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K-151 ホーマー胸像

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石膏像サイズ: H.52×W.32.5×D.29cm(原作サイズ)
制作年代  : ローマンコピー(原作は紀元前2世紀頃)
収蔵美術館 : ルーブル美術館
出土地・年 : ローマ

古代ギリシャでも最古の詩人とされるホメロス(Homerus , Homer B.C.800-750年頃の人物と推定されている “ホーマー”は英語読み)の彫像です。紀元前2世紀頃のオリジナル作品のローマンコピーと推定されています。

このホメロス像は、教皇ボニファティウス8世を輩出したことでも有名なローマの名門貴族カエターニ家の城壁から発見されたことから“Homer Caetani”とも呼ばれています。当初はアルバーニ家のコレクションとなっていましたが、教皇クレメンス12世が買い上げて自身のコレクションとした後、さらに18世紀末のナポレオンのイタリア半島への侵攻によってパリへともたらされ、ルーブル美術館の収蔵品となりました。

ホメロスは、古代ギリシャ文明最大の文学である「イリアス」と「オデュッセイア」という2大叙事詩を残した人物とされています。ホメロスに関しては諸説あって、そもそも実在していた人物なのかどうかも不明確で、二大叙事詩についてのホメロスの関与の度合いも本当のところはよく分かっていません。それでも紀元前6世紀の頃には、この二大叙事詩とホメロスという名は結び付けられるようになり、盲目の吟遊詩人であったことなどが具体的に語られるようになっています。ホメロスの功績は、それまでシンボル的な存在だったギリシャ神話の神々に、人間に近い生き生きとしたキャラクターを与え、後世の美術などに大きな影響を与えたことです。我々が一般的に”ギリシャ美術”と呼ぶものは、多くの場合がこのホメロスの世界観に影響を受けて生み出されたイメージなのです。赤絵の壺の図像や、パルテノン神殿の表情豊かな神々の姿も、みなホメロスの提示したイメージが無ければずっと違ったものになっていたでしょう。

ホメロスの残した二大叙事詩は、紀元前18世紀~13世紀頃に起こったとされるトロイア戦争にまつわるお話です。「イリアス」では、ギリシャの英雄アキレウスを中心に展開するトロイア戦争の様子が、「オデュセイア」では、そのトロイア戦争で活躍したオデュセウスが故郷のギリシャ・イタケへ帰還するまでの様子が語られます。アングルの描いた下の絵画(フランス・新古典主義を代表するドミニク・アングル作 「ホメロス礼賛」 1827年)は、たくさんのことを物語っています。画面中央のホメロスを中心に、古代ギリシャの政治家、哲学者が囲み、さらにその中にはアレキサンダー大王、ラファエル、ダンテ、モーツァルト、シェークスピア、そして自国のモリエール、ラシーヌ、といった古今東西の偉大な文化人がズラリと描かれています。これはホメロスを出発点にした古代ギリシャ文明、そこに連なる西洋(キリスト教を中心にしたヨーロッパ)文化の全体像を提示して、さらに自国フランスがそういった古典・古代から続く文化の正統な継承者であることを高らかに歌い上げている作品なのです。このように西洋文明にとっては、ホメロスというのは根源的で重要な存在なのです。

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ルーブル美術館収蔵 石膏像の元となったホメロス像 大理石像
(写真はWikimedia commonsより)


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