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関東大震災から99年|関東大震災で犠牲になった、韓国・朝鮮人を悼む|編集部

1923年9月1日、関東大震災が発生。
2022年の今年は、震災発生から99年を迎えます。
この地震で、東京だけでも6万人が犠牲となりました。
しかし、地震とはまったく別の理由で命が奪われた人たちがいます。
地震からしばらくして、町のいたるところで火災が起こりました。火災とともに人びとの口から口に「朝鮮人が火をつけて回っているぞ」という流言飛語が飛び交い、自警団が銃や刀、鎌などを持って、朝鮮人と見るやとらえ、とらえられた人びとは残酷に殺されました。
今年も犠牲になった人たちを悼む「追悼式」が、東京・神奈川・千葉など各地で開催されます。
『関東大震災朝鮮人虐殺の記録―東京地区別1100の証言』をまとめ、荒川河川敷での「関東大震災韓国・朝鮮人犠牲者追悼式」(9月3日(土))を準備中の西崎雅夫さんに話を聞きに行きました。

◆遺骨の発掘から証言集へ


西崎雅夫さん(62歳)は「一般社団法人ほうせんか」理事を務めている。1982年から、毎年9月には荒川河川敷で関東大震災時の虐殺によって亡くなった朝鮮人の追悼式を開催し、2009年には追悼碑を建てるなど、虐殺の事実を伝え、亡くなった人たちを悼む活動を続けている。
西崎さんの活動の原点には、絹田幸恵さんがいる。
足立区の小学校教員だった絹田さんは、授業で荒川放水路の歴史を教えたとき、生徒から「あんな大きな川が人の手で掘られたなんて信じられない」という言葉を聞き、独自に荒川放水路開削工事の研究をはじめた。古老からの聞き書きを続けるなかで、ある日、墨田区八広のあたりで朝鮮人虐殺の目撃証言を聞いた。河川敷に遺体を埋めるのを見たという証言もあった。そのまま放っておくことはできないと考えた絹田さんの呼びかけで、1982年7月、「関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し慰霊する会・準備会」が発足。当時大学4年生だった西崎さんは事務局員として参加し、同年9月、荒川河川敷で炎天下での発掘作業が行なわれた。
日本政府の隠蔽工作によって遺骨はすでに掘り返されて移送されていたため(関東大震災では、多くの社会主義者やアナキストも殺害された)、遺骨を発見することはできなかった。だが当日、発掘現場を見にきていたお年寄りたちに話を聞くと、次から次へと目撃証言が飛び出した。それから、付近の証言集めや追悼式の開催、追悼碑の建立に向けての活動がはじまったという。
当時集まった証言や会の活動は、『風よ鳳仙花の歌をはこべ』(1992年、教育史料出版会)としてまとめた(2021年、ころからより増補新版)。

しかし歳月は残酷なもので、目撃証言をしてくれた人たちも次々と亡くなっていった。また、会で活動するうちに、西崎さんの胸の内には、墨田区北部以外での東京全体で何が起こっていたのか知りたいという気持ちが大きくなっていったという。以来、東京都内の図書館を片っ端から訪ねて、自伝・日記・郷土資料などから関東大震災時の朝鮮人虐殺に関する証言を集めた。
そうしてみると、井伏鱒二、江馬修、野上弥生子など作家から子どもにいたるまで、驚くほど多くの目撃証言がみつかった。東京23区のみならず、多摩地域まで及び、証言は1100を超えた。西崎さんはそれらを地区別に整理し、2016年には『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』(現代書館)として刊行した。
「たしかに証言というのは歴史的史料としては一次資料ではありません。それでも読んでみたら具体的なことはわかりますよ。本にまとめるときも、一つの証言ではなく、複数の証言で重なりのあるものだけを掲載しているんです」
こう言ったあとで、西崎さんは続けた。「ただ、加害の証言はないんです」。
西崎さんは『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』のまえがきでこう書いている。


「加害の歴史を直視するのは決して容易なことではない。でも、そこからしか未来は見えてこない。私は、「殺さない」そして「殺させない」日本人として生きたいと願い、「追悼する会」に携わり続けてきた。この証言集が歴史を見つめる視点の一つを提供できたらと願っている」

『普及版 関東再大災朝鮮人虐殺の記録』より

証言集を刊行後も図書館通いを続けている西崎さん。まれにではあるが、新しい証言を見つけることがあると言う。
同書は現在、普及版として内容をそのままに販売中だ。

◆追悼文の送付をやめた小池都知事


今年は、震災から99年目だ。100年という節目の年を間近に、西崎さんの思いを聞いた。「100というこだわりはありますよ。ただそれは、「100年もたっているのに、まだこんなこともわかっていないんだよ」というマイナスの意味もあります。だからこそ追悼式は、100年たった今、何をしないといけないかはっきりしてるよね、ということをアピールする場だと思っています」
「ほうせんか」では、1982年以来、旧四ツ木橋近くの河川敷で「追悼式」を行なっている。
小池百合子が都知事に就任して翌年の2017年以降、東京都は関東大震災での朝鮮人の犠牲者に対して追悼文を送っていない。そして今年も追悼文を出さないと表明している。
「おかしいでしょ。何が起こったのか明らかなのに、それを東京都の行政のトップである人間が追悼しない、このことが絶対的におかしいんですよ。また、追悼文を送らないとするときの言い方もおかしいですよね」
小池百合子都知事は、朝鮮人の人たちを追悼する会に追悼文を送らない説明として、「都知事として関東大震災で犠牲となられた全ての方々への追悼の意を表し、全ての方々への慰霊を行なってきた」と弁明した。
(参考:都知事 今年も追悼文なし 関東大震災 朝鮮人犠牲者追悼式典

「流言飛語によって虐殺された人たちは、震災に全然関連していないかたちで殺されたんです。震災が終わり、火事が消し止められた後に殺されたんです。それなのに、「震災に関連して亡くなった」という言い方をする。これは怖いことです。虐殺の容認、虐殺の忘却というアピールになってしまいます」
西崎さんは憤りをこめて続けた。
「私なんかはまだ、「怖いな」って言っていればいいんですけど、在日朝鮮人にしてみたら明日は我が身なんですよ。自分の子どもや孫もいつ殺されるかわからない。今の日本は、そういう状態の社会なんですね」
追悼文送付停止といった政治的な問題以外にも、在特会をはじめとした民族差別主義者たちによる「ヘイトスピーチ」は、都内だけでも幾度も繰り返されている。
「だからこそ、二度と繰り返さないことを誓い、そのために何をするか、それを表明することが行政の長の役目だと思います」と西崎さんは力をこめる。
街頭だけでなく、SNSを中心としたネット空間でも、何か陰惨な事件が起こるたびに、特定の民族と事件を結びつけた悪質なデマがいまだに飛び交っている。そのたび深く傷つきおびえる人たちが実際にいることに、私たちは想像力を広げていく必要がある。

◆フィールドワーク


西崎さんが、証言の収集とともにたいせつにしているのが、虐殺の現場を歩くフィールドワークだ。バスや電車を使いながら虐殺の現場を案内することもあるという。
実際の現場に赴き、そこで何が起こったのか、証言を引きながら案内する。西崎さんによれば、参加者は行政の関係者からクリスチャンはじめ宗教関係者の人、人権問題や憲法の研究をしている人などが多いという。
「案内して話をしていると、驚かれる方が多いんです。だからまだまだ知られていないんですよね。何があったか漠然とした理解はあっても、ここでこういうことがあった、そういう具体的なことはほとんど知られていないんですよね。やっぱり証言はたいせつだなと思います」
いま、フィールドワークのたいせつさを実感している西崎さんは、もっと回数を増やしたいと言った。

今回は「ほうせんかの家」付近を案内してもらった。
絹田幸恵さんの写真を見せながら、説明がはじまった。
説明を聞きながら99年前を想う。

現在は東京スカイツリーを眺める先に火の手が上がって、大勢の人たちが今立っている旧四ツ木橋に殺到しただろう。橋の入口には自警団だ。日本語をしゃべらせて、発音のおかしいものをしょっぴいていく。しょっぴかれた人たちは土手に並べられる。縄で10人くらいずつ、つながれている。近くの温泉池に逃げた朝鮮人を撃ち殺す銃声が聞こえる。軍隊が機関銃を発射している。誰が生きていて、誰が死んだのかもわからない。生きていそうな人をトロッコ線のレールに並べ石油をかけている。火がついた。穴を掘り、死んだ人たちをそこに投げ込んでいく―。


心を現実に戻すと、川の向こうには青空が広い。秋を前に、河川は隅々まで深い緑に覆われている。これが、デマの犠牲になった人たちが眺めた最後の景色だったのか。
以下は、荒川河川敷での追悼会の概要である。ぜひ、多くの方に追悼式に参加していただきたい。

関東大震災韓国・朝鮮人犠牲者追悼式

日時:9月3日(土) 午後2時半 追悼の花籠作り
            午後3時開会 挨拶・追悼の歌(李政美・竹田裕美子)・他
            終了後、プンムル
16時過ぎから30分ほど「ほうせんかの夕べ」(ミニコンサート)あり

場所:荒川河川敷・木根川橋下
交通:京成押上線八広駅下車(各駅のみ停車)、徒歩7分

注意:1、トイレは河川敷にはありません。駅で済ませてください。
   2、写真撮影に関しては受付で許可を得てください。参加者の顔撮影は禁止です。
   3、コロナ感染急拡大・暴風雨等で急遽中止となることもあります。
判断に迷う場合は電話(090-6563-1923)で午後2時までにお問い合わせください。
追悼式の詳細は、こちらからご確認ください。


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