩画そのものをじっと眺めているとタイトルの通り、確固とした美しさを見て取ることができるし、湖のほとりで立っているウルトラマンと同じ空気感というかオーラのようなものを感じ取ることもできる。


庵野秀明氏が伝えたかった「ウルトラマンの美しさ」の一端にわたしはあのとき触れたのだと思う。


では、その美しさとは何なのだろうか。


特撮作品のヒーローがウルトラマンというデザインに至った経緯については以下のようなものが散見される。

・まず怪獣を主役として据えるつもりが、宇宙怪獣から宇宙怪人へ、さらには宇宙人(格好よく美しい姿)となった。

・怪獣はカオス(混沌)の象徴であり、ウルトラマンはコスモス(秩序)の象徴である。

・能面のように単純で、角度や陰影による心理描写を可能にさせる。

・宇宙服、ヘルメット、ロケットのような質感を再現させる。

・ギリシア彫刻、パルテノン神殿のアテナ像のような美を盛り込む。


真偽については定かではないが、関係者の証言というかたちで様々なものが見受けられる。


その中でもわたしがなるほどと、得心して腑に落ちたのが広隆寺の弥勒菩薩像をモデルにしたというものだ。

広隆寺の弥勒菩薩といえば非常に有名だ。左手と右足を左ひざに預け、印を結んだ右手は頬の近くにそっと寄せている半跏思惟像といわれる彫刻である。


ドイツの哲学者カール・ヤスパースが「完成されきった人間実存の最高の理念を表したもの」と言ったとか言わないとか。

半世紀以上前の話であるが、京都の大学生がその手の美しさに見惚れるあまり弥勒菩薩像の薬指を折ってしまったとか。


このような逸話もあるのだが、わたしが得心した理由は弥勒菩薩の存在にある。弥勒菩薩とは釈迦の入滅後、遠い遠い未来のこの世界で悟りを開き、人々を救済する未来仏とされている。


遠くからやって来てこの世界の人々を救う、というウルトラマンとの大きな大きな共通点がある。

正直なところ、面相や風体に共通点があるかと言えばそうでもない気がするが行動原理であるとか、(実存という言葉はよく分からないが)実際の在り方や佇まい、この世界に向けている眼差しなど、とても似ているとわたし個人としては大いに感じている。


映画『シン・ウルトラマン』がどんなストーリーでどんな内容の作品なのかは全く想像もつかないが、あの画像一枚で「ウルトラマンの美しさ」を十分に感じ取ることは出来たと思う。


なんとなく、わたし個人の感想をつらつらと書いてみましたが

最後までお読みいただきまして有難うございます。








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