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御社の「業務プロセス改善」はなぜ頓挫したのか?~第3回 納得できる業務プロセス改善の進め方②~ECRS(イクルス)の原則~

業務プロセス改善に限らない話ですが、やはりセオリーというものがあります。セオリーとは、過去の先人たちが失敗から得てきた教訓であり、活かさない手はありません。今回はその中の一つであるECRS(イクルス)の原則を紹介します。

ECRS(イクルス)の原則とは

ECRSは、

  1. Eliminate:排除する

  2. Combine:結合する

  3. Rearrange:入れ替える

  4. Simplify:単純化する

の頭文字を取った造語であり、改善の4つの要素を改善効果の高いものから順に並べた枠組みのことです。従って、業務改善をする際には、これらの考え方に順番に当てはめて改善のアイデアを出していくと良いと言われています。

今でこそ業務改善のフレームワークとして知られていますが、起源は生産技術(IE:Industrial Engineering)の作業研究であったと言われています。製造業にとって必要となる現場の実際の作業を改善する考え方は、業務プロセスを改善する考え方にも応用できるということです。製造現場の作業研究や作業改善を日常的に行う製造業としての立場からも、ぜひ知っておきたいフレームワークですね。

 何はともあれまずは排除(Eliminate)を考える

「この業務(作業)なくならないか」を最初に考えるECRSの原則には明確な理由があります。まず、問題が潜む業務プロセスそのものがなくなることが改善の効果として最も大きいことが理由の一つ目です。もう一つの理由は、最もコストがかからないことにあります。作業であれ業務プロセスであれ、「なくす」場合に必要なコストは基本的にゼロで、コストがかかったとしても限りなく小さいのです。これら二つの理由により、問題となる作業や業務プロセスをまず排除することを考える必要があります。

業務プロセス改善をしようとする現場に居合わせると、その業務をすることが当たり前になっており、「なくす」という発想が生まれないことがあります。「この業務はなくせない」と思い込み、効果がある改善に進めないことはよく目にする光景です。かつては必要であった業務も、さまざまな技術や環境が変化してきた今、本当に必要な業務なのか、ただ慣例化しているだけではないのか、よく考える必要があります。その際、第三者をメンバーに加えることも有効な手段と言えるでしょう。「そもそもなんでその作業してるんですか?」「じゃあ、こっちの業務がこうなっていれば必要ないってことですか?」など、素朴な疑問を持ち、それが改善の糸口になるためです。本来、繋がっている業務プロセスに対して、改善対象の特定の業務のスペシャリストが集まっても出てこない発想を得るための別の視点が必要になります。

この第三者に最も適しているのは、その業務プロセスに対して責任と権限を持つ経営層なのです。そのサポートとして外部のコンサルタントを付けることも良いでしょう。くれぐれも、コンサルタントに丸投げしたり、特定部署に所属していて全体の権限を持たないメンバーに責任を押し付けないようにしたいものです。

当事者の視野と第三者の視野

「一緒にする」「順番を入れ替える」「単純化する」とは

排除することを考えた後、排除できない作業であれば、次に「一緒にする」「順番を入れ替える」「単純化する」の順で改善案を考えていきます。

例えば、TPM活動でも定義されている日常の清掃と点検を同時に行うことや、定例ミーティングと安全ミーティングを合わせて1回で行う、などが「一緒にする」に相当します。

「順番を入れ替える」の例としては、承認ルートの変更が挙げられます。特に、部署をまたぐ承認ルートの場合、手戻りが発生するなど担当者にとってムダが発生している場合が多くあります。部署という壁に囚われずに業務のプロセスを変えなければならない良い例でしょう。

そして最後に「単純化する」です。業務の標準化やテンプレートを使用した帳票の入力、そしてITツールの使用などがこの単純化の改善になる。

昨今では、IT活用・DXなどの言葉が先行しているせいか、IT導入を目的とした業務プロセス改善になっており、そもそも必要のない業務がIT化される失敗をしばしば目にすることがあります。

「デジタル化するために現在行っている作業日報の入力をタブレットでやろう!」などはその典型的なダメな例なのです。

ECRSの順番で考える必要があるはずが、なぜか真逆の「単純化」から考えようとしてしまっています。

作業日報の例でいえば、そもそも作業日報が必要か、そもそも現場からは何の情報を得る必要があるのか、その現場の情報を得る方法は作業日報しかないのか、作業日報が必要であれば入力させる項目は何が必要か、などの根本的な情報の必要性を考えるとともに、入力された情報を誰がどのように見るかを想定し、アウトプットまでを澱みなく流れるプロセスを考えた上で、タブレットなりスマートフォンなりで作業日報を入力させるなら良いでしょう。

ところが、改善をいざ進めようとすると「今のこのフォーマットをそのままデジタル化したい」に目的が知らないうちにすり替わっていることがあります。そして、慣習的に不要なデータを入力させ、なくなると思っていた転記の作業も入力された情報を編集する作業に置き換わり、結局これまで通りのアウトプットになるようにExcelで体裁を整える作業をする。こんな事例は枚挙にいとまがありません。

ECRSの順番をしっかりと意識することに加えて、俯瞰的に全体最適を意識することを心掛けたいですね。

業務プロセスを俯瞰する

ECRS活用の注意点

ECRSの手法もあくまでもフレームワークであって万能ではなく、その使い方が重要になります。

まず、目的と手段をしっかりと確認することが重要です。これは、連載の第一回にも書かせていただいた、コストダウン一辺倒が目的になってもダメだということも含みます。

現場が大事とはいえ、現場の意見を聞くこと、そして現場の意見を聞き過ぎないことも大切なことです。改善の対象業務のスペシャリストは視野が狭くなっている可能性があり、意見を鵜呑みにしてはいけないこともしばしばあるのです。一方で、部署の壁を排除して業務プロセスに注目すると、一部の業務を改善することで繋がっている別の業務に影響を及ぼすことがあるため、そうした現場の意見にはしっかり耳を傾ける必要があります。その上で、反対する社員がいれば、全体最適の観点なども含めてしっかりと説明できるようにしましょう。こうした責任と権限を行使するために、やはり業務プロセス全体に対する責任と権限を持つトップ層が主体的に進める必要があるのです。

次回は、業務プロセス改善の成功事例とともに、改善に至るまでに苦労した点を紹介していきます!

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