品質管理と技術継承に思うこと

毎年のように品質管理の不正がニュースになっています。でも、その実態を見てみると、単にずさんな管理をしていた訳ではないケースがあるんですよね。
一方で、ずさんな管理をしている企業の方と仕事をしていると、ニュースになっているのは氷山の一角に過ぎないのではないかと疑ってしまいます...

背景には、よく言われている過剰品質、そして、低コスト化と人手不足という複数の要因が絡み合っていることがうかがえます。
そして技術継承ですね。ここが出来ていなければ品質どころではないですよね。

2年前の日経ビジネスの記事ですが、業界は違うものの、僕も同じ問題に何度も直面してきたので、どこも似たような問題を抱えているんじゃないかと推測されます。

僕は主に研究をやっていますが、開発品の現場移管や製品トラブル対応(例:純度や強度の規格外れ、異物混入などの調査・分析、対策の立案)などで何度も製造現場に関わっています。
製品トラブルで夜勤対応したこともあります。
突発的なものだったので、朝9時から夜中の2時まで分析・データ解析をやりましたw

色んな企業の現場(一緒に研究開発をした企業も含む)を見ていると、製造現場が多くの問題を抱え、そして疲弊しているのを目の当たりにします。

〇技術継承問題

熟練者の退職に伴う問題発生は、その人が在職中に何も対策をしてなかったから。
なんですけど、やってないところが意外と多い気がします。
退職間際や退職後に考えても、もう遅い...
よくあるのが、操作をマニュアル化してない上、出来る人が一人しかいなかったので、担当者が居なくなると誰も出来なくて苦労するというケース。
これは論外なんですが、現職を含め、3社でそういうことがありました。
入社した次の日に、「これをやって欲しいんだけど、やれる人が誰もいなくて、マニュアルも無いんだよ。なのでお願いします。」
なんて事もありました。「なので」じゃないよw
僕は自分のやってることは必ず写真付きのマニュアルを作成します。
それは自分のためにもなりますし、しばらくやってなくてもマニュアルを見ればミス無く作業や実験が出来ます。
そして、他の人への引き継ぎもし易くなります。
以前勤めていたところであったことなんですが、複雑な操作とコツが必要な特殊分析機器がホコリをかぶっていました。
「これ、持ってるところ無いから、分析依頼を受ければ利益を出せますよ。なぜ使ってないんですか?」
と聞いたら
「前に担当していた人の引継ぎやってなくて...。しかも、マニュアルを紛失してるんだよ。簡単に扱える装置じゃないから、放置状態になってる。」
唖然としました。なんて勿体ない......
その当時大量に研究案件を抱えていたので、余裕が出来たら自分がその装置を使おうと思っていましたが、そのときはやってきませんでしたw

一方で、ちゃんと対策しているところは、マニュアルに加えて、動画を撮ってるんですね。
操作を様々な角度から撮影し、解説も加えてポイントが分かりやすいように工夫している。
文章と写真だけでは分からないことも、一目で理解できる
今は手軽に高画質の動画が撮れるようになってるので、積極的に動画を活用すべきだと思いますね。

そして自動化
人の手や判断を必要としない部分を増やすことは重要だと思います。
幸い(?)製造と検査を可能な限り自動化しているところと、ほぼ全て手作業でやっているところ(データも紙に記入...)両方の会社を経験したので、その差の大きさを実感することができました(しかもほぼ同じ製品でした)。
自動化したところの方が、当然ヒューマンエラーが少なく、新人も重要な部分だけに集中出来るから、製造現場を把握しやすくなっていました。
そして、手作業でやっているところは感覚的な部分があり、操作する人によって品質に差が出ていました。

〇顧客の無理難題

これが一番問題だと思います。
無理な要求に答えようとして、品質管理をおざなりにしてしまう...
実例を挙げると
〇1ヶ月が40日あることを想定して製造依頼をしてくる
〇顧客から送られてくる原料を使って製品を作るのに、納期の数日前に原料を送ってくる(作るのに一週間以上かかるから納期には間に合わない)。
〇原料が来なかったり、違う原料が送られてくる→催促や確認の連絡を何度しても返答が無い。
〇休まず、夜も働いて納期に間に合わせろ、と強要してくる。
〇初めて作るものなのに、100%の成功を要求してくる(しかも納期は短い)。無理だと言うと怒る。
〇半額以下にしろと執拗に要求してくる。何度断っても諦めてくれない。しかも口調が横暴。
〇先週納品した製品(数百キロの樹脂原料)を紛失したから同じものを直ぐに作って来週納品してほしい→断ると、あんたらはいい加減な会社だ、と怒る(いい加減なのはそっちじゃないか...)。


とまあ、信じられないものばかりですが、他にもたくさんありますw
そういう無茶を言う会社との取引は止めました。当然です。
ただ、簡単には止められないケースもあって、その時が一番困ります...
そして、こんなことが続くとスケジュールは無茶苦茶になり、機器のメンテナンスや技術継承・レベルアップの教育時間が取れなくなります。
何より、トラブルが起きるとただでさえタイトなスケジュールがさらにタイトになり、ミスも頻発します。
仕事に、いや顧客に振り回され続けるんですよね...
結果的に、品質は低下する...

最悪のパターンは、無理な要求に答えるため、データを改ざんすることです。この場合、メーカー側だけが悪いとは言えないですね。

最新の分析機器でも不可能な精度を要求されるケースも多々あり、案件を断れない立場の企業がデータを改ざんすることがあります。
ニュースになったことのある品質管理不正でも、そういうケースがあると聞いたことがあります。
中には、不可能なのを知っていて無茶な精度を要求する人もいます。

なんというか、とても同じ人間とは思えない思考回路で、まさにモンスターです。
そして、そういうろくでもない顧客のほとんどが日本人です。
ぼくがたまたま遭遇してないだけかもしれませんが、海外のお客さんの方がはるかにまともで、支払いも良いです。考え方や習慣の違いに戸惑うこともありますが、大きなトラブルになったことはありません。慣れの問題だと思います。小さなトラブルは何度かありましたが、対応に困るほどでは無かったです。
しかし、日本人顧客の無理難題には慣れません...
可能な限り無視して関係を断ち切ります。

売り上げは大切だと思いますが、現場の状況とキャパシティもよく考えて仕事をやり繰りすべきですよね。
ということを社長に言って、嫌われましたw
「昨年度の最高益を越えないといけないのに、何を言ってるんだ」
立場上、そうしないといけないんでしょうけど、そのときの最高益は偶然が重なったものだったので、それを越えようとすること自体に無理があったんですよね(前々職の話です)。

〇増加・厳格化する規制と規格、経営陣は現場を見て欲しい

RoHS指令やREACH規則という、化学物質を規制する制度があります。
各国独自の制度も合わせると膨大な量になります。
毎年のように規制物質が追加・規制強化が行われ、その度に対応項目が増えます
はっきり言って、どの規制もやりすぎです。
神経質すぎるものが多く、このままだと近い将来、何も作れなくなります。
中には難燃剤など、安全を担保している物質も対象になっていて、規制することでかえって私たちの安全を脅かすケースが出てきています。
そして、規制の強化に伴って現場の仕事は増え、対応不可能になりつつあります。
しかし、経営陣は現場の状況を見もせずに何でもかんでも対応しようとします。
前述した人手不足や顧客の要求もあり、キャパシティを越えてしまっているのに、さらに仕事が増えます。
結果として、データを改ざんすることになります。
出来ないと断ることが出来れば良いんですが、組織が硬直化し、問題のある管理者が居ると不正が横行し、経営陣はそれを知らないという状況に陥ります。
休職者と退職者が続出して崩壊した現場は悲惨です...

行き過ぎた規制、無茶な顧客要求、考え無しに最高益を更新し続けようとする姿勢、
まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」ですね。

経営陣は見るべき視点が現場と違うのは当然だと思いますが、基本となる現場を無視して売り上げを優先させるのは愚策だと思います。
現場の声を上げ易い仕組み作りが一番重要ですね。
「無理だけど上司には言い難い、でも顧客の要求に応えないといけない。じゃあ改ざんしてしまおう...」
こうなるともう止まらないんですよね。
僕はそうならないように研究の傍ら、現場の状況も気に掛けるようにしています。
全体を見渡す立場の人がしっかり把握し、舵取りをしてほしいですね。

読んでいただけるだけでも嬉しいです。もしご支援頂いた場合は、研究費に使わせて頂きます。