見出し画像

折れずにしなる───『マッチ売りの少女』稽古場ブログ

はじめまして。
劇団木霊71期1年代の乘峯志保と申します。
先日、  早大劇研×劇団木霊『マッチ売りの少女』
の稽古場にお邪魔しました。
今回は、とても刺激的で面白かったとある日の現場の一部を記録できたらと思います!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    伸身/集中
急な雨の止んだ17時前、稽古場近くで豚汁を啜るうりのつるさんに居合わせました。今日なんか調子出ないンだよねと言う彼女の靴下は赤色で、この日の服装のテーマは「ビタミン!」

この日はダブルキャストのうちBグループ(うりのつる・韮崎大輔)の稽古でした。

音楽が流れて、アップが始まります。
奔放に倒立を決めるうりのつる。自在に四肢を翻すDJ傍見秋。鏡に正対して静かに己と向き合う韮崎大輔。その姿こそはアース・ウィンド・アンド・ファイアー。彼らの舞うSeptemberは私に10月を忘れさせました。

温まっていくフロア

お馴染みのゼロ歩行(前回までのブログ参照)は20分くらい続いたでしょうか。藤枝拓磨さんのさり気ないアドバイスが合いの手のように場の集中を高めるので私まで集中していつまでも見ていました。特に初めて見た韮崎さんの、脱力感がありながら揺らぎのない滑らかな歩行には目を奪われました。演劇でも舞踊でも、人が動いているのを観るというのは全身に張り詰める集中力とその持続に惚れるみたいなところがあると思うのですが、彼らは本番もきっとちゃんと惚れさせてくれると思います。

ゼロ歩行を終えたところで扉が開いて、入って来たのは樺香さんです。ここから徐々に、稽古場が動き出します!


    非言語/空間
次のアップは当公演の演出家小島淳之介さんにより少し実験的なものになりました。空間を万遍なく使うように歩き回るミザンスメニュー×たけのこニョッキ。
なんと私もその中に入れて頂くことになり、かなり緊張しました。(嘘だろ、と思いました)

初めは上手くいかないものです。どうすればいいかわかるのにどうすればできるのか誰もどうにも分からないような時間がありました。その焦れったさに私はもう新人訓練を思い出して身がフワッとしましたが、やはり彼らは新人ではありません。マッチの火がなかなか着かなくても、焦らないのです、はい? 
「そもそもこのメニューの意味は」
「最終的に何を実現したいのか」
「そのためにまず注力すべきは」
なんとなくやるということが決してなく、稽古を通してそれはこの座組に通底していることなのだとわかってくるのですが、彼らは目的と過程をどちらも真摯に突き詰めて大事にしているんですね。誰も投げ出すことなく全員でそれが徹底されている現場は稀有なのではないでしょうか。みんなが同じくらい悩み考えている、同じくらい投げかけ答えているという印象を与えるのはすごいです。

誰かは裸足です

だんだん、歩けるようになってきました。場への信頼感とよい緊張感が生まれ、育ち、遂にニョッキも達成されました。なんでしょう、空気の粒が食べられそうな赤外線が見えそうなあの感じ、落ち着いた高揚があります。
気概と冷静さを併せ持った人たちが一緒に場をつくっていく中に入れて、よい経験をさせていただきました。(嘘だろと思ってすみませんでした)


    歴史/現在
休憩を挟んで、ホワイトボードが出てきます。
稽古冒頭から小島さんと藤枝さんが話しながら書き込んでいたのは、大きな図でした。それは私が見たかったもの……!

聴・考・悩の輪

今回稽古場見学をさせていただくにあたり、私は気になっていました。
どうしていま、このメンバーで『マッチ売りの少女』なのか?  歴史をどう受け継ぎ、何を見せるつもりなのか? 

ホワイトボードには別役実と鈴木忠志の名前、そこから伸びる演劇の枝。60年代と現在の条理と不条理。感じる・考える・信じる。言葉、言語。
小島さんが話し始めれば図がどんどん紐解かれ、私が考えていたことなど優に必然性をもって、話はいつの間にか今いる稽古場に到着しました。
そこからさらに話し合っていきます。いくつかの参考動画も見ながら、言葉と身体と感情について。役と役者について。演じるということについて。この世の稽古をぜんぶやってしまうつもりなのかと思うほど本質をがしがし抉っていくので私も一緒に考えてしまって、面白かったです。


    実践/期待
それを踏まえた台本稽古は、勿論面白かった……
試しては崩し、組み直し、言葉と身体がくっついたり離れたり、そのなかでしっくりくるものを実感で掴んでいく。何度も更地に戻りみなさん苦しんでいましたが、見ていて楽しかったです。
樺香さんの艶やかな声、すごく魅力的ですね。

うりのさんと韮崎さん


21時半、稽古が終了しました。
「2週間前でこれは……やばい」
冷えた廊下でなんともいえない角度に唇を引き伸ばしてうりのさんは呟きましたが、私は無責任にわくわくしています。一回の稽古を見るだけで、彼らがつくるものが面白くなるのは容易にわかってしまったからです。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

いまを生きる彼らが『マッチ売りの少女』を上演する、演じるということがどんな意味をもつのか、とにかく目撃することです!

(文責:乘峯志保)



早大劇研×劇団木霊『マッチ売りの少女』
主催:翠 小島淳之介
潤色・演出:小島淳之介
作:別役実
企画:花城凛
日時:10/27  19:00 A
    28 14:00 A 19:00 B
    29 14:00 B 19:00 A
    30 13:00 A 17:00 B
場所:早稲田小劇場どらま館
料金:一般 2000円 学生 1000円
出演
A 齊藤真菜香 ダニエル 樺香[カコ] 傍見秋
B うりのつる 韮崎大輔 樺香[カコ] 傍見秋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?