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正しい技術伝承とは?|トヨタ流開発ノウハウ 第16回



皆さんの会社では技術伝承の仕組みはあるでしょうか?

 
今までの日本の製造業での技術伝承は・・・

「俺の背中を見て身につけろ!」
「図面の描き方を見て、ノウハウを盗め!」

のように、主に技術伝承される側が技術ノウハウを身につけるために、何かしらの行動をしてきました。
 
また、技術伝承をする側からOJTを受けるなどして、技術伝承している気になっている会社組織がほとんどです。

もちろん、今までのやり方を否定しているわけではありません。

「技を盗む!」といった考え方も重要で、技術伝承を受ける側の設計者が様々なことを考えながら、成長するためには必要な考え方の1つでもあります。
 
しかし、現在のこの世の中に創出されている多くの製品は、多くの機能を有し、複雑な機械構造に加え、センサなどのデバイスも絡んで、全体のシステムを把握するだけでも非常に多くの経験が必要となるでしょう。
 
果たして、このような状態で今までと同じOJTを中心とした方法で正しい技術伝承が出来るでしょうか?
 
答えは「No」です。
 
一部の技術ノウハウは伝承できたとしても、全ての技術ノウハウを伝承することは難しいでしょう。

では、どのようにするべきなのか?
技術伝承のあるべき姿を考えていきましょう。

1.  製品機能を明確化する


先ほども述べたように、現在の製品は多くの機能を有し、全ての機能を把握するためには、製品知識、経験が必要になってきます。

そこで、各製品が保有する全ての機能を視える化するのです。
 
機能を視える化するための手段の1つとして、「機能系統図」を作成するのがいいでしょう。
 
簡易的な自動車の吸気ユニット(全部品ではありません)の機能系統図を解説していきます。


吸気ユニットに必要な機能を一覧にし、機能を細分化していきます。

細分化できない状態となったら、それが末端機能です。
 
その末端機能がイコール部品に置き換わっていくことになります。
 

次に、末端機能を実現するための部品はどのような構造のモノがあるかを調査していきます。
 

機能が同じでも異なるレイアウトの車両に取り付けるためにブラケットの形状が異なっていたり、ボルトを取り付けるための穴の位置が異なったりと、多くの類似部品が存在するハズです。

過去全ての部品をまずは列挙し、差異を確認していってください。

2.  技術基準


機能系統図の作成が完了し、使用している全ての部品の列挙が完成したら、次に実施することは技術基準の明確化です。
 
技術基準とは、そのユニット、アセンブリなどにどのような技術ノウハウがあるかを明確にしたうえで、使い方を示してあるものです。

例えば、先ほどの機能系統図の中の点線で囲った機能(タンブル流)についての技術ノウハウ内容を記載すると下記のようになります(技術基準の一部のみ紹介します)。


このように機能を実現させるための構造や考え方などを記載していき、蓄積していきます。

これがコア技術として会社に蓄積することが出来れば技術伝承の一部ができたと言えるでしょう。 

しかし、この状態のみでは「あるべき技術伝承」ではありません。 

コア技術が記載されている資料が残っていたとしても、そのコア技術をどのように使うのか、使用方法を伝承しなければ片手落ちです。

 具体的な方法として、機能系統図で先ほど列挙した部品を選択する基準を明確にするのです。

「このような場合はそのブラケットを使ってOK、NG」など、可能な限りの定量的な基準を設定し、使い方を明確にしていきます。 

設計者はコア技術を学習し、さらに設定されている基準を元に設計を行っていく。 

その結果、コア技術が正しく使用された製品が完成し、脈々と技術が製品にも会社にも伝承されていきます。

 次回の投稿では、使い方の部分の詳細を解説いたします。 



講師プロフィール

中山 聡史 |株式会社A&Mコンサルト 取締役専務 経営コンサルタント
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。2015年、同社取締役に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2023年9月現在の情報です

近著





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