短編小説『無意味な慰霊祭』

自衛隊のある部隊の広報がSNSに書き込んでしまった些細な誤字。
しかし、それが日米関係に重大な亀裂を……??
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「うわあああ……何だ、それはッ⁉」
「ずびばぜん……わだじはどうなっでぼよいので……がぞぐどぶがだげばごろざないでぐだざい」
 マスミとサヨクどもに叩かれている某部隊の広報によるSNSでの失言事件。
 その連隊が属している師団の師団長が、どうしても説明とお詫びをしたいと言ってきたので……一応、時間を空けてやったのだが……。
 師団長と師団付きの将校達が、防衛省の大臣執務室に連れて来たのは、明らかに拷問か暴行を受けているようにしか思えない問題の連隊の連隊長だった。
 口からゴボゴボと血を流しながら、聞き取りにくい口調で言ってるのは「家族と部下だけは殺さないでくれ」という事らしい。
「おい、これ、ここまでやる必要が有る失言か?」
「はい……場合によっては……日本に3発目の核爆弾が落ちます」
「何で?」
 デスク上のPCでニュースを検索。
 例の「失言」とやらの詳細を、もう1度確かめる。
『約八十年のこの日、大東亜戦争のあの激戦で、日米両軍の数多の英霊が亡くなったこの地で合同慰霊祭が行なわれました。我が連隊の先人達も、あの戦いに参加していました。ここに哀悼の誠を捧げます』
 それが失言の内容だった。
「大東亜戦争がマズかったのか? でも、今の御時世、そんなのを問題にする奴らの方が少数派だろ?」
「問題はそこでは有りません」
「じゃあ……ああ、自衛隊と旧軍は、表向きは別組織の筈なのに『我が連隊の先人達』とやっちまったからか?」
「あ……」
「『あ』? 何が『あ』だ?」
「言われてみれば、そこも問題かも知れませんが……本題に比べれば……」
「どこが問題なんだ?」
「実は、アメリカ国内で、ある都市伝説が有りまして……」
「それで……」
「自衛隊の制服組の間では旧軍の関係者より、その都市伝説が事実だと申し伝えが、ずっと有りまして……その……」
「だから何が言いたい?」
「問題は『英霊が亡くなった』です」
「はぁ?」
 ……。
 …………。
 ……………………。
 一体、どう反応すればいいんだ、この意味不明な状況に?
「死者の霊が『亡くなる』とは、どう云う事だと思われますか? 生者ではなく、死者が亡くなるとは……」
「ただの書き間違いだろ、話は終りだ。その哀れな連隊長の処分は外部にバレないように適切に行なえ。はい、解散」
「ですが……」
「何だ?」
「アメリカにも日本語が出来る者など山程居まして……」
「だから、それがどうした?」
「既に、あの『失言』は英語に翻訳されてSNSで拡散されています」
「その事のどこに問題が有るんだ?」
「大臣、お取り込み中、申し訳ありませんが、在日米軍総司令官経由で、アメリカの戦没者遺族会から意味不明な問い合わせが……」
「今度は何だ?」
「はい、『先の大戦で、使? 本当ならば、?』と……」

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