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敵を知り己を知れば百戦殆からず

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こんにちは、源です。「敵を知り己をしれば百戦殆からず」は孫氏の格言です。敵の実力を把握し、自分自身の実力も把握して戦えば、何度戦っても勝てるということです。

一級建築士製図試験においても、試験元が求める一級建築士像を把握し、自分の実力を分析したうえで、足りない能力を補完していけば必ず合格できます。今回は、試験元の考えを分析し、自分の実力の把握のしかたと試験勉強のポイントを提案していきます。

製図試験における記述の変遷

まずは、攻略すべき「計画の要点等」の歴史を学んでおきます。現在の製図試験のように、A3解答用紙が用意される形式となったのは平成21年度からです。

それ以前の試験では、製図用紙に引き出し線で補足事項を記入する形式でした。構造計算書偽装問題を踏まえ実施された平成21年の建築士試験改革により、試験内容が大幅に変更されました。

試験時間が5時間半から6時間半に1時間延長されました。さらに、図面だけでは確認できない計画、構造、設備に関する知識を詳細に問うため、記述問題が追加されました。

なお、記述問題を導入するにあたり試験元がどのような能力を求めるのかは、以下の文書を読むことでわかります。

一級建築士試験設計製図内容の見直しの具体的対応について
建築設計全般に関する基本的な知識・能力等を確認するために、「設計条件」において、構造設計、設備設計に関する設計条件を設定し、これに 対応して、以下の図面等を要求するものとする。
計画の要点等の記載項目、記載内容の充実
建築計画(ゾーニング、動線、景観への配慮等)、構造計画(構造種別、架構形式、 耐震計画等)や設備計画(空調設備、給排水衛生設備、防災設備、電気設備、環境 負荷低減等)に関し配慮した事項、周辺環境に対し配慮した事項などについて、記 述(又は簡易な図示)させる。
【平成21年6月19日 中央建築士審査会】

こうして、現在の10問程度の記述が要求されるようになりました。なお、任意の補足として求められた図的表現は、令和元年試験からは必須に変更されており、必ず記入することとされています。

試験元が求める一級建築士像は

平成21年の試験改革に先立って発表された文書を紐解くことによって、試験元が求める一級建築士像がわかります。

一級建築士試験の試験内容見直しについて
[見直しの基本的考え方]
建築設計の高度化・専門分化に留意した上で、建築設計全般に関する基本的な知識・能力等を確認するとともに、専門分化している建築設計を調整し、取りまと めていく基本的な知識・能力等についても確認できる試験内容とする。
[見直しの方向性]
現行の設計課題における要求内容は概ね維持したうえで、周辺環境に配慮した建築計画、配置計画等を要求することとする。現行の設計課題に加え、記述・図的表現等の手段により、構造設計や設備設計の 基本的な能力を確認する出題を行う。
【平成19年12月10日 中央建築士審査会】

以上から、「計画の要点等」で求められる能力は、あくまで基本的な能力です。構造、設備に関する知識を有し、専門分化された建築設計を統括する能力を求められています。

記述試験対策で必要とされる構造、設備の知識は基本的なものです。構造設計者、設備設計者のような専門知識は不要です。

実務で必要なにしかと試験で必要な知識は異なるということを、まず理解しましょう。自分の知識量、レベルを把握したうえで必要な勉強だけをしましょう。

製図で必要とされる3つの力

製図試験では、エスキス力、作図力、記述力の3つの力が必要とされます。これらの力がバランスよく整った者が合格を勝ち取っていきます。どの力を先に養成すべきかを考えます。

作図力、記述力については、日々の訓練で実力は積み重ねていくことができます。しかしながら、エスキス力だけは、どれほど訓練を積み重ねても大失敗してしまう可能性があります。

エスキスの失敗は不合格に直結してしまうので、エスキス練習ばかりに注力してしまい、最も短時間で習得できるはずの記述の勉強が後回しにされがちになります。

では、エスキスに失敗する原因は何でしょうか?エスキス手順は確立できているという前提ですが、設計条件の読み落とし勘違いに一番の原因があり、これらを誘発するのは「あせり」です。

エスキスを失敗しないためには、焦りを生まないように、十分な時間を用意することが重要です。訓練によって記述、作図にかかる時間を削り、エスキスに充てる時間に余裕を持たせます。

また、記述では動線や設備知識を問う問題がよく出ます。これらの記述に関する知識がエスキスや作図をするときに役立つことがあります。

例えば、建築物の内部動線のセオリーを知っていればプランニングに役立ちますし、各空調方式の特徴を理解していれば、必要となる機械室や設備シャフトの配置に迷うことがありません。

さらに、記述問題では法律の知識も要求されことがあります。選択問題である学科試験とは異なり、製図で問われる法律知識は、具体的要件に当てはめて判断する深い理解が必要です

記述対策を早期に始めることで、製図試験に必要となる深い法律知識も整理できるため、記述対策だけではなく製図対策にも役立ちます。

製図合格者が知っていたこと

計画の要点等の重要性は、ここ2年(令和元年、2年)は特に高くなっていると思われます。合否を分けるランクⅠ(34.2~36.6%)とランクⅡ(3.0~5.6%)の差はほとんどありません。

ランクⅡとされる図面では、法令の重大な不適合や室の欠落はないため、記述で差がついてることが考えられます。

記述を得意になることで、一つの武器を得ることができます。計画がイマイチなものであったとしても、記述でマイナス要素を補うだけの説明ができたならば、減点を回避することができます。

合格発表後の声として、「図面でいろいろ失敗してしまったが、なぜか合格できた」や「復元図では合格可能性が高いと判定されたにもかかわらず、不合格だった」などが聞かれますが、これらは記述に起因している可能性が高いです。

記述問題に関して、合格者の皆さんが知っていたことは下記の5つです。すべて当たり前のことばかりですが、確認しておきます。

1. 解答用紙はすべて埋める
2. 頻出問題は確実に得点する
3. 過去問を中心に勉強する 
4. 新規問題をスルーできる判断力がある
5. 記述前に課題文とプランの整合チェックを忘れない

1.解答用紙はすべて埋める
計画の要点等の解答用紙に一つでも空欄があると、「未完」と判定されて、一発でランクⅣとなる恐れがあります。令和元年の試験からは、補足のためのイメージ図記入欄にも「必ず記入のこと」と記載されています。

正解かどうかはさておき、解答用紙をすべて埋め、空白の解答欄は存在しないようにします。分からない問題があっても、なんとか解答用紙を埋めて、採点の土俵に乗ることを優先させます。

解答欄の何割を埋めるべきかの議論はありますが、8割以上を埋めることを推奨します。ただし、余りに時間がかかってしまうような場合は、書けた部分までとし最後に追加するような、臨機応変の時間調整が必要です。

2.頻出問題は確実に得点する
計画の要点等には「建築物の構造種別、架構形式、スパン割り」のように、ほぼ毎年、出題されるものがあります。これらの問題ははとんどの受験生が正解するので、取りこぼしは許されません。

さらに、頻出問題ではノータイムで手が動くくらいに練習していると、時間を稼ぐことができます。逆に、頻出問題を考えながら記述しているようでは、周りの受験生から後れをとってしまいます。

3.過去問を中心に勉強している 
計画の要点等の出題は、過去に出題された問題を理解できていれば対応できる場合がほとんどです。勉強すべきは、過去問を中心として十分理解することです。

勉強の順序としては、頻出問題から始め、定型問題を完了した後、余裕があった時のみ、新規問題の対策をするようにしましょう。

4.新規問題をスルーできる判断力がある
新規問題の出題は、毎年、1~2問はあります。誰にとっても初めての問題なので、驚いているのは周りの受験生も同じです。このことに気付き、落ち着いて対処できるかが明暗を分けます。

誰しも自分と同様に困惑しており、ほとんどの受験生が正解にたどり着けないと割り切ればいいのです。新規問題でタイムロスすることなく、確実に得点できる問題や作図に大切なの時間を当てます。

また、前のポイントで述べたように、過去問中心の勉強を進めていれば、問題を見た段階で今まで出題されたことがない新規問題を判別できます。相対評価と言われている製図試験では、頻出問題は確実に得点し、新規問題はスルーしてかまいません。あわよくば、部分的に点数がとれる程度の気持ちで、思いつきたことをサッとかいて終わりましょう。

5.記述前に課題文とプランの整合チェックを忘れない
記述内容は、課題文と自分のプランが整合している必要があります。記述を始める前に、提示された条件がプランとあっているかをチェックします。

チェックの際、疑問が生じる場合があります。明らかに整合していない場合はエスキスに戻って修正します。しかし、誤解を受ける可能性がある場合には、記述で自分の考えを説明することで減点されることを防ぐことができます。

採点方法が減点法式といわている製図試験では、減点を防ぐことは非常に重要なこととなります。

記述で必要とされる瞬発力

記述の解答は限られた時間の中で、手を止めることなく書く必要があります。スラスラと文章を書くには、文才が必要と思われますが、記述の解答をすることだけでいえば、文章をひらめくための瞬発力は必要ありません。

1.解答文のフォーマットを頭に入れる
2.キーワードとなる建築知識を覚える
3.設計条件に合わせてフォーマットにキーワードを組み込む

記述で必要とされる瞬発力は、設問に応じて引き出しの中からキーワードを取り出し、フォーマットに当てはめる能力です。この流れを、よどみなくできるようになることを目指します。

記述の即効性

エスキスや作図の力を伸ばすには、多大な努力と時間が必要です。しかし、計画の自由度が高くなっている近年の製図試験では、合格者の図面に大差はありません。努力の結果、非常にきれいな図面をかけるようになったとしても、採点における「図面の印象」は微々たるものと思われます。

逆に、記述問題で求められるキーワードが一つ書ければ、図面の印象をひっくり返す点数を稼げるはずです。キーワードを覚えることには、それほど多くの時間は必要ないので、記述勉強のほうが即効性があります

記述は勉強した分だけ得点力が上がりやすい分野です。また、実力の向上を実感するまでの時間は、エスキスや作図に比べて短いので、早めに始めて得点源にしておきましょう。記述の得点力アップするために始めるべきことは以下の項目です。

1.きれいな字を速く書くために、日頃から手書きとする
2.キーワードとなる建築知識を蓄える
3.文章のフォーマットを覚える

これらのことを順に習得していくことで記述の実力は上がります。しかも、長い時間ではなく、短時間の積み重ねでいいので、作図やエスキス勉強の隙間時間を利用できるのが記述の良いところです。

勉強のスケジュール

記述問題の勉強スケジュールは、コツコツ積み重ねることが大事です。まとまった時間を取る必要はなく、継続的に数分を用意していただければと思います。昨年のように、毎日の更新はないので、ご自身のペースで記事を読んでいただければと思います。

課題発表までの進め方としては、キーワードとなる用語を覚えるため、個別の解説記事を用意します。その後、頻出問題、基本問題を主にドリル記事を作成していきます。しっかりと基礎力をつけることで、どのような問題でも対応できるように準備しておきます。

課題発表後は、課題に沿った分野の解説記事やドリル記事を用意していこうと思います。

まとめ

記述問題への苦手意識がなくなると、記述の解答時間が安定します。余計なことを考えるず、覚えたキーワードを用いて、論理的な文を書き進めるだけだからです。

記述時間が安定すると、エスキス時間に余裕が生まれ、仮に、試験本番でサプライズがあったとしても、平常心でいつもの力を発揮できるようになります。また、エスキスや製図が順調に進んだ場合は、見直し時間が増えます。

見直しがたくさんできると、致命的なミスや細かな書き忘れをカバーでき、一点を争うこの試験では合否を変えることができます。

記述は暗記要素が多いので、くり返し同じ問題をすることが効果的です。暗記要素が多いとはいえ、理解していない浅い知識だと、本番で少しひねられただけで対応できなくなってしまいます。何度もくり返し理解度を上げることで解決できます。

実際に書くことも重要です。試験本番では極度の緊張のなかで約1時間、図面とは別に文字を書き続けなくてはいけません。普段から本番を意識して文字を書く練習をしましょう。週1回は手書きの機会を設けたいものです。

記述の勉強は計画的に進めれば、すきま時間だけで終えることができます。さぁ、ペンを取りましょう。最後まで読んでいただきありがとうがざいます。


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