『いつかたこぶねになる日』⑨⑩
⑨ あなたとあそぶゆめをみた
平仮名ばかりの小津さんの詩は目にも心にも優しく、悲しい歌なのにリズムよく口ずさむことができる。
げんしんのゆめ 白居易
よるはてとてを つなぎあい
あなたとあそぶ ゆめをみた
あさにめざめて はんかちで
ふけどなみだは とまらない
無二の親友であった元槇(←のぎへん)の死がどうしても受け入れられない白居易が、その死から8年ののち、うたった詩。
小津さんは砂浜に描いたドアの向こう、その奥のオチさんの姿を思いだせない。かえらぬひとになったけど
よみのせかいは もことして
だれのかおやら わからない
白居易のふるえやまない舌がうたった詩は、愛することと憎むこと、そんな泥臭い感情にやみくもに突き進むよう
平べったい砂絵が、象徴的に向こう側の奥行きを暗示しているという。
⑩ 空気草履と蕎麦
実像のよくわからない空気草履からの蕎麦の連想は、単に蕎麦色というだけの理由。筆者も気が引けるというくらいの。連想は自由だ。
蕎麦打ちの素晴らしさを伝えようと、かの新井白石が頑張って作り出した誇張表現の奥義の作品を、小津夜景が白石に負けじとばかりに想像力たくましく解説してくれる。
新井白石は、もしや笑いながら洒落でつくり、お酒の場で弟子たちに披露してはいまいか、山上憶良の宴の退出の歌『憶良らは今はまからん 子泣くらん、、、』のように。わたしも想像をたくましくする。
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